天才魔王VS最強勇者

【追放された皇子は、魔王となって帝国に復讐します】
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2-2》マグワナの懸賞金

公開日時: 2020年12月10日(木) 06:38
文字数:2,143

 倉庫として使っている壁穴を探ったのだが、卵と牛乳しかなかった。夕食には物足りない。ジャガイモか何か買って来ようと思った。



 マグワナを部屋で待たせて、ロドウはトビラを開けた。建てつけの悪い木造のトビラだった。開閉するさいには必ず、耳障りな音をたててきしんだ。閉める。外。まだすこし肌寒い。雨はやんでいたが、湿気の臭いが満ちていた。



 アパートの3階には、木の板を張り付けてつくられた欄干があった。欄干は、ロドウの腰のあたりまでの背丈しかなくて、外の様子を見渡すことが出来た。



 正面には背の高い別のアパートが建てられている。そのせいで、こちらは常に日影になっている。欄干から顔を出して、路地を見下ろした。冴えない冒険者たちが、行き交っているのが見えた。



 このあたりには、ロドウと同じような低ランクの冒険者ばかり住んでいるのだった。治安も良くはない。



「はぁ」

 と、ため息を吐いた。



 この日当たりの悪い景色は、いつもロドウの心を鬱屈とさせた。厳然とたちはだかる高層のアパートは、まるで自分の人生をふさいでいる巨大な壁のようにも見えた。



 こうしてマグワナからチョットでも距離を置いてみると、自分がいつもと変わらぬ日常のなかに生きていることを痛感した。この鬱々とした日常から抜け出す方策をロドウは持っていた。マグワナの誘いに乗ることだった。



(魔王になれ――か) 



 魔族の王。それはいったい、自分をどう変えてくれるのだろうか。興味もあったが、恐怖もあった。



 マグワナのような風体のヤツならまだしも、バケモノじみた風体のヤツと仲良くできる自信はなかった。そして、そういったバケモノたちに、自分が認められるかもわからなかった。



 人間が、魔族の王になんて、なれるものなのだろうか……。

 魔王となれば、敵は人間ということになるのだ。



 ドクン……ドクン……。



 自分の胸元に手を当てて、みずからの鼓動を手のひらで感じた。



 6歳のとき。母が処刑された。本来であれば、ロドウも処刑されるはずだった。皇族にとっては、ロドウを生かしておく理由などないのだ。母が、貴族たちにいろいろと手を回してくれたのだと聞いている。そうやって、つなぎ止められた命なのだ。



(ホントウなら、あの日――オレは死んでいるはずなのだ)



 事実、ロドウ・アルテイアは死んでいることになっている。周囲からはそう認識されているはずだ。



 魔王となることは、皇族たちへ復讐をするのに都合が良かった。この帝国と戦うだけのチカラを手に入れることが出来るかもしれないのだ。それと同時に、母につないでもらった命を復讐に費やしても良いのか……という気持ちもあった。



 階段を下りきった。



 ジャガイモを買うために、ストリートに出た。



 雨避けのテントを張った露店が、たくさん出ていた。夕日を受けたテントは、どこも赤く染め上げられていた。視界の節々に雨の名残である水滴が映っていた。その一粒一粒が、夕日を受けて輝くさまは、散りばめられたルビーのようだった。



 ホントウならひとつだけ買うつもりだったのだが、マグワナのことを思って、もうひとつ買い足しておいた。マグワナも人の食べ物を口にするかはわからない。もし、食べないのであれば、翌日にロドウが食べるつもりだった。



(それにしても……)

 と、ブリオーのポケットに手をつっこんだ。



 もう、わずかな金しか残されていなかった。3シルバーもする薬を買ったせいだ。金がないのも、ロドウの心を暗くする要因のひとつだった。先月の家賃の支払いも滞っている。家主は愛想の良い老爺で、無理して支払うことはないと笑って許してくれる。その気遣いもまた、ロドウの罪悪感を刺激するのだ。



 冒険者組合へ行こうと思った。



 冒険者組合に行けば、なにか仕事があるかもしれない。ロドウはFランクの冒険者なので、魔族を倒すような仕事は斡旋してもらえない。斡旋されても、スライムぐらいしか倒せない。薬草を積んだり、荷物を運んだり……ときには、赤子の面倒を見たり……。雑務も冒険者の仕事のうちだった。



 冒険者組合は、この都市の中心にある時計塔の1階部分にあった。時計塔は、まるで白銀のドラゴンがたたずんでいるような荘厳さがあった。



 この都市テンペストでイチバン大きな建物は、城塞である。その次に教会。それに次ぐのが、この冒険者組合だ。



 冒険者組合のまえには、人だかりができていた。それはいつものことだ。みずからの名声を高めるための仕事を、冒険者たちは飢えたオオカミのごとく探しているのだ。仕事の奪い合いで殴り合いのケンカになることだって珍しい光景ではなかった。が、いつもより緊迫しているようだった。



(何かあったんだろうか?)

 と、ロドウも野次馬になることにした。



 しかしすぐに、野次馬のひとりではいられないことに気づいた。心臓をカナヅチで殴られるような衝撃をおぼえた。



 冒険者組合の前にいたのは、都市の騎士隊だった。



 それはまぎれもなく、マグワナを追いかけまわしていた連中なのだった。都市テンペストの旗印をかかげて、何か怒鳴り散らしていた。



 ロドウは極度の緊張をおぼえて、その声がずっと遠くから聞こえているような心地であった。



 よく見てみると、冒険者組合の入口の石壁に、人相書きが張り付けられていた。



 マグワナの顔。懸賞金。金貨1000枚。……。

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