天才魔王VS最強勇者

【追放された皇子は、魔王となって帝国に復讐します】
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6-2》マグワナの本性

公開日時: 2020年12月12日(土) 09:41
文字数:2,419

「それが正体というわけか。バケモノめ」



 マグワナが疾駆してきた。

 速い!

 いっきに距離を詰められた。



 ワニの化け物となったマグワナの巨体が、イアの魔防壁シールドに衝突した。頭から生えている白蛇が魔防壁シールドに押し付けられていた。盾は半透明なので、鱗の細部まで見ることが出来た。イアのワニの顔面も盾によって押しつぶされている。防いだ。そう思った。



 が、しかし――



(私の魔防壁シールドが……ッ)



 ピシッ。亀裂がはいった。そう思った瞬間には、砕け散っていた。ガラス片のように散った魔法の盾は、空中で霧散していった。



 マグワナの突進を、イアはまともにくらった。カラダが宙に放り投げられた。背中を何かに強く打ちつけた。街灯だった。もし布の鎧クロス・アーマーをまとっていなければ重傷になっていたかもしれない。



「今のワッチは、そんな程度じゃ止められないのですよ」

 甘ったるい少女の声音ではなくて、地の底から聞こえてくるような声でマグワナがそう言った。



「第5階層魔法。聖なる矢ホーリー・アロー



 イアは自分の正面に、魔法陣を展開した。白くかがやく矢が、無数に射出された。



 第5階層魔法を使える魔術師は、そうそういない。ふつうの魔術師が使えるのは、第2階層魔法まで。上級魔術師になれば、第3、4階層魔法まで使える者がいる――という程度だ。



 第5階層魔法を使える魔術師を、イアは自分のほかには知らなかった。イアにとっては自信のある魔法だった。



「第6階層魔法。魔女の盾シールド・オブ・ウィザード



 ただの魔防壁シールドとは違う。女の顔が刻み込まれた半透明の盾を、マグワナは生み出した。その盾によって、イアの放った聖なる矢ホーリー・アローが砂と化して散っていった。



「バカなッ」



 イアの放った聖なる矢ホーリー・アローが無力化されたことにも驚いたが、マグワナが第6階層の魔法を使えることにも驚いた。



 あの先代の魔王でさえも、第5階層までの魔法しか使えなかったはずだ。



(やはり……何か……)

 妙だ。

 と、イアはマグワナを凝視した。



 マグワナは、何か隠している。

 その隠しているものを見据えてやろうとした。



 この魔王の娘に、これほどの魔力があるはずがなかった。魔王という強大な存在のもとで生まれた、1匹の魔族に過ぎないはずだった。



 しかしそれが今、凶星となって輝いている。この存在がたったひとりで輝くはずがなかった。実に巧妙なやり方で、自分を輝かせてくれる人物を見つけたに違いない。



「……ッ」

 マグワナの背後に、何かが見えた気がした。



 戦慄をおぼえた。



 それは途方もなくドス黒い魔力のカタマリだった。イアが倒した魔王ですら、それほどの魔力は秘めていなかった。マグワナはいったい、どこからそれほどの魔力を調達することに成功したのだろうか。



「貴様のことをかくまっていた協力者がいるはずだ。そいつだな。そいつが貴様にチカラを与えたのだな」



「魔族は、あの御方のもとで、ふたたび再興する。貴様に邪魔はさせないのですよ」



 合点がいった。



 あの『爛れ石のダンジョン』の魔族が、急激に強くなったのも、マグワナをかくまっていた人物が、裏で糸を引いているのだ。しかし、マグワナをこれほどまで強化できる人物に、イアは心当たりがなかった。



(いったい誰が、マグワナにチカラを与えているんだ?)



 人間なのか。

 魔族なのか。

 それすらも、わからない。



 人間であれば、それはトンデモナイ魔力を持っている人物ということになる。そうなると必然的に、名のある者たちということだ。



「死ねッ」

 と、マグワナが疾駆してきた。



 魔防壁シールドでは、マグワナの突進は防ぎきれない。身を転がして、マグワナの突進を避けた。避けたはずだった。だが、マグワナの頭から伸びている白蛇が、イアの右の足首にからみついていた。仰向けに倒れたカッコウのまま、マグワナに引き寄せられた。



「ちッ」

 ロングソードで絡みついている白蛇を切った。



 白蛇は簡単に斬ることができた。斬りおとされた頭部が、陸に打ち上げられた魚のように跳ねまわっていた。マグワナは痛がる様子もなかったし、白蛇はすぐに再生していた。どうやらその白蛇には、痛覚がないらしい。



 髪の毛のようなものか……。



 態勢を整えようとしているイアに、マグワナが、跳びかかってきた。



 仰向けになって倒れているイアに、そのグラディウスのような禍々しい爪の生えた腕が、振り下ろされた。



 ロングソードで辛うじて受け止めた。



 しかし。

(なんて怪力だ……)



 受け止めた衝撃で全身が痺れた。



 あやうく柄から手を離しそうになったほどだ。マグワナが上。イアが下となってのつばぜり合いとなった。



 白蛇の群れの奥にあるワニのような顔面。そこには白銀色の双眸があった。そこには勝利を確信した光がやどされていた。そしてその目に、危地におちいったイア自身の表情が投影されていた。



 この怪力が、マグワナ本来のチカラによるものなのか、それとも、「あの御方」と言う人物に与えられたものなのかは、イアには知る由もなかった。後者だという確信があった。



 あの雨の日……。



 魔王を殺されて、自身も致命傷を負って、マグワナは死を覚悟したはずだ。絶望のドン底にいたはずなのだ。あのときのマグワナの目は、すでに死んでいたはずだ。このような炯々たる光はなかった。



 あの日――。

 マグワナは、起死回生の何かを見つけたのだ。



 マグワナは決してをそれを手放さないだろうし、マグワナから発揮されるチカラは、すべてその何者かの影響を受けているに違いないという、イアの予感があった。



(このままでは……)

 マグワナの怪力に押し負けて、イアは殺されることになる。



 マグワナの腕を受け止めているロングソードが、じりじりとイアの顔面へと近づいてきていた。



「ワッチの勝ちなのですよ。父を殺された恨みを思い知るが良いのです」



「それを言うならば……ッ」



 父を殺されているのは、イアとて同じだ。



 マグワナの腹を、イアは蹴り上げてみた。最初に膝蹴りを入れたときと違って、いまのマグワナの腹は強靭ウロコで守られていた。岩石か何かを蹴り飛ばしたような感触がした。



(仕方あるまい)

 と、イアは覚悟を決めた。

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