第6競技『綱引き』は、まさに言葉通りの競技で綱を引きあう競技だ。
だが、人と人でやるのではなく、ゴーレムと綱引きをそれぞれで行うのである。
分担は各チームごとだが、3つの役割がありゴーレムを強化・守護する者、相手のゴーレムを弱体化・攻撃する者、そしてゴーレムと綱引きをする者の3つだ。
勝敗の付き方は、先にゴーレムを白線よりこちらに引き込む、または相手ゴーレムを行動不能にするかの2つのみで、相手選手への直接攻撃は禁止されている。
競技結果を言うと、私たち第2学年がこの大運動会で初めて1位を取った。
その勝利をもたらしたのは、ニックとガウェン、そして次期寮長候補たちの右腕と呼ばれる生徒スザク、リーフのお陰であった。
ちなみに右腕と呼ばれる生徒は、第一期期末試験全寮最終成績では10位に入っている人たちであり、私はそう言えばそんな名前があったなとうっすら思い出していた。
私は全く交流がないので、話はしなかったが10位以内に入った実力は確かにあったと競技を見て実感した。
第6競技でやっと1位を取った事と、初めて第3学年に勝った事で皆は盛り上がり、このまま良い雰囲気で次の競技も勝って行くぞと掛け声をだし指揮を盛り立てた。
だが、第7競技『玉入れ』第8競技『棒倒し』では第3学年に負けてしまい、どちらも2位と言う結果であった。
その結果が累計ポイントに反映され、第8競技終了時点でのポイントが表示された。
大運動会ポイント累計
第3学年 275点
第2学年 205点
第1学年 55点
その結果を見た私たち第2学年は、改めて第3学年の強さを実感していた。
ただ単に、1年上の学年と言うだけでなく、各々の長所を活かした戦略や技術の高さも本気でぶつかった事で分かり、一番は仲間として互いに支え合っている点が自分たちに足りないものだと実感していた。
確かに、数週間であるが寮を越えて、初めて互いに協力し協調を行いある程度は第3学年の様に戦えていたが、やはりそれは付け焼刃でしかなく、連携ミスや息の合わなさが実際には出ていた。
「さすがは先輩たちだな。改めて先輩の凄さを肌で感じたぜ」
「俺も先輩たちの見る目が変わったぞ」
トウマとダンデが次の競技準備の間、表示されたポイントを見ながら呟いていると、トウマが振り返り近くにいた私とロムロス、そしてスバンに対して胸を張りながら口を開いた。
「だが、まだ負けてはない! 次の『騎馬戦』と最後の『代表戦』で勝てば俺たちの勝利だ!」
「確かにトウマの言う通り、ポイント的にはそうだけど、残っている先輩や持っている力を考えると、そう簡単じゃなさそうだけど」
「おいおい、クリス。そんな弱気でどうすんだ! お前は『代表戦』に出るんだから、勝つ気でいないと」
「別に負けるつもりはないけど、どこまで通じるか考えないと、無駄に突っ込んで終わりじゃ俺的にも……」
「そこは、ロムロスの出番でしょうが。な、ロム……って、お前どうして客席の方を見てるんだよ」
トウマの言葉に、私もロムロスの方を見るとトウマの言う通り、客席をきょろきょろを見回していた。
私は、誰か探しているのかと問いかけるとロムロスは私の方に視線を向けて答えてくれた。
「いや、今年の大運動会は去年より、来ている他の学院生の集団人数が多いなと思って」
「他の学院生?」
「それは私も気になったわ。例年なら2、3人だけど、今年は5、6人って所かしら。学院が公式に招待してるとは言え、多いわね」
私は他の学院生が何を指している所から分からず、首を傾げて聞いているとダンデが会話に入って来た。
「どうせ、来月の学院対抗戦に向けた偵察だろ。目的は第3学年の寮長たちじゃないのか? 直前に、どの程度の力を持っているか堂々と見れる場所だし、今年は本気でやり合うって伝わってるから余計だろ」
「学院対抗戦?」
「クリスは知らないのか」
また知らない単語を聞き、それを口に出すとロムロスが簡単に説明してくれた。
学院対抗戦とは、クリバンス王国内にある魔法学院の代表者同士が勝負する、大運動会の学院対抗版的なものだと教えてくれた。
ただし、大運動会の様な競技はなく『代表戦』的な力を勝負を行い、年に一度魔法学院のトップを決めると言うものだ。
ちなみに王都メルト魔法学院が、王国内魔法学院でトップ3に入っているのは毎年学院対抗戦で上位入賞している為でもある。
だが、ここ数年1位を取った事はなく、去年は3位であったとダンデが口にした。
去年の1位は、シリウス魔法学院と言う学院であり王国内魔法学院も1位である絶対王者であると教えてくれた。
そこで私は絶対王者の学院の名前を聞いて、思い出す。
「そう言えば、お兄ちゃんはシリウス魔法学院だった様な……」
「マジかよ! クリスって兄貴居たのか。ちなみに有名な人だったりするのか?」
「有名かは分からないけど、一応首席で卒業したって言ってたな」
「「主席!?」」
その場に居た皆が驚きの声をだした。
ロムロムに名前を聞かれたので、名前くらいは大丈夫かと思いつつお兄ちゃんの名前を出すと、全員が驚愕していた。
その反応を見て、以前寮に来た時の事を思い出していた。
そう言えば、お兄ちゃんって凄い人だったて言われたな……あれ? そう言えばトウマはあの時、ちょうどいなかったんだっけ?
私はトウマもロムロスたちと同じ反応をしていたので、寮にお兄ちゃんが来た時にトウマは外出していて居なかった事を思い出した。
その場で再びお兄ちゃんの事で驚かれたが、暫くするとその熱も収まり話が元に戻っていった。
「何にしろ、他の学院生たちの目を気にすることはねぇって。どうせ、あいつ等だって俺たちの事なんか見ちゃいねぇよ」
「確かに、大体学院対抗戦に選ばれるのって、第3学年の先輩たちだもんな」
トウマとダンデがそんな事を言うと、ロムロスも見るのを止めて改めてトウマに作戦の確認をしていた。
そして競技準備が完了すると、出場選手たちは集合場所へと向かって行った。
「もう大運動会も終盤だ。この競技に出て来る人次第で、『代表戦』に出て来る先輩が決まる」
「そうか、言われてみればそうなるのか」
ロムロスの言葉に、私は納得し空中に表示される競技出場選手一覧を見ていた。
第1学年から次々に呼ばれていく中、第2学年も終了し最後に第3学年の出場選手が呼ばれ始め最後に呼ばれた選手で会場が盛り上がった。
呼ばれた名前は、オービン寮副寮長のミカロス先輩であった。
「俺としては、ちょっと意外だったな」
「そう? 私はワイズ先輩が出た時点で、この展開は予想通りだったけども」
ロムロスとスバンは、『代表戦』出場選手が確定した事で話していたが、私は次の自分の競技でどこかの寮長と当たるのか想像しただけで、少し弱気になっていた。
ここで、ミカロス先輩が呼ばれたって事は、『代表戦』のメンバーには寮長が全員出て来るってことか……う~ん、ここまで副寮長たちの実力を見た感じ私じゃ歯が立たないのではと思ってるんだよね……何か想像しただけで、辛くなってきたな。
私は小さくため息をついたが、今はとりえず第9競技に出ているトウマたちを応援する事に意識を向けた。
一方で、トウマたちは一緒に出場しているリーガ・ライラック・シンリとミカロス先輩が出て来た事について話していた。
「ここで、ミカロス先輩か。厳しくないか?」
「何言ってんだ、相手にとって不足なしだ!」
「なぁ、トウマ。あんな作戦で本当に大丈夫なのか?」
「あ、それは僕も思った。てか、あれが作戦って言えるの?」
「お前ら文句が多いな。これは、ロムロスから貰った作戦だぞ、信じてやれば勝てる! 後は、気合だろ!」
「おぉ! 気合いか。って事は、筋肉だな!」
「いや、何でそうなるんだよリーガ」
リーガの返しに、冷静にシンリがツッコミを入れると、隣にいたライオン寮の次期寮長候補右腕と言われるプロンスが、筋肉に反応してこちらを向いて来る。
それに気付き、リーガは言葉を交わすことなく筋肉を動かして謎の会話? を始めていた。
それを見て、トウマがライラックに小声で訪ねると、リーガとプロンスは筋肉仲間らしくと答えられ、当人同士しか分からない事をしていると返された。
数分後、競技準備合図が鳴らされトウマたちは騎馬を組むと、シンリから心配からか愚痴が出て来た。
「ねぇ、本当に僕が前なの? こう言う場合リーガか、ライラックじゃない?」
「シンリ、何度も言うがお前が適任なんだよ。なぁ?」
「そうだぞ、シンリ。俺は右ウィングでこの筋肉を魅せ……いや、存分に活かせるからここに居るんだ」
「いや、今魅せつけるって言おうとしなかった!?」
「シンリ自分が辛いからって逃げるなよ。俺は、左ウィングで楽……いや、小回りや戦場を見渡す役割があるんだぞ」
「おいライラック、お前楽だしとか言おうとしなかったか!?」
「もうこれがしっくりくるって練習もしただろ、シンリ。ほら、もうすぐ始まるから前を向け!」
そう言って、上にいるトウマがシンリの頭を掴み後ろを向いていた顔を勢いよく前に向けた。
「いたぃ! トウマ、急に顔を掴んで前にするな! 痛いだろうが!」
「すまん、すまん。だけど、お前がいつまでも、ツッコミしてるからだぞ。これから俺たちは、ミカロス先輩を倒すんだから気合いれろ!」
トウマの掛け声で、一気に気が引き締まりシンリたちは大きな声を出すと、周りの騎馬たちもトウマたちに続き気合を入れて声を出した。
それを見ていた、第3学年も気を引き締めていた。
「あっちはやる気満々みたいだぞ、ミカロス」
「問題ないよ。どんな作戦を立てようが、俺の想定を越えはしない。勝つのは俺たち第3学年だ」
そう言って、ミカロスは騎馬の上で眼鏡淵を持って軽く位置を直した。
そして、第9競技『騎馬戦』の競技開始合図が競技場内に鳴り響いた。
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