ミドルランクの初戦、男子第1試合メルト魔法学院・シリウス魔法学院戦のアナウンスが流れ、選手が呼びこまれる。
『ではまず、シリウス魔法学院の代表選手、ラーウェン・ギルアバンス!』
そうアナウンスで名前が呼ばれると、会場にラーウェンが現れると続いてアナウンスがされる。
『そして対戦校、メルト魔法学院の代表選手、ルーク・クリバンス!』
アナウンスが流れると同時にラーウェンの時と同様に観客たちが大きな声援を送ると、ルークが会場に現れた。
そして両社が会場に揃うと、アナウンスにてこの試合がタッグマッチである事が明かされる。
「今日はいい試合にしましょうね、第二王子」
「俺はそう呼ばれるのはあんまり好きじゃないんだよ。後、お前にいい試合にしようと言われてもそんな気持ちになれるかよ」
「どうしてです?」
ラーウェンがとぼけた様に問いかけて来た事に、ルークは軽くため息をつく。
「昨日あんな事を言われて、いい気分で臨めるわけないだろ」
「あ~トウマの事ですか。俺はただ、真実を教えてあげただけじゃないですか」
「何が教えてあげただ。別に聞いてもないのに、お前が勝手に話し掛けて来たんだろうが」
「……はぁ~その様子では、本当の意味に気付いてもらえなかったようですね。彼は不幸を呼び寄せるのだから、離れた方が良いと警告してあげたんですよ」
ラーウェンは軽く肩をすくめうっすらと笑いながら答えた。
それを聞きルークは「それはどうもありがとう」と雑に返事を返した。
「人が親切に教えてあげているのに、その対応とは。やはり、出来損ないの王子と言う訳ですか」
「お前にどう思われようが俺はどうでもいいが。勝手に俺の親友を不幸な奴にするんじゃねぇよ。あいつはとんでもねお人好しで、馬鹿ぽいけど、皆に信頼されてて不幸を振りまく奴じゃねぇんだよ。お前の価値観だけで、他人をけなすな」
ルークからの言葉を聞いたラーウェンは、小さく舌打ちするとボソッと呟いた。
「あいつは不幸をもたらす奴なんだよ……」
その直後、アナウンスにて各パートナーが呼ばれ始め、先にラーウェンのパートナーが呼ばれた。
『シリウス魔法学院代表者、ラーウェンのパートナーはドウラ・ベインズ!』
名前を呼ばれ、会場に入って来たドウラはそのままラーウェンの真横へと歩いて行き立ち止まる。
「まさか、こっちの試合にも出れるとは嬉しいね」
「俺のパートナーはお前しかいないからな。それに、パートナーは同学年であれば誰でもいいって言われてたんだから、別に不正でも何でもないぞ」
「別に不正かは気にしてねぇよ」
「まぁ、何にしろこっちは学年№1と№2が揃ってんだ。負ける要素が更に減ったというわけだよドウラ」
ドウラはラーウェンの問いかけに「そうだな」と小さく答えた。
そして次に、ルークのパートナーの名前が会場中に読まれた。
『対する、王都メルト魔法学院代表者、ルーク・クリバンスのパートナーはトウマ・ユーリス!』
「っ!?」
その名前に一番驚きの表情をしたのは、ラーウェンであった。
そして会場に少しキョロキョロしながらトウマが入場して来てルークの横に立った。
「おいトウマ、少しはシャキッとしろ。挙動不審者だぞ」
「う、うっせっ! こんな大観衆の前に出る準備をあの短時間で出来るかよ! こっちは急に言われてド緊張してるんだよ!」
そんな会話をしているとラーウェンが大きく笑い始めた。
「おいおい、本気かよ第二王子? トウマをパートナーにしたのかよ? あはははは! こんなの勝負になるわけないだろうが」
ラーウェンはそのまま笑い続けると、真横のドウラが注意をするもラーウェンの態度は変わらなかった。
それを見てトウマは一度目線を落とし俯く。
「ほら見ろ。そいつはこの場に立っていいような奴じゃないし、実力もない。そんな奴をわざわざここに呼ぶとは、残酷な事をするな第二王子。でも、受ける方も受ける方だトウマ。何を勘違いして引き受けてんだよ」
ラーウェンが悪口を言い終わるとトウマの方を見下した様に見つめていた。
「(どうせお前は俺に背を向けるんだろ? また逃げるんだろ? ほら、そのまま背を向けて逃げろよ。お前は俺が怖いんだろ、関わりたくないんだろ!)」
そんな目でトウマを見ていたラーウェンは、俯いていたトウマが背も向けずに顔を上げて真っ直ぐに見つめて来た事に驚き、更にトウマの発言にたじろいだ。
「ラーウェン! 俺はな、お前と兄弟喧嘩をしに来たんだよ! いつまでも弟に馬鹿にされてて引き下がってたら、お前が調子に乗るからよ。ここで一度、その態度改めさせに来たんだよ!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――遡る事1時間前。
ルーキーランクの試合開始前の会場外の周辺。
「はぁ~何してんだ俺は……」
トウマは会場が見える所のベンチに座り、頭を抱えてため息をついていた。
この日クリスと一緒に会場でルークの試合を応援するつもりでいたが、クリスに急用と嘘を付き一度会場へと向かうのを辞めていたのだった。
その理由は、この日に弟であるラーウェンの試合もありその場で自分の過去の事を名指しで言われるんではないかと言う想像をしてしまった為、周囲からの視線が怖くなり行くのを辞めていた。
だが、結局会場の目の前まで来ていた。
トウマはラーウェンに過去の事をバラされて今の関係が壊れるのを恐れている一方で、親友であるルークの試合をクリスと一緒に応援したいと言う気持ちもあった為、ウロウロと迷いながらも会場へと足を運んでいたのだった。
「あいつが俺の過去をあんな所でバラすなんて確証はないし、ルークの奴が自力で勝ち取った代表者としての試合を観たいから観るでいいんだよ。それが普通だろ……普通なのに、あのラーウェンならやりかねないと思ってしまうから動けない」
そしてトウマが大きなため息をついて、暫く頭を抱えて考えた後やはり帰ろうと思い立ち上がった時だった。
「こんな所にいたのか、トウマ」
そう声を掛けて来たのは、ルークであった。
まさかのルークにトウマは驚き、直ぐに声が出ずにキョロキョロとしてしまう。
「なぁトウマ、突然で悪いが俺のパートナーとして試合に出てくれ」
「へぇ!?」
ルークはそのままタッグマッチの事や、対戦相手の事を全て明かすとトウマは暫く黙った後「すまん……」と断った。
「どうして断るんだ? 実力が見合わないからか? 俺と比べられるのが嫌だからか? ……それとも、ラーウェンか?」
「っ!」
最後の言葉にトウマは過剰に反応してしまい、体をビクッとさせる。
その反応を見てルークは、トウマが座っていたベンチに座り昨日ラーウェンからトウマの過去の事を聞いたと告げと、トウマはその場に固まった様にピクリとも動かなかった。
「お前が何を怖がっているかは、俺には分からないが、お前はこのままずっとラーウェンを避けて怖がりながら生きて行く気か、トウマ?」
「……」
「まぁ、お前がそれでいいって言うならいいが。俺は別にお前の過去を聞いても何も変わらないぞ。と言うか、今さら過去がどうとか言われても、それがなんだって言うんだよ。そんなので態度が変わる奴が、お前の周りにいるとでも思ってるのかよ」
「……いるかもしれないだろ。失望したとか、そんな奴だとは思わなかったとか、騙してたのかとか……」
トウマはルークの方を向かずに、ポツリポツリと話し始める。
「なら、そんな奴と関わるのは辞めろ。現に、俺とクリスは態度は変わらないぞ」
「えっ」
「お前の過去がどうであれ、その先も傍にいてくれる奴と付き合って行けばいいだけだろ。まぁ、お前がフェルトを目指すって言うなら話は別だがな」
「べ、別にフェルトみたいになりたいわけじゃないぞ!」
そこでトウマはルークの方を振り向いて、否定する。
「ならそれでいいじゃないか。後は、ラーウェンに思いっきり迷惑だって言ってやればいいんだよ。人の過去をぺらぺらと話すんじゃねぇよ、馬鹿弟が! って」
「いやいやいや、そんなの無理だよ。あいつが俺の言う事聞くと思うのかよ? てか、俺があいつを、ギルアバンス家を遠ざけて来た結果が今の状況だし、何て言うかラーウェンを前にすると昔の事を思い出して見向きが上手く出来ないんだよ……」
それを聞いたルークは、思いっきりため息をつき「ダメ兄貴だな」と呟いた。
「ん? ダメ兄貴? 誰が?」
「お前だよ、トウマ。腹違いだか何だか知らないが、ラーウェンと兄弟でお前が兄貴なんだろ? 兄貴が弟を怖がっててどうすんだ。いつまでも、いびり続けられるぞ。兄弟なら兄貴の威厳ってのを見せてやるのが一番なんだよ」
「……それって、もしかして体験談か?」
「う、うっせ!」
するとルークは立ち上がりトウマの胸に片手の人差し指を突きつける。
「いいかトウマ! このまま言われぱっなしで悔しくねぇのかよ。兄貴なら調子に乗ってる弟にガツンと言ってやれよ!」
「何か、お前が言うと凄い説得力があるな」
「俺の事はどうでもいいんだよ。で、お前はやるのかよ? やんないのかよ?」
少しトウマが考えた後に口を開く。
「もしやってもよ、あいつの実力は本物だし勝てる気がしないんだよ……」
「勝てるかどうかはお前次第だろ、トウマ」
「おい、ガツンと言ってやって言ったのはお前だろうが。それなら勝たなきゃ意味ないだろう」
「別に勝つ必要はないだろ。正面向かって言ってやればいいんだけだよ。兄弟喧嘩しに来たってな」
「はぁ?」
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