大運動会の出場競技が決定し、各自出場者で連携や特訓を開始して数日が経過していた。
私はと言うと、何故か大運動会メイン競技である『代表戦』の1人に選ばれてしまい、ここ数日他のメンバーと特訓などをしていた。
ちなみに大運動会の各出場競技者は、以下の通りとなった。
『徒競走』各学年出場選手6名
マックス
『借り物競争』各学年出場選手6名
ガードル
『障害物競走』各学年出場選手3名
ケビン
『大玉送り』各学年出場選手10名
フェルト
『バトルロイヤル戦』各学年出場選手10名
ガイル・ベックス・レオン
『綱引き』各学年出場選手8名
ニック、ガウェン
『玉入れ』各学年出場選手10名
ノルマ、アルジュ、シン
『棒倒し』各学年出場選手10名
ピース・モーガン、ヴァン
『騎馬戦』各学年出場選手12名
トウマ、リーガ、ライラック、シンリ
『代表戦』各学年出場選手5名
ダンデ・スバン・ロムロス・ルーク・クリス
さすがに、全員の名前までは覚えきれなかったので、同じ寮生と知っている人のみ私は思い出していた。
また、大運動会では各競技の結果順位で点数が振り分けられ、最終的にその得点が高かった学年が優勝というルールであり、『代表戦』だけは第2学年と第3学年のみの競技と言う事も改めて知った。
そんな競技に、何故私が選ばれたと言うとトウマや他の皆からの推薦であり、私はニックの方が適切だと言うが、それを見越して既にニックは競技へのエントリーを済ませていた。
またガウェンも推そうとしたが、ガウェンもニックに連れられ同じ競技にエントリーさせられていたのだった。
その為、私の逃げ道が勝手に消されルークとも張り合っているという事もあり、『代表戦』にエントリーさせられたのだった。
「ふう~少し休憩させて……」
そう言って私は、その場に座り込んだ。
「何だクリス、もうへばったか」
「ダンデ。君は何もしてないからそう言えるんだ。クリスはスバンに教える為に魔力消費をしているんだぞ、当然だろ」
「うっ」
「体力がないのはダンデの言う通りだし、あんまり強く言わなくていいよ、ロムロス」
ロムロスは、私がそう言うと近くにあった石に座った。
ダンデは両腕を組んで立ち尽くしており、スバンは遅れて少し息切れ状態で膝に手を付いていた。
私たちが今何をしているかと言うと、『代表戦』に向けてスバンの特訓に付き合っているのだ。
何故スバンの特訓かと言うと、スバンの方から私たちにお願いして来たのだった。
スバンはこの大運動会で、どうしても倒したい先輩がいると言って、今のままではその人に勝てないと感じていたので、この機会に力や知恵を借りたいと頭まで下げたのだ。
そんなスバンは初めて見たのか、ダンデやロムロスも驚いたがそこまでされたので協力する事にしたのだ。
ちなみにスバンは倒したい先輩の名前は言わなかったが、私たちは勝手に寮長であるエメルを倒したいのだと思い込んでいた。
「そう言えば、初日以来ルークの姿が無いが、あいつはどこにいるんだ? クリスお前同じ寮だろ」
「そ、そうなんだけど……いないんだよね……」
「どう言う事だ?」
ロムロスからの問いかけに私は、最近ルークは合同授業が始まる前になるといつも姿を消してしまい、寮でも会う事すら出来ないと伝える。
もしかしたら嫌われてるのかもと冗談交じりに言うと、ロムロスやダンデは「そうか」とだけ言って、スバンは「いない奴の話をしても時間の無駄だわ」と言いルークの話は終わった。
確かにこの場に居ないルークの事を話しても、何にもならないのは同感だし、どうせルークもどっか1人で勝手に特訓でもしてるんだろうと私は思っていた。
するとダンデが思い出したかの様に、ある事を口にした。
「そう言えば、ルークの奴オービン先輩が帰って来てるから、気が立ってるのかもな」
「どう言う事?」
「何だクリス知らないのか? オービン先輩は、ルークの兄貴だぞ」
「えっ!?」
まさかの真実に私は口が開いてしまう。
あのオービンとルークが兄弟だとは思えなかったからだ。
性格も真反対だし、優しさから雰囲気まで何もかも違う感じだったので、私は直ぐに理解できなかった。
そんな状態の内にまた特訓が開始されてしまうので、ひとまずその事は置いておいて特訓の方に集中する事にした。
特訓内容は、スバンに魔力の一点集中方法を教えており、そうする事で一時的ではあるが大きな魔法や体術で威力を発揮できる為だ。
それとこの方法は、お兄ちゃんに昔やり方を教わったもので私も完璧に出来た事はないので、絶対に身に付くわけではないと忠告し、スバンもそれを理解した上で教えている。
また、ダンデは体術を教え、ロムロスは当日の作戦や戦法などを教えていた。
そんな特訓時間が終了し、私はダンデたちと別れ、へとへとの状態で寮へと歩いて帰った。
あ~疲れた~最近こんな毎日で体がくたくただ……早くシャワーで汗流して、ベットにダイブして寝たい。
私はそんな事を思いながら歩き寮の前にやっと到着し、門の前で一息ついた時だった。
「あれ、もしかしてクリス……君?」
「ん?」
私は突然名前を呼ばれてその場で振り返ると、そこにいたのは第3学年のヒビキであった。
ヒビキの顔を見て私は、ガードルの言葉を思い出しこの人は危険人物だと直ぐに認識した。
ひとまず当たり障りなく挨拶して、部屋に逃げ込もうと思い、初対面なので挨拶をし疲れているので寮へと入ろうとすると、ヒビキがスッと回り込んで来て私の前に立ち塞がった。
次の瞬間、思いっきり顔を私に近づけて来てじっと私の目を見つめられる。
「っ!?」
突然の事に動揺してしまい、少しのけ反りヒビキの目を直視するのを止め、直ぐに視線を逸らした。
ヒビキはそのままじっと私を見つめたまま、その場でいきなり私の匂いを嗅いできたのだ。
「な、なにしてるんですか!」
私は勢いよくヒビキを突き飛ばしてしまい、その直後先輩をいきなり突き飛ばしてしまった事がやばいと気付き謝ろうとしたが、そもそも急に臭いなんか嗅いで来たヒビキが悪いと思い、途中で謝るのを止めた。
「……えっと、その、な、何で急に臭いなんて嗅ぐんですか? ビックリして突き飛ばしちゃいましたよ……」
「……」
するとヒビキ先輩は、怒ることなく何故か片手を顎に付けて考え事を始める。
私は何度か呼びかけても反応がないので、よく分からない人だなと思いつつ、反応がないのならそのまま無視して寮へと入ろうと隣を通りかかった時、ヒビキが急に動き私の耳元で囁いた。
「君、やっぱり女の子だね」
「なっ!?」
「その反応も可愛いね。でも、どうして男装してまでこんな狼の巣窟に居るんだい?」
「……」
まさかの発言に私は蛇に睨まれた蛙の様になってしまう。
何? どう言う事? 何でいきなりそんな事を言うの、この人は……バレた? いや、この人とは今日が初対面だし、ボロも出してない……まさか、かまをかける?
私は脳をフル回転させて理由を考えたが、かまをかける理由も不明だし、どうしてバレたのか不明の為、変に何も言わない方が良いと判断した。
するとヒビキは、転入初日を思い出させる様に肩に腕を掛けて来て耳元で優しく囁き続けた。
「もしかして、相当な男好きとか?」
「そ、そんなわけないだろう! はっ!」
「やっとしゃべった」
あり得ない言われように、つい私は反射的に答えてしまった。
ヒビキは、私から離れ正面に立つと、私はすぐに口元を両手で塞ぐような動作をする。
「クリス……いや、君の本当の名前は何て言うのかな?」
「……」
「ん~それじゃ、歳は17かい? それとも、上? 下?」
「……」
「シャワーとかどうしてるの? 同室の奴には教えてるの?」
「……」
「はっ! もしかして、俺たちがいない間にここの寮生全員とヤッ」
「なわけあるか!」
「なるほど。あり得ない事、してない事については口を開くのね。うんうん、落としがいがある女の子だ」
「だ、だから俺は女の子じゃないって……です……」
「ふ~ん。じゃ、触らせてよ」
「?」
ヒビキの申し出に、私は首を傾げるとヒビキは全力の笑顔で答えた。
「股間」
「なっ!?」
その言葉に私は顔を真っ赤にして声を出してしまった。
「おいおい、そんな驚くことか? 男なら問題ないだろ。ここには男しかいないし、触ったり触られてりってのは日常茶飯事だ」
「!?!!???!?」
ヒビキが何を口にしているのか理解が追い付かず、完全に動揺してしまう。
更に今日の疲労で、まともに考える事すら出来なくなりつつあり、もうどうしていいか分からなくなっていた。
だがヒビキの猛攻は終わらず、私の返答も聞かずにヒビキが先程口にした場所へ手を伸ばしてきた。
「大丈夫。君が男かどうか確認するだけだから。力を抜いて、俺に体を預けるようにしてな」
私は咄嗟に後方へと下がろうとしたが、既にヒビキの手が寸前に迫っており逃げられないと思った時だった。
間から突然、誰かの手が伸ばして来ていたヒビキの手首を掴んで止めた。
「!?」
「何やってるんだ、ヒビキ」
私とヒビキは同時に、間に割って入って来た人物の方に視線を向けた。
「げっ……オービン。何でここに居るんだよ」
――大運動会開催まで残り、12日
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