「いや~中々美味しいお店だったよ、アリス君」
「それは良かったです。でも、全部払って貰わなくても良かったんですよ。私だってお金くらい持ってきていますのに」
「何言ってるんだよ、俺は仮にも彼氏だよ。デートプランまで立ててもらったんだ、これくらいは当然なんだから、それくらいは甘えなさい。さぁ、次はどこかな?」
「……分かりました。そのお言葉に今日は、甘えさせていただきます。次は広場の方なんであっちです」
私はオービンの前に立ちながら、今日の為に色々と調べた内容を書き込んだメモを見ながら歩き出す。
「いや~こうやって色々な所を回るのは楽しいな。エリスやミカは、ここまで下調べはしないし、俺もしないから新鮮なんだよね」
「それはなによりです。まだまだあるんで楽しみにして下さいね、オービン先輩」
「言うね、アリス君。そんなにハードル上げていいのかな?」
「問題ありません。なんせ、バッチリリサーチと詳しい人に情報貰ってるんで」
私は自身満々に少し胸を突き出し答えると、オービンは笑顔で「それは楽しみだ」と言って私の横に並んだ。
そのままオービンと一緒に近くの広場に出て、私は一度場所を確認する為左右を見渡してからメモ帳を見たまま歩き出す。
するとそこに真横から話しに夢中の2人組が近づいて来る。
私はその存在に気付かないまま、そこで足を止めてしまう。
あれ? おっかしいな……確かこの辺だったんだけど、間違えたかな?
私がメモ帳とにらめっこしたまま首を傾げていると突然、オービンが私片腕を掴み自分の方へと引き寄せて来た。
「えっ」
そのまま私はオービンの胸へと吸い込まれ、抱き寄せられてしまう。
私はどう言う展開なのか理解出来ずにいた。
な、ななな、何!? ど、どう言う事? オービン先輩、急に何で引っ張って来て片手で抱きしめられているの!?
私は直ぐにオービンを見上げる様に顔を上げ、動揺しつつも何事か訊ねようとするがオービンが口に出した言葉で直ぐに理解した。
「すいません、彼女が夢中になっていて見えてなくて」
「いやいや、こっちこそ話に夢中で見えてなかったからお互い様さ。彼女さんは大丈夫かい?」
「はい、少し驚いただけですので大丈夫です」
「それはなにより、デートの邪魔して悪いね」
そう言って、オービンと話していた2人組はその場を離れて行った。
「……あ、あのオービン先輩……」
「ん? あっ、ごめんよ。人にぶつかりそうだったから、咄嗟に抱き寄せちゃったけど、大丈夫だったかい?」
「は、はい……私は大丈夫です」
オービンは私を離して謝るも、私の不注意であったのを助けてくれたのでお礼を言い軽く頭を下げた。
その際私の耳は真っ赤になっていた。
その後顔を上げても、少し私はオービンから目線を外していた。
た、確かに私の不注意ではあったけど、だ、だだ、抱き寄せたりするの普通!? いや、落ち着け私……オービン先輩は彼氏と言う立場として普通に私を助けてくれただけで、オービン先輩の中ではあれが普通なのかもだし、それが世の中の常識なのかもしれないわ。
そう、常識なのよ! あれは彼氏彼女の立場としてオービン先輩が気を利かせて、常識的にやってくれた行動なのよ! そうに違いないわ!
私は先程のオービンの行動に、何故か鼓動が速くなってしまったのでそう言い聞かせて落ち着かせていた。
そうやって自分を落ち着かせた所で、オービンの方を向くと少し心配そうに私の方を見ていた。
「本当に大丈夫かい、アリス君? 少し顔が赤いようだけど、急に抱き寄せたりして息苦しかったりしたかい?」
「い、いい、いいえ。何でもないですよ! 大丈夫ですから!」
「そうかい? なら、いいんだけど。本当にさっきはごめんよ、急にあんな事して。声を掛ければ済んだことだったね」
「本当に気にしないで下さい。私がメモ帳ばかり見ていたのが悪いんですし」
「……うん。いつまでも気にして引っ張るのは良くないね。それに、アリス君も周りには気をつけないとダメだよ」
そう言ってオービンは私に顔を近付けて、笑顔で注意して来た。
私は「すいません」と呟き軽く頭を下げると、オービンは「それじゃ、この話はおしまい」と言って顔を離した。
「それで、次はどこに行くんだいアリス君」
「え、あっ、え~と……」
私は直ぐにメモ帳を開き該当ページを探し始める。
「ん? お前もしかして、オービンか?」
と、背後から突然オービンの名を呼ぶ声が聞こえ、私とオービンが振り返るとそこに1人の学院生服を着た男が立っていた。
その男は、青い短髪で黄金色の瞳をしており、左耳に小さいハートのピアスを付け、笑った時に少しだけ八重歯が見えるのが特徴的であった。
また、胸に剣を銜えた獅子が特徴のマークが付いている学院生服から、私は直ぐにこの男がシリウス魔法学院生だと分かった。
その男はオービンの顔を見て、オービンだと確信したのか少しテンション高く詰め寄って来た。
「やっぱりオービンだよな。いや~一瞬分からなかったぞ、オービン。お前もそんな格好するんだ……ん? そっちの女の子は、もしかして彼女か?」
「えっ……あ、あの」
「あ~大丈夫、大丈夫。誰にも言わないから。それにしても可愛い彼女だな、オービン。いつの間に彼女なんて作ったんだ? お前は気を遣い過ぎるから、彼女なんて出来ないと思ってたんだが予想が外れたな~」
な、何なんだこの人? 次から次へと話すから、私が話す隙すらないんだけど……
「てか、その服似合ってるなオービン。どこで買ったんだ? いくらくらいだった? 後、伊達メガネもいいな。それは俺も思い付かなったわ~いいなそれ! このピアスよりいいな。俺もそっちに変えようかな? あ~あと、その」
「リーベスト。悪い所が出てるぞ」
「あっ……悪い」
オービンがその男をリーベストと呼び一言言うと、リーベストはハッと気付き片手で頭を抱えた。
そこで初めて私は話し掛ける隙が出来たので、オービンへと話し掛けた。
「オービン先輩、この人は?」
「あぁ、そうだったね。彼の名は、リーベスト・ドラルド。元同級生で、今はシリウス魔法学院でNo1の実力者さ」
やっぱり、シリウス魔法学院の学院生だったのね。
でも、元同級生って言うのは? それに、No1の実力者って言われても一見そんな風には見えないんですけど、オービン先輩……
私はリーベストに挨拶をした後、チラッとオービンの方を向くと私が何かを気にしていると察したのか私の疑問に的確に答え始めた。
「元同級生って言うのは、彼と知り合ったのはうちの学院の初等部の頃だったんだよ。その後、高等部に進学する際にリーベストはシリウス魔法学院を受験して進学したんだよ」
「そう言う事だ、オービンの彼女さん。初めはオービンに勝つつもりで同じ学院で学んでいたが、一向に勝てない事で俺は同じ事を学び続けていたら、差が縮まる事はないと思い他の学院を受けたんだよ。確かに力や知識はついたが、結局まだオービンには勝ててないんだよな~」
「は、はぁ」
「彼女さんも見た事ぐらいあるだろ、オービンの強さをさ。まじで何なのってくらい強くて、追いつこうなんて思わない方がましと思えるレベルだよな。でも、そこがいいんだよな~高すぎる壁を越えた時の高揚感はどれほど最高かって考えるだけでやっていける……あっ、またやっちまったか俺?」
「その話過ぎる癖、全く治らないんだなリーベスト」
やっぱり、話し続けるのは癖だったのね……話し出したら止まらないって感じで、一緒にいたら大変そうな人だな。
私はリーベストにそんな第一印象を持っていると、オービンがリーベストが1人だけであると気付く。
「今日はブレーキ係りの二コルと一緒じゃないのか?」
「ブレーキ係りって……今日あいつは後輩の調整に付き合ってるんだよ。明日から学院対抗戦だし、頼まれたんだとよ。それで俺は暇を持て余して、街をぶらついてたってわけよ」
「なるほど。後輩に自分だけ頼られなくて、いじけて飛び出て来たんだな」
「ち、ちげぇって! 勝手に解釈すんなオービン!」
オービンは笑いながら「悪かったよ」とリーベストに謝ると「わかりゃぁいいんだよ」と呟く。
そしてリーベストは一度軽く咳払いする。
「それでオービン。もちろん、今年も2日目の代表者として学院対抗戦に参加するんだよな?」
「いや、今年は出ないぞ」
「そうだよな。最後の年に出ないなんてことな……えっ? 今何つった?」
「だから、俺は学院対抗戦には一切出ないぞ」
「……はぁーー!?」
リーベストは大きく驚きの声を上げるのだった。
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