「それで、クリスの状態はどうなんですか?」
「……うん。ただの風邪で、無理のし過ぎで倒れたってとこだな」
タツミ先生の言葉に、ダンデたちは医務室で安堵の息をついた。
倒れた私は、タツミ先生が到着してから簡易的に重症かどうか確認された後、ダンデたちに医務室へ運ぶように指示していた。
そこでタツミ先生の診断の結果、私は疲労での体力消耗で風邪になったと診断された。
またそこまで重症化しておらず、薬を飲み安静にしていれば一週間で完治すると口にした。
「あれ……ここは?」
「目覚ましたか」
「何でタツミ先生が?」
私が目を覚ますと、これまで起こった事をタツミ先生から説明され、私が風邪で倒れた事を理解しダンデたちに迷惑をかけたと分かった。
体は未だに熱く動かすのもつらいので、目線だけダンデたちの方に向けて「ごめん」と謝った。
「本当だ。自己管理出来ない奴はダメだ。だから、今は風邪を治す事だけに集中しろ」
「そうね。一週間で治るのだから無理をしなければ、大運動会にも出られるわ」
「そうだぜ。気合いだぞ、クリス。風邪なんかに負けんなよ!」
「あんたは、熱出したことすらなさそうだけどね」
「なんだとスバン!」
「おい、喧嘩するなら外でしろ。用が終わったらさっさと帰れ、お前らにもうるかもしれないんだ。仕事を増やすな」
タツミ先生はダンデたちに、早く出て行く様にジェスチャーするとダンデたちもそれに従い出口へと向かった。
最後にロムロスが「異変に気付いてやれずにすまん」とだけ謝ってダンデたちは医務室を出て行った。
「全く、倒れるお前もお前だ。ここ数日で風邪の前兆はあったはずだ。それを無視したか、変に勘違いしたか知らないが、下手したら死ぬかもしれないという事を頭にいれろ、いいな」
「はい……すいません……げっほ、げっほ」
「説教は熱が引いてからだ。とりあえず、薬を飲んで今日はここで安静に寝ろ。俺も今日はここにいるから」
そう言ってタツミ先生は、薬棚から薬を取り出し、私をゆっくりを起こし薬を飲ませてくれた。
その後は、氷水を入れた枕をし額には最近開発された、熱を冷ます様に冷え切ったシートを乗せてもらい私は言われた通り安静にし、眠りについた。
それから2日間は医務室で、タツミ先生に診断をしてもらいながら授業も休み、安静にし続けた。
そして医務室に来てから3日目に、ようやく熱も下がりタツミ先生からも後は自室で薬を飲み、安静にし続ければ完全に完治すると診察してもらった。
「いいかクリス。あと4日はここ自室で安静にしてろ、授業も出ずに何もしないでじっとしてるんだ」
「はい」
「薬も毎日飲み、食事は胃に優しい物を食う。寮の奴らとは話してもいいが、長時間はダメだ。もしうつしたりしたら、また俺の仕事が増えるからな」
「は、はぁ……」
「後、夕方には俺の所に来い。診断して回復の状態を見るからな。忘れるなよ」
「はい、分かりました。ありがとうございます、タツミ先生」
「もし何かあれば、ガードルを呼べ。あいつなら、大抵何とか出来る。俺はここ数日休みなしだったから、もう帰って寝る」
タツミ先生は自室まで私を運び、ベットで寝かせ、色々と話したのち部屋を出て行った。
ひとまず熱は下がり、体のだるさはまだあるが、ほぼ治っている様な気はしていたがタツミ先生の言われた通り安静にしてなくてはと思い、そのまま私は目を閉じ眠りについた。
次に目を覚ますと、部屋の窓から夕陽が差し込んでおり、もうそんな時間かと思い起き上がると真横にトウマが椅子に座っており驚いてしまう。
「ご、ごめん。驚かすつもりじゃなかったんだ。その、もう大丈夫なのか?」
「え、あ、うん。一応は熱も下がったから、後は自室で安静に療養しろって言われた」
「ふ~。良かった~いきなり倒れたって聞いた時は、皆驚いたんだぞ。でも、何事もなくて良かったよクリス」
「ごめん。今思えば、風邪だって言う前兆はあったんだなと思うけど、完全に見逃してた俺が悪いんだ……皆にもトウマにも心配かけた、本当にごめん」
「確かに寮で生活する上で、自己管理は大切だ。だけど、ルームメイトである俺も、少し変だと思っていたのに止めなかったんだ。お互いに悪い点はあったが、それを反省し次は絶対に同じ間違いはしない様に俺もするからよ。安心しろクリス」
「うふっ。頼もしいな、俺のルームメイトは。俺もしっかり自己管理していくからよ、これからもよろしくトウマ」
私は笑顔でトウマに答えると、何故か固まった様に私の方を見ていた。
夕陽が窓から差し込み、私に少し当たっているせいか顔が少し赤く見えたのかと思っていたが、そんなんじゃないよなと感じ軽くトウマの目の前で手を振ってトウマの名を呼んだ。
「えっ! あ、あ、いや。その、何て言うか、変な言い方かもしれないがちょっと見とれたっていうか。そんな顔された事なかったから……」
「あ、うん……そ、そうだっけ……」
これも夕陽のせいか、少し頬が赤く見え視線を逸らしながら答えるトウマに、何故か私も急に顔が熱くなり少し俯いて視線を逸らした。
そして暫くの間沈黙が続き、私はその間鼓動がどうしてか速くなり、心音が聞こえているんじゃないかと言うくらい音が響いていた。
な、何なのこの心音は!? 緊張してるの? いや、恥ずかしいのか? あ~もう! 何て言うかよく分からないけど、とりあえず私の心臓落ち着けー!
すると、学院のチャイムの音が寮まで聞こえて来た。
その直後、トウマが突然椅子から立ち上がった。
「えっと、その~……俺夕飯行くけど、クリスは……どうする?」
「え……う~んと、そ、そうだな……お、俺はもう少し休んでからにするよ……ごめん」
「いやいや! そ、そんな謝らなくていいよ。じゃ、俺は夕飯行って来るから」
少しぎこちない感じでトウマが答えると、足早に自室の扉に向かい部屋を出て行った。
私は何故かトウマが部屋を出て行ったから、大きくため息をついた。
な、何だったんだ、あの緊張というか、鼓動の速さは……
ひとまず私はもう一度横になり、時間を空けてから夕飯を食べに行こうと決めた。
一方トウマはと言うと、部屋をでて直ぐに顔を両手で覆い、蹲っていた。
「(あーー! やっちまった! 変な事言っちまった! 何だよ、見とれてるって! あいつ男だろうが! いきなり、同室の男にそんなこと言われたら、キモイだろうがーー!)」
そんな事を自分に対して思った直後、大きなため息をついた。
とりあえず立ち上がり、リビング兼食堂へと歩き始めた。
「(にしても、あの笑顔可愛かったな……夕陽もあってそう見えたのかもしれないが、ドキッとしたんだよな……でもあいつ男だよな。俺、やっぱりあの時から変になってるのか?)」
トウマはその場で足を止め、再び大きくため息をつき廊下の窓から外を見て黄昏始める。
「もしあいつが、女だったらこんなにモヤモヤしないのにな……」
私はと言うとあれから壁の方を向いて、とりあえず寝て時間を潰そうと思い目を閉じるも、まだ鼓動が速い為眠る事すら出来なかった。
もう何なのよ! 何もしてないのに、何でこんなにドキドキするの。とりあえず、深呼吸すれば落ち着くかも……
そう思った私は、もう一度起き上がりベットから出て、大きく息を吸って、ゆっくり吐き出しまた吸って吐き出す事を続けた。
その結果、鼓動の速さは収まり落ち着くことが出来たので、改めてベットに入ろうとした時だった。
部屋の扉をノックする音が聞こえた。
わざわざノックするという事は、トウマじゃないし誰だろうと思いつつ、「はーい」と返事をして部屋の扉を開けると、そこに居たのはレオンだった。
――大運動会開催まで残り、7日
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