とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

令嬢が男子寮へ男装し転入するもハプニング連続で早くも正体がバレる⁉︎
光逆榮
光逆榮

第196話 再会と目的

公開日時: 2022年5月2日(月) 00:01
文字数:3,856

「……」


 私はバベッチの姿と声で、言葉を完全に失っていた。

 バベッチはそんな私を見てクスッと笑うと、自身が先程まで持っていたお盆の上にある飲み物をそのまま近くの机に置き、1つ飲み物を手に取った。


「リーリアも飲めば?」


 その問いかけに私は何も答えず、ただじっとバベッチの事を見つめていた。

 そんな私にバベッチは軽く肩をすくめると、手に取った飲み物に口を付けた。


「……貴方、本当にバベッチなの?」


 私がそう問いかけると、バベッチは飲んでいた飲み物を一度机に置いた。


「疑いたくなるのも分かるが、本物のバベッチ・ロウだよ。何なら、昔君に付けられた腹部の傷でも見せようか?」


 するとバベッチは、服の裾を軽く持ち上げて腹部を見せて来た。

 そこには確かに学院生時代に、付けた腹部の傷がくっきりと残っていた。

 だが私は、それを見てもまだ目の前にいるのが、本当に私が知っているバベッチであるとは信じられずにいた。


「ん? これでも、まだ疑ってるのかリーリア?」


 バベッチは少し呆れた様に言うと、持ち上げた服の裾を下ろして机に置いた飲み物に手を伸ばす。


「……それはそうでしょ。だって貴方は、20年以上も前に私たちの前で死んだのよ。それが今更生きていましたなんて信じられないわ」

「偽者なんじゃないかって、言いたいのか?」

「それが普通でしょ。そもそも、貴方が本物のはずがないわ。だって、貴方が死んだあの後、貴方の死体は私たちが埋めたのだから。生きているなんてあり得ない事なのよ」


 するとバベッチは、小さく笑う。


「でもリーリア。お前は俺が生きていと知って安心したろ。自分のせいで死んだと思っていた相手が生きていたんだからさ」

「っ……」


 私はその言葉に直ぐに言い返す事が出来なかった。

 バベッチが言った事を全く思わなかった訳ではなかったからだ。

 だが、本当に今目の前にいるのが本物のバベッチであるならば、20年前に私を庇って死んだバベッチは誰なのか、目の前にいるバベッチこそが本当に私が知る相手なのかなどと、様々な問題が次々に浮かび上がって来て私は一度バベッチから目をそむけた。

 もしあの時、私を庇ったバベッチが偽者だとしたら、共に過ごした学院生時代のバベッチは偽者だったという事? いや、あの時だけ入れ替わっていたという事もある。

 そうだとしたら、バベッチは2人居たという事になる……

 私の思考はこの時点で様々な情報から、少しショートし始めており目の前の現状を受け止められずにいた。


「リーリア、そんなに難しく考える事じゃない。俺は本物で、死んでいない。そしてあの日お前を庇ったのは俺だが、本当の俺じゃない。分身の様な物さ」

「!? 適当な事を言わないで! 貴方がそんな魔法を使えるなんて聞いた事ないし、そもそもそんな魔法は実在しないおとぎ話の様なま――」


 そう私が言いかけた直後、目の前のバベッチが分裂し2人になり私は言葉を失った。


「分かってもらえたかな? 学院生時代にはもう使えていたが、隠していたんだよ。言っても良い事なんてないからな」


 直後1人のバベッチが指を鳴らすと、片方のバベッチは溶ける様に消えた。


「……バベッチ、貴方『モラトリアム』と関わりがあったと聞いたけど、本当?」

「あぁ。本当だよ」

「っ! ……何で……何で『モラトリアム』となんて関わっていたのよ。犯罪組織よ? この王国を転覆させようとした奴らよ。いつからよ、バベッチ」

「リーリア、勘違いしないで欲しいけど俺が関わったのは、つい最近だ。一緒に戦っていた時は、一切関わりなんてないからな」


 私はその言葉に安堵などせずに、バベッチの事を睨む様に見つめたまま私は問いかけ続けた。


「それが本当だろうと、嘘であろうと関わっていた時点で貴方もそいつらと同罪よ、バベッチ。貴方が本物かどうかも全部含めて真実を聞かせてもらうわ。だから、ここでおとなしく捕まりなさい」

「捕まるのは勘弁だな。リーリアはさ、俺の目的が知りたいんじゃないの? どうして『モラトリアム』なんてと関わったのか? 何かそうせざるをえなかった理由がなかったのではないかとかさ? リーリアが聞きたいなら、俺は全部話すけど、どうする? 聞きたいかい?」

「……どうしてそんな事を言うの?」

「それは俺が、リーリアの事が好きだからさ。好きな子が知りたいと言うなら、俺は教える。ただ、それだけのことさ。それで、どうするリーリア?」


 バベッチが私に好意があるのは、学院生時代から知っていたし告白までされたが、断った。

 それでも変わらず友人としての関係をあの頃は続けていたが、ここでそんな事を言われても何か答えを返す気もないし、相手もその答えを返して欲しい訳でもないのは分かる。

 ただバベッチは、私が目的を知りたいかどうかだけを気にしているだけだ。

 このまま話を終えたら、バベッチは立ち去ってしまうだろうからこの場で何としてでも足止めをしていれば、ティアがいずれ帰って来る。

 そしてら、そのままバベッチを捕らえれば全ての事が分かるはずだ。

 なら、この場は少しでもバベッチから情報を引き出す事が出来る方を私は選ぶ。

 今のバベッチをこのまま逃がすのは危険だと、私の直感も訴えているしね。


「本当に教えてくれるのバベッチ? 貴方の目的を」

「もちろんだ」

「なら私に教えて。貴方は何が目的で『モラトリアム』と関わり、私たちに死の偽装をしたの? そして今、何をしているのかまで」

「欲張りだなリーリア。全部に答えるのは無理だ。だから、言った通り目的だけ話すよ。俺の目的はね、意識改革さ」

「意識改革?」


 するとバベッチは、机に置いてあった飲み物の液体を魔力で操り自分の前へと持ってきて、それを使い説明を始めた。


「リーリアも知っているだろ、この国や世界がどう言う人間を認めていて、認めていないかを」


 この国、いえこの世界では基本的に力があり頑張り続けた者を基本的に認める傾向があり、目標や夢に向かって頑張り掴み取る事が出来ればいいが、必ずしも皆がそうではない。

 頑張ってもダメだった者は、それまでの頑張りがどうであれ認められる事はない。

 だからこそ、人々は途中で叶えられる夢や目標へと変えて人に認められる事で今を生きている。

 だが、今ではその言う意識は変わりつつあり、自由にやりたい事をやると言う人が少ないが増えて来てはいる。

 しかし、世界的には頑張ってそれを掴み取った人が認められる世界であるのは変わりがない。


「皆人それぞにやりたい事、夢、目標はある。だが、全員が当初の道をそのまま突き進まない。それはこの世界が頑張って掴み取った者しか認めないからだ。世の中には、頑張っても手が届かない人や環境で諦める人もいる。リーリアもそれは知っているだろ」

「えぇ、学院生時代に見たからね」

「俺は、そんな奴らが認められないと言うのがおかしいと思うんだよ。だって、そいつらだって血がにじむような事をしてたりするじゃないか。確かに、そうじゃない奴もいる。だけども、そんな奴らをひとくくりで認めないとするのは、間違っていると思うんだよ」


 バベッチが言おうとしている事は、何となく分かる。

 それに世界も少しづつだが変わり始めているのも確かである。

 と言っても、それがこの先世界の常識を変えるかと言うと、必ずしもそうなるとは言えない。

 私はバベッチに対し、昔とは違い今はそう言う思想の人が増えており、世界も変わり始めていると伝えるがバベッチは軽く首を横にふる。


「今のままじゃ、弱く、遅いからいずれその灯は消える。だから、俺が意識改革の先導を行うんだ。手始めにこの王国からな」

「何をしようと言うの?」

「この王国を乗っ取るのさ」


 そうバベッチが口にした直後、室内の方からティアがハンスを連れてベランダに出て来る。


「リーリア、ハンスも引っ張って来たわ」

「おい、そんなに引っ張らなくても行くからよ」


 2人は私が誰かと話している事に気付き、その場で足を止める。


「ん? 誰と話してるのリーリア?」

「服装的にはウェイターだな」


 するとその声を聞いたバベッチが、その場で2人の方へと振り返る。

 直後、ティアは持っていた飲み物を手から落としてしまい、地面に落ちて割れる。

 ハンスはあり得ない物を見ている様に、目を大きく開いていた。


「……バ、バベッ……チなの?」

「やぁ、20年振りだねティアにハンス」

「本当にバベッチなのか?」

「見ての通りさ、ハンス。君たちとも話をしたい所だが、まだこっちの話が終わっていないから、少しそこでじっとしていてくれ」


 直後バベッチが指を鳴らすと、何処からともなくいきなり4人の黒ずくめで顔を隠した者たちが現れ、ティアとハンスの口と手を拘束した。

 更にバベッチは2人の足元を一時的に固定させる魔法を使った。

 運が悪い事に、今ベランダに居るのは私たちだけであるのでこの状況が中の人たちには伝わっていなかった。


「さぁリーリア、話を戻そう。俺はその目的を確実に達成する為に、協力者を探しているんだ。それは誰でもいいわけじゃない。俺が協力者として迎えたいのは君だ、リーリア」


 そう言ってバベッチは、私に向かって片手を差し伸べて来た。

 その後ろではティアとハンスがもがきながら何とか脱しようとしていたが、振り払う事も出来ずだた私たちの方を見ているだけであった。


「リーリア、君が居てくれたら目的達成に更に近付ける。君も昔、似たような事を言っていたじゃないか。だから、分かってくれるだろ?」

「っ……」


 バベッチはそのままゆっくりと私へと近付いて来て、近くで足を止めた。


「俺の手を取ってくれないか、リーリア?」

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