「え～と……何これ?」

「かつら」

「……うん。うん。分かるよ、分かるけど、どうしてこれを俺に渡すんだルーク?」

　オービンは状況が理解出来ずに困惑していた。

　だがルークは、それ以上は言わずただかつらをオービンに差し出していた。

「ひとまず何も訊かないで、これを被ってくれ兄貴」

「えっ……えっ!?　被るの!?　俺が!?」

「兄貴以外にいないんだ。頼む」

　その時、下の階の階段付近からゼオンとラウォルツの声が聞こえて来た。

「まずい、もう時間がない」

「おいルーク、さすがに理由くらい」

「兄貴、時間がないんだ。頼むよ、何も訊かずに被ってくれないか?　後でトウマがここに来るから、そしたらかつらはトウマに渡してくれればいいから」

「う～ん……」

　オービンはその場で腕を組んで唸りつつ頭を悩ました後、小さくため息を漏らす。

「分かったよ」

　そう言ってオービンはルークから差し出されたかつらを手に取って、自分でそれを被った。

「こんな感じか?　久しぶりのお前の頼みだ、今回は何も訊かずに引き受けてやるよ。でも、後でちゃんと説明しろよ」

「ありがとう兄貴!　それ、似合ってるぞ」

　ルークはそれだけ言い残し、階段を下りて行った。

　そして下でゼオンとラウォルツと話している声が聞こえた。

「(似合ってるって、そんなに嬉しくないんだが。にしても、急に何であんな事を言い出したんだあいつは?)」

　オービンはそんな事を思いつつ、ふと先程ルークが窓から何かを見ていた事を思い出し、窓の近くへと移動してそこからルークが見ていた景色を見た。

「(あいつ、何を見てたんだ?　……あっ、なるほど。それであんな事を言ったのか。全く、面倒な弟だ)」

　そこからオービンはルークが何を見て、こんな行動をしたのかの意味を理解し小さくため息をついた。

　直後、後方からゼオンの声が聞こえて来てオービンは軽く息を吐いてから振り返った。

「よぉ、ゼオン。対抗戦以来だな」

「オー……えっ」

　ゼオンはオービンの姿を見て、言葉を失ってしまう。

　その背後にいたラウォルツも驚いた感じであったが、声には何もだなさなかった。

　オービンはそのままゼオンたちの方へと近付いて行った。

「今日は学院祭に来てくれてありがとう。2人だけか?　他にも誰かと来たのか?」

「……」

「?　どうしたゼオン?　そんなポカンとした顔をして。何か変な物でも見たのか?」

「変なものって、今目の前のお前に驚いてるんだよ、オービン」

　ゼオンからの返事にオービンはとぼけた様に首を傾げて、ラウォルツの方を見ると小さく頷いて来た。

「何なんだよ、その髪は?　イメチェンってやつなのか?」

「まぁ～色々あるんだよ、俺にも」

　するとゼオンはその場で振り返りラウォルツの方を向いて、小声で話し始めた。

「え、本当にオービンだよな?　人違いとかじゃないよな?　僕間違ってないよな?」

「はい、間違っていないはずです。私もオービン様のお姿に驚きましたが、何か事情がありそうな雰囲気ですね」

「こう言う時はどうすればいいんだ?」

「そうですね、ひとまずもう一度理由を訊かれたらどうですか?」

「答えてくれるか?　あんな格好してるんだぞ」

「お～い、何2人だけで話してるんだ?」

　オービンは2人でこそこそと話す所に割り込む様に話し掛けた。

　するとゼオンたちは、小さく頷いた後オービンの髪の事について質問を始めた。

　だがオービンははぐらかす様な答えを続けていると、そこに誰かが勢いよく迫って来るような足音が聞こえて来て、3人は会話を止める。

「ん?　何か凄く嫌な感じがするんだか……」

「そうか?　俺はそんな感じはしないけどな」

　ゼオンの呟きに対して、オービンは違った雰囲気を感じ取っていると、ラウォルツが少しゼオンから何故か離れた。

　直後、階段から勢いよく上がって来たリオナをオービン越しに目撃するゼオン。

「リオナ……」

「え?」

「ゼオン!　まさか貴方がナンパをしているとわね!」

「ナンパ!?　何の事だよ!」

「とぼけないで!　動かぬ証拠が目の前にいるじゃない!」

　そう言ってリオナは、後ろ姿のオービンの肩に手を掛けた。

　突然の事にオービンは驚くが、そのままリオナに引っ張れて振り返った。

「このおん……な?　……えっ、オービン!?」

「お、おう……久しぶり、リオナ」

　その光景にゼオンは頭を抱え、ラウォルツは顔を少し逸らしてゼオンたちにバレない様に小さく笑っていた。

　そんな状況の所へ、トウマやリーベストたちが次々にやって来た。

「あれ?　クリスは?」

「ん?　……ぶっ!　もしかして、オービンか?　何だその髪」

「リオナ姉様?」

「どう言う状況?」

　人が多くなった事で余計に状況の説明が面倒になりそうだと、ゼオンはため息をつく。

　するとオービンが、被っていたかつらをとって話し出した。

「何があったか分からないけど、俺はゼオンと話していただけだぞ。後、トウマ君このかつら返しとくよ」

「え?　俺にですか?　てか、何でかつら?」

「ルークから渡された物だ。ちょっと面白そうだから、被ってただけだ。まぁ、変な誤解を招いたようだから、もうやらないけど」

　その言葉にリオナは謝罪していた。

　オービンは頭を下げる様な事じゃないとリオナに伝え、誤解させる様な事をした自分が悪いと伝えた。

　そんな中リーベストはかつらを被ったオービンの姿が忘れれず、笑い続けていた。

　リーベストの態度に二コルがオービンに対して謝るが、オービンは「放っておいていいぞ、そいつは」と答える。

「それで、リオナはどうして僕の場所が分かったんだ?」

「それはルーク君が……あれ?　ルーク君がいない」

「あ、あのオービン先輩。ここにクリスが居るってルークから聞いたんですけど」

「クリス君?　あ～ちょっと前まで居たけど、もういないよ」

「あの野郎～やりやがったな……っ!」

　突然トウマはかつらを持ったまま、その場から窓の方へと移動し先程まで居た場所を見る。

「あ～何やってんだ俺!　たっく、あいつは分かってたって事かよ。くっそ……」

「トウマ君、どうしたんだい?」

「すいません。俺、ルークを探しに行くんで、ここで失礼します」

　そう言ってトウマは、その場から急ぎ足で立ち去って行った。

「(あの感じは分かった感じかな、トウマ君も。お願いはしっかりやったぞルーク。お前の方もしっかりとやれよ)」

　するとオービンが軽く手を叩いた。

「さて、対抗戦以来の再会だし、うちのクラスに来ないか?」

「オービン様のクラスも出し物をしてるのですか?」

「あぁ、うちはお祭りがテーマだ。楽しいぞ」

「面白そう!　リオナ姉様、行きましょうよ」

「そうね。失礼な事もしてしまったし。貴方たちはどうするの?」

「もちろん行くぞ!　今日はオービンにも会いに来たんだしな」

「色々あったけど、やっと当初の目的を達成したし行かないなんて選択はないな」

「とか言って、お前本当はさっきの子に会いに行きたいんだろ?」

「ち、違うわ!」

　その後ゼオンたちは、オービンについて行きながら久しぶりの再会を楽しんだ。