な、何でマリアがラーウェンと一緒にいるのよ? てか、何か話している?
私はマリアの方へと見つからない様に近くに木々に隠れながら近付いて行くが、会場からの出て行く人混みの声で全く話している内容は聞こえなかった。
ん~さすがに話の内容は聞こえないか……でも、この場で出て行くのもな~……
と、私がどうしようかと考えていると、ラーウェンが話し終わったのかその場から立ち去って行った。
私は完全にラーウェンが立ち去ったのを確認し、すぐにマリアの元へと向かった。
「マリ……じゃ、なくてクリス」
「あ、姉さん」
「ねぇ、ラーウェンと何を話していたの?」
直ぐに私は先程まで話していた事が気になり、少し興味本位で聞いてみるとマリアは軽くため息をついた。
「はぁ~さっきのですか。見ていたのですね」
「えっ……あ~、ごめん」
「いえ、謝る事ではありません。それにさっきの方とは話していたと言うより、聞かされていたの方が正確です」
「聞かされていた?」
良く状況が分からず私は、首を傾げているとマリアはひとまず「先に入れ替わりましょうか」と言って、近くの木々の奥へと進んで行った。
私はその後を付いて行き人目がない木々の中でマリアと入れ替わり、クリスへと戻った。
「ふ~何か落ち着くな」
「おや、アリスお嬢様は男装にお目覚めになられましたか。これはリーリア様にも報告しておいた方がよさそうですね」
「ちょっと! 勝手にお母様に変な事を言わないでよ! で、さっきの話だけど」
「そうでしたね。……まぁ、あれは私と言うよりルームメイト、いえもうそうではないのでしたね。トウマの友人であるクリスに対して話している内容でした」
「どう言う事?」
するとマリアが、手をこまねいて私を近くへと呼びよせる。
私はそのままマリアの近くへと行くと、小声で話しを続けた。
「アリスお嬢様は、ラーウェンのフルネームをご存じですか?」
その問いかけに、私は首を横に振る。
「彼のフルネームは、ラーウェン・ギルアバンスです」
「えっ! ギルアバンスってあのギルアバンス?」
私の少し驚いた声にマリアはゆっくりと頷いた。
ギルアバンスと言う名の家は、貴族の家であるが世間的に悪い意味で有名なのだ。
その理由は、過去にギルアバンス家当主が、とある大罪を犯していると言う容疑で一度捕まったが、それは間違っていたとして釈放されている。
しかし、その事件はギルアバンス家の権力などによって揉み消されたのではと言われているのだ。
今では完全にそんな疑いも消え、清く正しいギルアバンス家として再建しているようだが、その当時は物凄い批判的な目で見られていたのだ。
「でもどうしてそんな話を……っ!」
そこで私はある事に気付くと、マリアはそれに関係がある話をラーウェンにされたのだと気付いた。
「で、でも! ちょっと待って! トウマの名前は、トウマ・ユーリスよ。証拠なんて、ラーウェンが言っているだけだし本当かどうかなんて」
「アリスお嬢様もお昼の彼の様子を見て、まだそう言えますか? あの感じでは、言いずらいですがラーウェンが話している腹違いの兄弟と言うのは本当の事なのでしょう」
「そんな……トウマがあの、ギルアバンス家の出身だったなんて……」
暫く私が黙っているとマリアが訊ねて来た。
「トウマの秘密を知って失望しましたか?」
「いいえ! 決してそんな事ないわ。ただ驚いただけだし、そんな事で失望なんてしないわよ! そんな事言ったら私の方が失望されるわ。性別偽ってたし、名前だって嘘言ってたんだから!」
私はすぐにマリアの問いかけを否定すると、マリアは微笑みかけて来た。
「な、何よマリア」
「いえ、無駄な心配でした。アリスお嬢様がトウマに失望し、良き友人を見捨てようとするならばビンタでもしようかと思っていただけです」
「ちょっと、急に怖いこと言わないでよ。そんな事でトウマとの関係を辞めるわけないでしょ!」
「ですから、無駄な心配だったのですよ。そしてラーウェンはトウマの過去を全て私に暴露する様に話して、今の様な事を狙っているのでしょう」
「えっ……」
その後マリアから、推測ではあるがラーウェンの狙いがトウマの周りから信頼をなくし離れさせようとしていると聞かされる。
話された内容としては、トウマはギルアバンス家の長男として生まれているが、それはその時の当主が仕えていたメイドとの間に出来た子供であったのだ。
そう、トウマは愛人との間に出来てしまった子供であり、その関係がバレてからはギルアバンス家の屋敷で一時期暮らす事になり、その間にラーウェンが正妻との間に生まれたらしい。
その後ギルアバンス家の逮捕事件が起こり、その前に屋敷から抜け出していたトウマとその母親は別の土地で暮らし続けたが、ギルアバンス家の噂や愛人関係であった事などが直ぐに広まり各地を転々としたらしい。
ラーウェンは、そんなトウマが惨めで嘘つきな奴であると洗脳する様にマリアに話し続けたのだと聞いた。
何故そんな事をしたのかの理由は正確には分からないが、過去の事や家の事情からラーウェンがトウマをうっとおしく思っているか、またはただの嫌がらせなのではとマリアは話してくれた。
確かに、その辺の事は私が直接聞いたわけでもなく、家の事でもあるのでむやみに首を突っ込むのもどうかと悩んでいるとマリアが軽く肩を叩いて来た。
「まず自分で考えるよりも、トウマと直接話し見るのはいかがですか、アリスお嬢様?」
「いや、でもさすがにトウマが話してくれてない事を、私がずけずけと話にいくのも……」
「アリスお嬢様、何を今更そんな事を気にしているのですか? 貴方もトウマに既に家の事情をバラしているのですよね?」
「えっ、な、何でその事を!? はっ……」
やばい墓穴掘った! ていうか、私まだマリアにトウマにバレた事伝えてなかったはずなのに、何で知ってるの!? エスパーなの!?
私は咄嗟に両手で自分の口を塞ぐも、マリアは笑顔で私の方を見つめていた。
その笑顔は、私の隠し事など全てお見通しと言う顔であった。
本当に何でトウマの事知ってるのよ? ……いや待て、普通に考えれば昨日入れ替わっている間に話的に分かるじゃん! あ~私ただの馬鹿じゃん!
と、勝手に自問自答して答えを導き出して悶絶していると、マリアが急に変な行動をしただした私を心配して声を掛けて来た。
「ア、アリスお嬢様? どうされた――」
とマリアがそう言いかけた時だった。
茂みの奥からこっちに向かって誰かがやって来て、私たちを見つけて声を掛けて来た。
「おい、入れ替わりは終わったのか?」
「えっ!? な、ななな、何でここに居るのよルーク!」
そこに現れたのは、ルークであった。
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