私が寮へと戻り、ルークの部屋と向かおうとした時だった。
その方向から、何かが壊れる大きな音が響いて来たので、急いで音が聞こえた方へ向かうと、そこではルークとトウマが互いに胸ぐらを掴み合いながら大声で怒鳴り合っていた。
「な、何が起きてるの? あっ、シン!」
「クリス! 2人を止めてくれ、もう僕じゃ止められない」
「その前に何があったの?」
シンにそう聞くと、突然トウマが部屋に入って来て、ルークと話がしたいと言い出したけど喧嘩になりだして、そのまま部屋の扉を壊して廊下に出て来たらしい。
慌てながらシンが説明してくれたが、その間にも2人は互いを廊下の壁へとぶつあいながら、声を荒げていた。
「いい加減にしろよ、トウマ! 何なんだよ、急に部屋に入って来て、喧嘩でも売りに来たのかよ!」
「あぁそうだよ! てめぇが、いつまでもくよくよしてるから、それが気に入らねぇんだよ!」
「お前に、そんな事関係あんのかよ! 誰にも迷惑かけてねぇだろうが! お前のストレス発散に俺を使うんじゃねぇよ!」
「誰がストレス発散だと!? 今のお前を見てると、発散どころかムカつくだけだ!」
「じゃ! 離してどっか行けよ、トウマ!」
「お前から掴みかかって来たんだろうが! お前が離せば、離してやるよ!」
全く2人の言い合いは収まる事無く、逆にエスカレートしているように思えた。
私は直ぐにトウマとルークに近付き、声を掛けるも全くこちらを見てくれもせずに言い争っていた。
ダメだ……全然聞こえちゃいない。
今日は確か、ミカロス先輩たちは寮にいないし、誰か呼んで来て止めに入っても収まらない気がする。
どうすればいいだ。
私は1人で悩んでいると、トウマがルークを突き放した。
「このままじゃ、埒が明かなね。ルーク、こうなったら魔法で決着つけようぜ」
「お前からそんな事を提案してくれるとはな。いいぞ、その提案に乗ってやる」
「ちょ、ちょっと2人共!」
そこで私が声を上げると、2人が初めて私の存在を認識してくれた。
「何だクリス。居たのか」
「居たのかじゃないよ、トウマ! それにルークも、何やってるのさ! 何で喧嘩してるんだよ!」
「こいつが先に売って来たんだよ。俺を馬鹿にするような事を散々言って来たんだよ」
「おいおい、俺は今のお前の状態を包み隠さず述べただけだよ。勝手にキレて掴みかかって来たのは、お前だろうが」
トウマとルークは再び言い合いを始めそうになったので、私は割って入ってひとまず落ち着く様に促す。
だが、2人は止まる事はなかった。
私はどうする事も出来ないのかと、考えているとトウマが小さく私に話し掛けて来た。
「悪いなクリス。これは、俺が決めたやり方だ。誰にも邪魔されたくねぇんだ」
「トウマ。それはどう言う」
そう聞く前に、トウマはルークを連れて寮の訓練場へと向かって行った。
どう言う事なの、トウマ。
何を考えているのか、全く分からない……俺が決めたやり方? 邪魔されたくない? もー意味が分からない! 何で喧嘩なんてするのよ!
私は両手で、頭をワシャワシャとしていると、シンが近寄って来た。
「クリス、大丈夫かい?」
「シン……どうしよう、2人を止めらなかった。誰か先輩を呼んで止めるべき? それとも、寮にいる誰かに手伝ってもらうべきかな?」
完全にテンパってしまった私は、どうしていいか分からずにシンに助けを求めるが、シンは落ち着いて私に話し掛けて来た。
「ひとまず、僕たちが焦っちゃだめだ。今から先輩たちを呼びに行ったら時間がかかるし、寮内にいる人を頼ろう」
私は一度深呼吸をして、落ち着きシンの言葉に頷いた。
「それとクリスには言っておこうかと思うけど、トウマはどこかわざとルークを怒らせた感じがあったんだ」
「トウマがわざと?」
「うん。何て言うか、自分に敵意を向かせたかったと言う感じ? 僕には分からないけど、トウマには何か考えがある風にも見えたんだ」
「……」
シンの言葉を聞いて、私はトウマの行動の意味を考え、ある心当たりに行きつく。
もしかして、トウマは私と似たような考えなんじゃ……もしそうだとしても、やり方が強引過ぎる気が……
そう考えた私は、シンに2人の後を追う事を伝えた。
「分かった。それじゃ、僕の方で誰か止めるを手伝ってくれそうな人を探すよ」
「ありがとうシン」
「あんまり無理しないでよ、クリス」
シンの言葉に私は頷き、急いで2人の後を追った。
そして寮内の訓練場に辿り着くと、既に2人がゴーレムを使い力をぶつけ合っていた。
直後ルークが、トウマに対して強力な魔法を使いトウマのゴーレムと吹き飛ばし、その反動でトウマを吹き飛ばされていた。
「うぁぁぁ!!」
「トウマ!」
「はぁ……はぁ……お前なんかが、俺に勝てると思ったのかよ、トウマ!」
するとトウマは、ゆっくりと起き上がりルークに言い返し始めた。
「今のお前に負けるつもりはねぇんだよ! いつまでも、兄貴に負けた事を引きずってるお前なんかにな!」
「っ! トウマ……お前に、お前なんかに何が分かるってんだ! 俺は今まで兄貴に勝つために力を身に付けて来た、負ける気もなく、勝てると確信していた。だが、実際はあのざまだ。どれだけやろうが、兄貴は俺よりも遥か上にいる」
「たった1度の負けで諦めるのかよ」
「見てて分からなかったのか! 兄貴の圧倒まで力に、俺は全く歯が立たななかった。誰もが兄貴の凄さを改めて知り、俺はさらに出来損ないな面を晒されただけだ……」
「……」
「この気持ちがお前に分かるってのか!? 今まで俺は兄貴と比べられ続け、いらない、出来損ないのレッテルを張られてたんだよ! いつかは俺も認められると思ってやってきたが、そんな日は来なかった。なんせ兄貴は天才で、誰もが認める凄い人だからな。俺がどんなに頑張ろうが、足元にも及ばなかったんだよ」
私は初めてルークの弱気な言葉を口にした所を見て、今までルークの支えとしていたオービンに勝つというものが、大運動会での勝負で完全に崩れたのだと感じた。
確かにあの戦いを見て、オービンに勝てると思った者はいないと言える。
さらにそのオービンと直接対決したルークが、それを一番身をもって実感したからこそ、今の様なルークになってしまったのだと私は思っていた。
するとトウマがルークに対して口を再び開いた。
「実力の差があるから、もう敵わないからって諦めるのかよ」
「だから、そう言う次元じゃないんだって分かんねえのかよ! 勝てない相手にいつまでも挑めって言うのか!」
「そうだよ!」
「っ」
「お前はオービン先輩の弟で、王様の子供だろうが! そんなちっぽけな事で、躓いてどうするんだよ! それでも、第二王子かよ!」
「……っ、俺を王子と呼ぶな!」
「だったら、オービン先輩にこれからも挑み続けろよ! それを止めたお前は、今まで逃げ続けた王子に戻るんだよ。何かに突き進むお前に、俺は凄いと思ってたんだよ。それが何であれな。王子とかそう言うの抜きでだ……でも、それを止めたお前には何の魅力もない。ただのヘタレで使えないダメで出来損ないのレッテルを張られた王子なだけなんだよ!」
するとトウマが勢いよくルークへと走り出すと、ルークのゴーレムをトウマがゴーレムが殴り抜いて、真横へと吹き飛ばし、トウマのゴーレムはその上に覆いかぶさる様に飛び込み動きを抑えつけた。
そしてゴーレムが倒れた所を縫うように走り抜け、トウマはルークの元へと近付く。
「お前がどんなに逃げても、王子である事実からは逃げられねぇんだよ! それが嫌なら、もう一度挑みにいけや!」
「っ!!」
そのままトウマは、ルークの顔目掛けて拳を振り抜き殴り飛ばした。
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