大運動会第10競技『代表戦』は、ここまで第3戦目まで終了してどちらも1勝1敗1引き分けの結果となっている。
残りは2戦となり、第4戦目の対戦相手が表示された事で、最終戦の第5戦目の対戦相手も必然的に決まる。
私は、第3戦目の対戦相手が決まった時から薄々とこうなるであろうと思っていた。
それは以前オービンが私のお見舞いに来た時に、話してくれた内容があったからだ。
今更私が何か出来る訳でもないので、ただ私は自分の試合に集中しようと決めルークには話し掛けずに、中央の競技スペースへと登って行った。
そして私が登り切ると、既に対戦相手であるエメルが先に上がって来ており待っていた。
「やぁ、初めましてだね。僕の事は……同級生から聞いてたりするだろうから、省くよ。君の噂は知ってるよ、転入生で第一期の試験でいい成績出したんだってね」
「え、はい。よくご存じで」
「にしても、互いに大変な試合展開で出番を迎えたものだね。僕としては、もう少し気軽に出るつもりだったんだけどね」
「それって、どう言う事ですか?」
「あれ? 何か気に障ったかな。僕はただ、気軽に出るつもりとしか言わなかったけど」
「それが、俺たちに負ける予定はなかった見たいに聞こえたんですよ。エメル寮長」
私は遠回しに馬鹿にされてると思い、少し強い口調で言い返すとエメルは顔色一つ変えずに返事を返して来た。
「僕はそんなつもりで言ったわけじゃないけど。そう聞こえたって事は、君自身が僕たちに勝てると思ってなかったと言う事じゃないかな?」
「っ!! そんなわけないじゃないですか!」
「どうだか」
エメルが肩をすくめるように言った事に、私は余計に腹が立ってしまい「違うって言ってるでしょうが!」と怒鳴る様に返すと、ちょうど開始の合図が鳴り響く。
私はその高ぶった感情のまま、エメルに向けて『スパーク』の魔法を唱え放つ。
だが、直線的な攻撃の為かエメルは軽々と移動してかわすと、何か指で弾く様な動作をするが何も起こる事はなかった。
その後も私は感情のまま、遠距離を狙える魔法を放つもエメルは全てかわし、同じ様に指で何か弾く動作をしていたがそれ以外には何もせずにいた。
そこで私もようやく落ち着きだし、今まで勝手に思い込んで馬鹿にされたと感情が高ぶっていたと反省し深呼吸した。
何してるんだ私、相手に乗せられてこれじゃ相手の思う壺じゃないの! 一度落ち着いて、しっかり状況を見るのよ。
今までエメル寮長は、私の攻撃をかわすだけで、特に向うから攻撃を仕掛けてくることもなく、距離も詰められずただ左右に避けているだけ……でも、何度か指を弾く様な動作をしていた。
あれは何? そんな事スバンから聞いてないし、聞いてた情報と少し違う。
確かスバンから、エメル寮長は遠距離攻撃を仕掛けてくるタイプって聞いてたけど全然してこないし、変に指弾くだけで何なのよ。
暫く相手の出方を見ようとクリスは攻撃を仕掛けず、エメルの出方を見ているとエメルが話し掛けて来た。
「あれ? もう終わりかい?」
「……」
「挑発にはもう乗らないという事かな? なら、始めるよ」
そう言うとエメルは、私を人形に見立てた様に両手を自分の前にかざし、小さく口を動かした。
エメルはかざした手に糸が付いているように、私を操っている様な動作をするが、一切何も起こることなくただエメルが変に指を動かしているだけであった。
私は何かの前兆かと思い、その場から動かず警戒していたが、全く何も起こる気配がなくただ時間が過ぎているだけと判断した。
「何だか分からないけど、今の先輩は隙だらけだぜ!」
と私が魔法を再び放とうとした瞬間だった、突然体の自由が利かなくなり魔法を放てず動きが完全に止まってしまう。
な、何なのこれ!? 体が全く動かない! 感覚はあるのに自由に動かせないし、石になったみたいだ。
すると目線の先にいるエメルの手の動きが完全に止まったかと思うと、またゆっくりと動かしだすとそれに操られる様に私の体が動き出す。
どうなってんのこれ!? 操られてる? え? え? 何もされてないはずなのに!
そのまま私は、エメルに操られる様に変な風に周辺を歩いてしまう。
「うんうん。面白い動きだ」
エメルは完全に操り人形を動かす様に、各指を動かし続けた。
そんな試合状況を見ていたダイモンは震えあがっており、オービンが「どうしたんだ?」と問いかけた。
「どうしたの何も、あいつの『操り人形魔法』を見ると体がゾワゾワすんだよ、俺様」
「ふふ、『操り人形魔法』ね」
ダイモンが言った言葉にオービンが笑いながら返すと、ダイモンは「何笑ってるんだよ!」と問い詰める。
するとオービンは、この場にスニークがいないか周囲を見て、まだ戻って来てないことを確認した。
スニークはと言うと、スバンの右拳を直接受け脳震盪を起こしたので、タツミ先生の元へと運ばれ診察を受けていた。
「スニークもまだ戻って来てないから、特別に教えてあげるけど内緒だぞ、いいな?」
「お、おう。で、何を教えてくれるんだ?」
オービンはダイモンに近付き、小声で話し始めた。
それは、エメルの使っている力についてだった。
今エメルがクリスを操り人形の様に操っているのは、彼特有の魔法である『操り人形魔法』と言われるもので相手の自由を奪い操る事が出来る魔法をされている。
だが、本当の所はそんな魔法ではなく、それどころか魔法ですらないのだ。
あれは、相手に対して高濃縮した魔力を取り込ませいるだけで、エメル自身は何もしていないのが真実なのだ。
人には一定量の魔力の器があるとされており、それを超えると自分でも操れなくなり勝手に体が、使えない分を消費して元に戻そうとするらしい。
エメルはそれを利用して相手の魔力の器以上の魔力を注入する事で、勝手に体を動かせて暴走させていたのだ。
そんな状態を、彼は自分が操っている様にただ見せているだけなのだとオービンはダイモンに言った。
「ま、マジかよ」
「と言うか、さっきダイモンは直でそれを体験したろ」
「え?」
先程、エメルを怒らせ突然動けなくなり倒れた事を思い出して、それかと聞くとオービンは頷いた。
「でもあれだど、聞いた状況と違うぞ」
「あの状態は、急激な魔力量の上昇で体の反応が追い付かない状態だよ。ダイモンはエメルに直接、高濃縮された魔力を注入されたからさ」
「ほ~そうなのか。てか、何でそれをあいつは『操り人形魔法』とか言ってるんだ?」
「それはね、エメルが言い出したんじゃないんだよ。彼は最初に全て説明しているんだけど、周りがそんなわけないと信じなかったんだ。それから、勝手に『操り人形魔法』だと呼ばれる様になって、説明するのも面倒になってそう言う風に振る舞ってるだけらしいよ」
オービンの言葉にダイモンは首を傾げた。
その時のダイモンの顔を見る限り、最初の説明を完全に理解出来ていなかったのか物凄い顔になっていた。
「オービン。勝手に寮長の秘密をしゃべられては困る」
「あっ、聞いてたの? スニーク」
そこに診察を終えて、顎に簡易的な治療した後があるスニークが会話に入って来た。
「そいつに話しても、どうせ理解出来ないからいいが、今後むやみに話すのは止めてもらいたいなオービン」
「(エメル自身は、別に真実を知られても構わないって言ってたけど、スニークはそれでエメルが変に思われると思ってるらしいから、ここはおとなしく従っておこう)」
オービンはそんな事を思いつつ、スニークの言葉に「悪かったよ。もう誰にも言わないと誓う」と返す。
それにスニークも「誓ったからには絶対だからな」と念を押すよう迫って来たので、オービンは少し後ずさりしながら絶対に言わないとに答えた。
その頃、中央の競技スペース上ではエメルがまだ、勝手に動き回るクリスを操る様に振る舞っていた。
「(最初に取り込ませた魔力量的に、そろそろ元に戻る頃か)」
するとエメルは、クリスを操っている様な動作をピタリと止めると、同じ様にクリスも体の自由が戻っていた。
「(さてと、彼の魔力の器もどれくらいか知れたし、さっさと終わらせてオービンにステージを譲ってやるか)」
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