学院対抗戦2日目競技は、ルーキーランクが終了し、先程ミドルランクの男子側の試合が全て終了した。
第1試合は王都メルト魔法学院とシリウス魔法学院のタッグマッチにて、ルーク・トウマペアとラーウェン・ドウラペアの試合が行われ最終的にラーウェンの規定違反行動によりルークたちの勝利となった。
だが、その後試合は会場の復旧で一時的に中断されたが、無事に修復も完了し第2試合から再開された。
第2試合は、特別枠選手とクレイス魔法学院戦であり勝者は特別枠選手であった。
ルーキーランクの時と同様に、相手を寄せ付けない様な戦いで相手に持てるだけの力を全て出し尽くしてから倒していた。
第3試合のネアルガ魔法学院とバーベル魔法学院戦であり、この試合は攻防一戦の展開であったが僅差でネアルガ魔法学院の代表選手が勝利した。
その結果、ミドルランクの男子側の試合で勝利したのは、王都メルト魔法学院・特別枠選手・ネアルガ魔法学院となった。
「いや~なかなか見応えがある試合だったな」
「そうだな、大方の予想では最終戦はバーベルの方が勝つだろうと言ってたけど、ネアルガもやるな」
「おいおいお前ら、何かかなり上から目線じゃないか?」
トウマがリーガとライラックに対してツッコむと、2人は「そんな事はない」ときりっとした顔で答えた。
「どうやって試合を観るかは、観る側の自由だからいいんじゃないのトウマ」
「た、確かにそうだな。うん」
シンリからの言葉にトウマは納得して頷いていた。
「そう言えばトウマ、クリスがあれから戻ってこないけど、何処か行ったの?」
「何かトイレに行くと言ってけど、混んでるじゃないのか? ほら、結構人がいるからさ」
「あ~確かに。僕もさっき言ったら外まで並んでたから、諦めて会場の外まで行ったよ」
「それは災難だったな。そしたらクリスもそうしてるのかもな」
シンリは「納得」と呟き、軽く背伸びをした。
ずっと座って試合を観ていたので、体も少し凝り固まってしまったのかトウマも立ち上がり軽く背伸びをした。
「ん~いてぇ……完全には治ってなかったんだ。ん? クリス。遅かったな」
「あぁ。トイレが混んでてさ、外まで行ってたんだよ」
「やっぱりな~さっきシンリとそうなんじゃないかって話をしてたんだよ」
その後トウマたちは女子側の試合が始まるまでの休憩時間に、軽く軽食でも食べようと会場外の売店へと向かって行く。
そしてあっという間に休憩時間も終わりに近付き、トウマたちが会場へと帰って来ると途中でルークと出会う。
「あれルーク? お前選手側の観覧席にに行かないのか?」
「あぁ行くぞ。その前にクリスに話があってな。次の試合は見逃すわけには行かないから、クリスと話したら直ぐに戻るよ」
「そうか。確かに次はジュリルが出るし、見逃せないよな。じゃクリス、俺たちは先に戻ってるからな」
そう言ってトウマたちは、先に席へと戻って行った。
そして2人きりになるとルークはじっとクリスの方を見つめ、口を開いた。
「で、上手くいったのかマリア?」
「あぁ。だけど少し驚いたよ。来るなら朝の時点だと思ってたし、来なかったから失敗かと思ったよ」
「まぁ、昨日のアレが上手くいった訳じゃないと思うが、何かしらがキッカケであいつをその気にさせたって所だろ」
「そうだな。これでお母様に直接、今の姿をお見せする事が出来て安心だ」
「お母様って、来てるのかお前の両親が?」
「こう言う大きなイベント事に、来ない両親はいないと思うけど?」
その言葉にルークは何故か考えた後「確かに……」と呟いた。
マリアはその反応クスッと笑った後、ルークに別れを告げてトウマたちの方へと向かって行った。
「(親父に母さんか……確かに来ててもおかしくないな。そう言えば兄貴を見ないけど、2人の所にいるのか?)」
ルークはそんな事を考えながら、急いで選手専用の観覧席へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――遡る事、1時間半前
ルークは私事マリアと会場内の代表選手のみしか入れない場所で接触していた。
「それで話とは何かな、ルーク?」
「クリスがお前に会いたいらしいぞ、アリス」
「っ!」
その言葉にマリアは何かを察し、直ぐに「分かった」と答えた。
そしてルークはマリアに私との待合場所と時間を伝えると、そのまま帰って行った。
会場ではその頃第2試合が始まり、大盛り上がりしていた時私は会場の外のベンチで座って待っていた。
一応ルークからは、伝えるだけはしたって聞いたけどマリアは来てくれるかな……
私は人伝でマリアを呼び出した事に、マリアが答えてくれないんじゃないかと変に不安に思って待っていると、そこにマリアが私の姿で現れた。
「ごめん、待ったクリス?」
「マリ、じゃなくて姉さん……ごめん急に呼び出して」
するとマリアは私の隣に座り「大丈夫よ」と答えてくれた。
「それで私も試合が近いから、用件は早めにね」
「分かってる……その……何と言うか……」
私は自分で言うと決めた事が、なかなか口に出せずに服の裾を触ってもぞもぞとしてしまう。
その態度を見たマリアは立ち上がってしまう。
「私も暇じゃないから、時間が掛かる事なら試合が終わってからでもいい?」
「いや、試合の後じゃ、あ~もう! 姉さん、俺と変わって欲しいんだ」
マリアは私の言葉を聞くと、ただじっと私の方を見たまま何も話さずにいた。
私もその目から目線を外す事無く、見つめ返しているとマリアが急に迫って来て口を開いた。
「勿論構いませんよ。アリスお嬢様自身の事ですし、私はただアリスお嬢様の代わりを務めていただけですので、断るわけありませんよ」
それを聞いて私は急に体の力が抜けて、ベンチに再び座り込んで軽くため息をついた。
「も~だったら、そんなピリついた感じで来ないでよ。物凄く緊張したんだから。てか、言うのだって緊張してて余計よ……」
「そう言われましても、一応試合前ですしそれが普通かと思いまして。では、さっさと入れ替わりましょうか。試合前で時間もそんなにないので」
「そ、そうだね……聞かないの?」
「何をですか?」
「その、急に入れ替わりたいと言った理由とか」
「どうしても、言いたいのであれば聞きますが。私としてはそこまで聞く必要はありません。今の私はアリスお嬢様ですが、本当のアリスお嬢様はアリスお嬢様ですので、その考えに従うのは当然でそれが今の私の仕事でもあります」
「マリア……」
「まぁでも、本音の所は物凄く気になりますけど、今回は後回しにします」
その後私は、マリアと一緒に近くの茂みで入れ替わりを済ませた。
その時に詳しい規則などを改めで確認した。
「一応最低限厳守する事は以上です。そこまで厳しいものはないので、問題ないと思いますが何かありますか?」
「ううん。大丈夫。心配があるとしたら、全力を出し切れるかどうかかな」
私は以外にも自分から言い出した割りには、急に凄く緊張し始めており今にでも口から心臓が飛び出るのではないかと言う位緊張していた。
するとマリアが私のそんな姿を見て、緊張をほぐしてくれようとしたのか声を掛けて来た。
「大丈夫ですよ、アリスお嬢様。次第に緊張もほぐれて行きます。あ、そう言えば伝え忘れていましたが、リーリア様たちも会場で見ているそうですよ」
「ありが……ん? ちょっと待ってマリア。今とてつもない事を口にしなかった?」
「とてつもない事ですか? いえ、私はただご主人様たちもアリスお嬢様のご活躍の姿を拝見していると伝えただけですよ」
「それーー! それよ! てか言い忘れてたって言わなかった?」
マリアは一瞬だけ間を空けてから「いいえ」と答えた。
「もー何でそんな事今言うのよ~マリア~。余計に緊張して来たんだけど……」
「アリスお嬢様なら大丈夫だと信じてます。あのまま私が出てたら、リーリア様に何を言われたか」
最後にボソッと呟いた言葉はアリスには聞こえておらず、ただただアリスは頭を抱えているのであった。
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