「ありがとうございました! ……はぁ~疲れた……」
私は最後のお客さんを見送ってから教室の扉を閉めた。
そのまま疲れ果ててその場で座り込んでしまう。
「お疲れさん、クリス」
「アルジュ」
そのままアルジュはクラスの方を見て、皆に向かって「お疲れ様!」とねぎらいの言葉を掛けた。
この時点で時刻は5時半過ぎを指しており、1日目の学院祭終了のアナウンスが流れていた。
途中まで手伝っていてくれていたレオンには1時間程前にお客さんの数も落ち着いた時に、離れてもらい最後にスイーツを食べてもらって手伝いから完全解放したのでここにはもういない。
「いや~マジで物凄い人だったな」
「休憩もちょっとしか取れないくらいだったもんな」
「皆のお陰で、何とか1日目を乗り越えられたよ。本当にありがとう。それと、当初のシフト通りに出来なくて申し訳ない」
アルジュがそう言って頭を下げるが、それを責める者はおらず逆にアルジュがしっかりと指示をしてくれたお陰で、休憩などがスムーズに出来た事を皆が口を揃えて言った。
「皆ありがとう。で、明日の事で早速相談なんだが、今日だけで2日間分の食料を半分以上消費した状態なんだ」
その言葉に厨房担当のピースやニックからも同様の事が話されて、具体的には明日の学院祭2日目も今日同様に1日は出来ないと告げた。
するとクラスの皆が少し動揺していると、トウマが代表して話し始めた。
「来る人全員に出してたからそうはなるだろ。と言って、今更追加で食料を買うって訳じゃないんだろ?」
「あぁ、そのつもりはない。だから、ここからは提案だが明日もこのまま店は続けるが、今日のペースを見ると早くて明日の午前中には品切れ状態になると思う。なので、品切れになった時点でうちのクラスの出し物は終了とし、それ以降は今日取れなかった自由時間とするのはどうだろうか? せっかくの学院祭に、ただ働いてお終いじゃ僕もつまらないしさ」
「乗った!」
アルジュの提案に一番最初に声を出したのは、トウマであった。
その直後に皆が次々にその案がいいと、声に出し始めた。
もちろん私もその案に賛成する声を出した。
本音を言うと、私も後半は休憩も少ししか取れていないし色んなクラスの出し物も見たいと思っていた所でだった。
クラスの感じを見ると、皆も同じ様な感じだったのかと私は思っていた。
「よし、それはさっきの案で明日は進めよう。それじゃ、片付けつつ明日の動きや仕込みなど取りかかろうか」
「「おぉー!!」」
アルジュの指示の下、私たちは暫く休憩した後看板やレイアウトなどを少し変更するなど明日の準備に取りかかり始めた。
そして学院内では明日の2日目に向けて、各所で出し物の準備などが行われ始めたので学院祭1日目が終了となったが、学院内はまだ騒がしくも楽し気な雰囲気であった。
そんな中、学院長室ではマイナとリリエルがおりリリエルはティーカップに注がれた紅茶をのんきに飲んでいた。
「リリエル先生、それでいつまでここに居るんですか?」
「ん? 居ちゃダメなのか?」
「一応、リリエル先生貴方はこの学院の関係者ではないので、出来ればこの場には居ては欲しくないんですが」
「そんな硬い事、気にするなよ。私も、何の用なくただ居座っているんじゃないんだから」
そう言ってリリエルは、再び紅茶に口をつける。
マイナはそんなリリエルの姿を見て諦めたのか、ため息を窓側を向いてつく。
するとそこへ、学院長室の扉がノックされる。
マイナが返事をすると、入って来たのは副学院長であるデイビッドであった。
デイビッドは、未だに学院長室にリリエルが居た事に驚いていたが、先にマイナへの用件を話し始めた。
「マイナ学院長、ご友人がいらしています」
「また友人? いや、決して嫌な訳じゃないが、こうも同じ日に私の所へやって来るなんて珍しくてな」
「それでそのご友人と言うのが……その……」
デイビッドは何故かそこで歯切れが悪くなる。
その反応を見てマイナは、誰が訪ねて来たのか大方予想がついたのであった。
「デイビッド副学院長、その人たちをここへ通して下さい。詳しくは私の方から訊きますので、大丈夫です」
「申し訳ありません、マイナ学院長」
「いいえ、貴方が謝る事ではありませんよデイビッド副学院長。今日訪ねて来る人たちが少し特別なだけですから」
デイビッドは再度頭を下げた後、外で待たせているマイナを訪ねて来た友人を名乗る者たちの元へ向かった。
そして暫くしてから、再び学院長室がノックされてマイナが返事をすると、2人の人物が学院長室へと入って来た。
「マイナ、よく分かったな私たちだと……って、何でアンタがここに居るんだよリリエル先生」
「えっ、リリエル先生!?」
マイナを訪ねて来た友人と言うのは、変装した状態のリーリアとティアであった。
「お前たちマイナを訪ねて来るかも、と思って待っていたんだよ」
「私たちをですか?」
その後、マイナは先にリーリアたちがどうして変装しているのかから訊ねて行き、今までの経緯を聞くのだった。
その間リリエルは一切口を挟むことなく、ただ黙ったまま紅茶を飲んでいた。
マイナはリーリアたちがお忍びで学院に来ていた事は、学院に張った魔道具の結界から魔力感知にて似た者が居たので、そうではないかと感じていたと明かす。
「貴方たちね、特にティア。もしバレたらどうしていたの? 王女なんだから、来るなら先に言ってよね。対応とか色々と考えなきゃいけないし、バレない様にもこっちで出来るんだから」
「ごめんマイナ。貴方に負担を掛けたくなくて、リーリアに頼んで強引に来たのよ」
「私は一度止めたが、もう行く気満々だったから仕方なくな。でも、バレなかったんだから、結界オーライでしょ」
「全くそう言う所は昔と変わらないんだから。いい、次からは絶対に一言言ってよね。何か起こってからじゃ、こっちの対応が大変なんだから!」
マイナはリーリアとティアに強く伝えると、2人も少しは反省し「はい」と答えた。
「そろそろ話はひと段落したかな?」
と、リリエルが話し掛けるとマイナが答えた。
「それでリリエル先生、それでリーリアたちを待っていたと言うのはどう言う事ですか? リーリアたちとは既に一度話したんですよね?」
この時既にリーリアとティアがリリエルに正体がバレて、連れて行かれて話した事をマイナは先程話で聞いて知っていた。
するとリリエルは立ち上がり、ソファーから少し離れた場所に立った。
「リリエル先生?」
「もう1人呼んでくるから、少し待っていろ」
そう言ってリリエルは次の瞬間、地面に魔法陣を展開させると一瞬で姿を消した。
「っ! 転送魔法」
「リリエル先生、どこに行ったの?」
3人が突然の魔法使用に驚いていると、1分もしないうちにリリエルが再び戻って来た。
その時帰って来たのはリリエルだけでなく、もう1人の人物がリリエルの隣にいた。
3人はその人物に目を疑った。
「ハ、ハンス!?」
「……ん? え? えっ!? な、何でお前たちがって、リリエル先生!?」
そこに居たのは、国王でありリーリアたちの同級生でもあるハンスであった。
ハンス自身もどうしてこの場に居るのか分からず動揺していた。
「これで人は揃ったな」
「いやいや、リリエル先生どうしてハンスを連れて来たんですか? と言うか、今王城に行ったんですか?」
「ハンス」
「ティア、俺にも何が何だか……さっきまで書斎で書類を呼んでいたら、次の瞬間にはここで」
「ハンス、貴方リリエル先生の転移魔法で連れてこられたのよ」
リーリアがそうハンスに教えると、ハンスは驚いた顔をしてリリエルの方を見る。
「何てことをするんですか、リリエル先生……と言うか、全然変わってないですね……」
「それはどうも。それじゃ、ハンスも連れて来たことですし、さっさと話を始めましょうか」
勝手に話を進めようとするリリエルに、マイナとリーリアが話を止めに掛かる。
「ちょっと待って下さいよ、リリエル先生。急に何を話そうと言うんですか?」
「そうよ。ハンスまで連れて来て、下手したら誘拐事件よこれ。そこまでして、懐かしい私たちに会いたかったじゃ、すまないわよ?」
「2人共、少し落ち着いて。リリエル先生も、もう少し目的を話してください。このままじゃ、話も進まないですよ」
「俺にはもう、何が何だか……」
ティアからの言葉と、リーリアやマイナの態度からリリエルは「分かった」と呟いた。
そしてまずハンスをこの場に連れて来て、何をしようとしたのかを口にし出した。
「今のお前たちの認識を、再度確認しようと思ってハンスも呼んだんだ」
「認識、ですか?」
「何の認識よ」
ティアもハンスも思い当たる節はなく、軽く首を傾げると続けてリリエルは話し出した。
「始めはするつもりはなかったが、私の気が変わったと言うのが理由だ」
「理由は気まぐれって言うのは分かったから、もったいぶらないで早く言ってよ」
リーリアがそう急かすと、リリエルは少し間を空けてから口を開いた。
「バベッチ・ロウについてだ」
その言葉を聞いた瞬間、リーリアたちは動きが止まる。
そしてその後、リリエルはリーリアたちにバベッチの事についてある事を訊ねるのだった。
そうして、様々な場所にて話し合いや明日への準備などが行われつつ、学院祭は2日目を迎えるのだった。
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