夏休みも終わり、遂に第二期学院生活が始まった。
クラスの皆は少し夏休みのダラダラした感じが抜けていなかったが、徐々に日数が経過する事で抜けていき、いつも通り騒がしい教室に戻った。
私はと言うと、夏休み最終日のレオン言葉にどうすればいいか分からず、少し上の空状態だった。
ちなみに、あれ以来またレオンには会っていない。
と言うより、会わない様にしているの方が正しい。
それとは別にもう1つ問題が起きている。
それは、何故かルークが全く口を聞いてくれなくなっている事だ。
正確に言うと、お兄ちゃんが来た日以降、何か避けられているのだ。
全く理由が分からず聞こうにも避けられるし、私が何かした記憶もないので完全にお手上げ状態だった。
私としては、特に仲良くなりたいわけではないが、レオンの事を相談できるのが今までルークだけだったので、一番悩んでいる事を相談が出来ずに少し困っているのだ。
「はぁ~」
「どうしたの、そんな大きなため息をついてさ。あ、もしかしてクリスは夏休みが恋しい人だな」
「違うよ、シンリ。ちょっと悩み事」
「ふ~ん。で、どんな悩み?」
「えっ……そ、それは~」
近くのシンリが、授業終わりに私の悩み事を聞いて来たので、どう答えようと考えているとトウマ、リーガ、ライラックが通りかかり話しに混じって来た。
「おっ、恋バナか? 話してみろよ、クリス」
「そうだ、そうだ。お前意外と女子生徒と仲いいよな。知ってるぞ、夏休みも女子を3人引き連れていたってよ」
「何!? そうなのかクリス?」
「あ、いや、それは」
「意外とクリスも隅に置けないね~」
「ちょっと、シンリまで乗るなよ」
私の悩み事が、何故か恋バナに変わりつつあるとトウマが割って入って止めてくれた。
リーガやライラックは、話を止めるトウマにブーイングしていたがトウマは、私の悩み事を真剣に聞いてやるべきだと言ってくれた。
そう言ってくれたトウマには申し訳ないが、さすがにレオンの事を素直に言う事は出来ないので、私はとりえず授業に身が入らないと適当な事を言ってその場をやり過ごそうとした。
すると以外にも、皆が真剣に考えて答えてくれたので余計に申し訳なくなったが、意外と為になるし、もはや実体験なのではと言う話しばかりで、皆と笑いながら聞いたり話したりして気持ちが軽くなっていた。
「まぁ、そのうち元に戻るさ。まだ始まって1週間しかたってないし、大丈夫、大丈夫!」
「そうそう。ライラックやリーガが言うんだから、問題ないよ」
「おいシンリ、それはどう言う意味だ?」
「別に~大した意味はないよ~」
「お前~!」
とシンリを捕まえ、揺らすリーガと問い詰めるライラックを見て私は笑った。
するとトウマが寄って来て小声て問いかけられた。
「そ、それでさっきの事なんだが……」
「さっき?」
「だから、夏休みに女子とデート的な事をしたって言う」
「あ~あれは、何て言うかか、その付き添い的なやつだよ……」
私が少し目線をずらし答えると、何故かトウマは「そうか」と言って安堵の息をついた。
どうしてトウマが安心したような表情をしたのか私には分からなかったが、これ以上聞かれたら面倒だから、何か言う事はせずに黙っていた。
すると教室に担任教員が入って来て、帰宅時間前の連絡会が始まった。
「よし席に着いたな。今日は重要な連絡がある。夏休みも終わり、そろそろ1週間が立つが今月末には毎年恒例の大運動会があるのは、お前らも知ってるな」
「大運動会?」
私が首を傾げていると、それを見た担当教員が私に気付き、軽く説明してくれた。
簡単に言えば、学年別でいくつかの競技を行い優勝学年を決めると言うものだった。
また、優勝した学年にはポイントが配布されるとあり、私はまたイベント事にクラスが大騒ぎになるのではと思ったが、何故か皆は騒ぐことなく普通に聞いており、少しテンションが下がっている様に見えた。
あれ? 何でそんなローテンション? いつもなら、ヒャッハー! とか、テンション上がるぜー! とか言いそうなのに、どうした?
既に、私の中での皆の印象がおかしくなっていたが、いつもとは逆の反応に私は少し動揺していた。
「おいお前ら、どうして露骨に大運動会でテンションを下げる。いつも見たいにテンション上げろよ」
担当教員も少しおかしくなっているのか、皆にうるさくしろと逆に言っていた。
するとアルジュが、この原因を口にした。
「先生、さすがに分かってください。こればっかりは、多分無理ですよ。なんせ、学年対抗戦って呼ばれるものですし」
「はぁ~やはりか……」
アルジュの言葉に担当教員もため息をついているが、私には全く分からずたまらず前にいるシンリに声を掛けた。
するとシンリは、分かりやすく答えてくれた。
学年対抗戦別名、大運動会は学年別に競技を行うが、競技自体が嫌とかイベントが嫌いになった訳でもなく、ただ一番気に入らいのが同学年で協力して競技に出る事だった。
4つの寮は、そもそも競い合う相手としての認識が強く、イベントも寮ごとを競い合わせるものが多い為、第2学年として協力してまで競うのが気に入らないのであった。
また、4つの寮が全く協力しない為、毎年ぐだぐたなイベントになってしまうためでもあった。
私は何となく今までの寮の代表者や関係を思い出し、納得していた。
「先生、もうその話はいいっすよ。どうせ、今年もぐだって終わるんだし。俺たちもそんなに楽しみじゃないよ」
「まぁしいて言うなら、ポイントが貰えるくらいだよな」
「そうそう」
皆が適当に流して終わらせようとするが、担当教員は不敵な笑いを浮かべ皆が不気味がった。
「ふふふ……お前ら今はそんな事を言ってるが、今年の大運動会は一味違うんだぞ」
「こわっ! てか、気持ち悪いっすよ、急に笑うとか」
「そんな事言わなくていいんだよ! おほん、いいか今年の大運動会は何と、お前らの寮長オービンからの提案があるんだぞ」
「「寮長が!?」」
まさかの人物の名前が挙がり、クラスの皆が声を出した。
「いい食い付きだな」
「そんなのいいから、寮長の提案ってのは何なんだよ」
トウマが担当教員を急かすと、持ってきた映像投影の魔道具を教卓に置くと、映像が黒板に映し出された。
そこには寮長のオービンが映し出された。
オービン寮長だ。あ、そう言えばオービン寮長と初めて会った後に、見た事あるな~と思ってガードルに確認したら、第一王子だって知って驚いたな~……たぶん私くらいだろうな、第一王子の顔うる覚えだった人なんて。
言い訳じゃないけど、あんまり見ない顔の人とか覚えにくくない? いや、私があんまり研究とか勉強ばっかやってたせいもかるかもだけどさ……
「……ん、あれ、これ映ってるミカ? あっ本当。あ、あ、あ、んん。やぁ、みんな俺だよ。……え? それじゃ分からない? 分かったよ、ミカ」
何だこれと皆が首を傾げていると、担当教員が念の為なのか中継とかではなく、事前に撮った物だと言った。
「改めて、オービン寮第3学年寮長のオービンだ。今日は第2学年の皆に対してだけメッセージを撮っている」
「俺たちに向けて?」
「俺たちってより、他の寮の奴らにもってことじゃないか?」
「君たちも聞いた通り、今月末には大運動会が開催される。それに先駆けて、俺たち第3学年は君たち第2学年に宣戦布告をする」
「っ!?」
突然の言葉に皆は驚いた表情や、自身の耳を疑った。
「もっと分かりやすく言えば、今年の大運動会で俺たち第3学年は、全力で君たちを潰しに行くという事だ。これは、冗談でも嘘でもないし、俺の独断でもない。各寮長も賛同し第3学年皆も承知してくれたものだ」
「おい、何を言ってるんだ寮長は?」
「いや……え? え!?」
皆は状況が理解出来ずに動揺していた。
「理由は簡単なことだ。君たちに俺たちとの力の差を実感してもらうだけだ。毎年、ただの先輩で終わるのもつまならし、せっかく後輩と戦えるのにぐだって終わるのもつまならいだろ。だから、今年はガチンコで行こうって事さ。ポイントについては、第3学年全体の半分を掛ける予定だ。だから、勝った方は例年より多くポイントを得られるぞ。悪くない話だろ」
「先輩たちとガチでやり合うって事かよ」
「マジか……あの寮長とやり合うとか、無理だろ」
「とりあえず伝えはしたから、大運動会楽しみにしてるよ。もう一度言っておくけど、こっちは本気で潰す気で行くから、しっかり団結して鍛えておいてね。残念な結果にならないようにね」
そう言ってオービンの映像は終了した。
暫く教室内は沈黙が続いたが、担当教員はそんな事関係なく話をし出した。
「と言うわけで、今年は少し趣向が異なる大運動会になる。なので、明日から魔力授業では学年合同で行う事になった」
「「な、なんで!?」」
「まぁ、第3学年も本気で言ってるし、お前らもしっかり連携やどの競技に出るかとか、いつもより早く話し合って決める時間が必要だろうと、教員たちで話し合った結果だ」
「そんなの無理だ! 先生だって、俺たちがどんだけ反りが合わないか知ってるだろ」
トウマの反論に皆も「そうだ、そうだ」と言うが、担当教員はそれはお前たちがどうにかして協力すればいい事だろと返されて終わる。
そして連絡内容は以上だと言って、担当教員は教室を出て行き帰宅時間となった。
トウマと数名は納得できないと言って、そのまま担当教員を追いかけて教室を出て行くが、ガウェンやニックと言ったあんまり気にしない連中は、荷物をまとめ教室を出て行った。
私はそんな事よりレオンの事が気がかりであったので、トウマの後を追いかける事もなく荷物をまとめている時に、ふとルークの方を見ると1人で不敵な笑みを浮かべていた。
それを見て私は、絶対によからぬ事を考えていると思い目線を戻し、荷物をまとめて教室を出た。
その時にアルジュを見かけたので、とりあえずレオンの事は伏せて相談してみるかと思い、思い切って声を掛けて相談しながら寮へと帰った。
一方ルークは、未だに教室に座ったまま、机に両肘をつけ、右手の震えを左手で抑える様な姿勢だった。
「(第3学年と全力でぶつかれる。あの兄貴と全力で勝負出来て、それを皆が観ている前でやれる! 最高だ、最高過ぎる舞台だ!)」
ルークは自身の武者震いを抑えきれず、居ても立っても居られず立ち上がり直ぐに荷物をまとめると、急いで寮の訓練場へと向かった。
「(まさか、兄貴の方からこんな事をしてくれるとはな。受けてやるよ、その宣戦布告! 大運動会が、あんたが俺に負けて醜態をさらす日だ!)」
その頃、オービン寮の第3学年部屋廊下の突き当り窓で、ヒビキが手を廊下にかざして立っていた。
「おいヒビキ、そんな所で何やってんだ?」
「ん? いや、面白い残留思念を見つけてね」
「へ~俺たちがいない間に誰かがここに居たのか。で、どんな内容だよ」
「それは教えられないな。見つけた俺の特権」
「ケチ言うなよ。お前しかそんな魔法使えないし、ちょっとくらい教えてくれよ」
「こればっかりはダメだ。ほら、さっさとあっちいけ」
ヒビキにそう言われ、同級生はケチと小さく言ってその場を離れて行った。
そして1人残ったヒビキは、窓から外を見てアルジュと一緒に帰って来るクリスを見つける。
「彼か……いや、彼女と言うべきかな」
――大運動会開催まで残り、23日
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