次の日、海の地平線から綺麗な朝日が昇り、合同合宿2日目を迎えた。
合同合宿のカリキュラム内容が一部変更になり、2日目以降は周辺施設を使用した、基礎訓練となっていた。
チームメンバーも一旦そのままで学院混在で続けているが、クリス班については全員欠席となっている。
怪我をして未だ意識が戻らないクリス、大事を取って欠席のシンとガードル、単独行動の責任もあるガイルは、3日間の謹慎処分となっていた。
また、ベンとマイクは怪我はないが、念のため検査を行う事になり欠席していた。
初めは寮の皆も動揺していたが、意識を切り替えてカリキュラムをこなして行き、2日目のカリキュラムが終了した。
その日の夕飯は、オービン寮生とは思えないほど静かに食事を済ませて、各自自室へと戻っていた。
その光景に担当教員も驚き、それほどクリスの事が心配でもあると同時に、心の状態が不安定になりつつあると思っていた。
初日から事件が起こり、更には重傷者まででる始末となれば、誰しもそうなるだろうと思っていた。
その日の夜、担当教員たちが、どう生徒たちの心のケアをしていくべきかを話していると、そこにタツミ先生がやって来て、クリスが目を覚ましたことを伝えるのだった。
合同合宿3日目の朝、オービン寮生たちにクリスの目が覚めた事を伝えると、一気に生徒たちが勢いよくせめよった。
目は覚めたが、面会は今はまだだめと伝えられ、タツミ先生からの許可が出てから順次許可をもらって会いに行って良いと伝えられるのだった。
その日は、前日に比べオービン寮生たちに活気がある様に見え、担当教員たちはひとまず安心していた。
そして3日目からは、クリスとガイルを抜いた、前日欠席していた生徒たちも参加し、昨日に引き続き、基礎訓練が行われたのだった。
ちなみに、基礎訓練の内容は魔力や魔法は使わずに、体力強化のためのトレーニングや、自身に不足している基礎能力を補う訓練が行われている。
そのまま3日目も無事に終了し、合同合宿も4日目を迎えていた。
「よし、傷の回復も思っていたより早いし、跡も残ってないな。ひとまず立って、軽く動いて見ろ」
「はい」
クリスは4日目の朝から、タツミ先生の診察を受けていた。
言われた通り、立ち上がり軽く飛んだり軽く体を動かして異常がない事を確認した。
「よし、もういいぞ。回復が速くて驚いたが、もうそこまで動けるなら問題なさそうだな」
「はい、ありがとうございます。これも先生のおかげです」
「いいや、俺だけのおかげじゃない。あの時、ガードルとガイルがお前の応急処置を適切に行って、知らせてくれたから、お前は助かったんだ」
「はい。聞きました。本当に、感謝しかないです」
「全く、誰が人の代わりに魔物の攻撃を直接受ける奴がいるんだ。運が悪ければ、即死だったかもしれないんだ。少しは反省しろよ」
タツミ先生からの言葉に、クリスは黙って頷いて返事をした。
確かにタツミ先生の言う通り、あの時の行動は自分の身を捨てて誰かを助け、自分も何とか運よく助かったが、本来ならば死んでいてもおかしくはないと理解していた。
咄嗟に動いた結果、自分が死んでしまったら、何の意味もないし、ただそれは命を粗末にしているだけだとタツミ先生にも強く言われた。
これに関しては、本当に反省すべき点であり、必死になって助けてくれたガードルとガイルにも感謝しなければいけない。
ガイルの単独行動が発端といえ、私はガイルを恨んではいない。
彼も反省もしているし、全員助かったのだから、私は今さら誰のせいとかではなく、今後同じ失敗を繰り返さない為に、今回の選択や行動をどう活かしていくべきかに意識を向けている。
「とりあえず、明日までは安静にしていろ。明後日からは、合同合宿に合流していいぞ。ただし、無理はするなよ」
「分かりました。ありがとうございます」
そう言ってタツミ先生は、医務室から立ち去ろうとすると、言い忘れた事を思い出して私に伝えた。
それは、今日から皆には面会してもいいと伝えるから、一斉に皆が来るかもしれないから、あんまり騒ぎすぎるなという忠告であった。
私は苦笑いで答え、ベットに座り窓から入る風を受けて、そのまま言われた通り安静にして過ごしていた。
知らない内に私は眠ってしまっていたらしく、気付くと外は既に夕暮れ時になっていた。
「寝てしまったのか……うぅーーっ」
私は背伸びをして、開けていた窓を閉めると、医務室をノックする音が聞こえ反応する。
一瞬タツミ先生の診察かと思ったが、今日また診察をするとは言われいなかったので、誰だろと思っていると扉を開けて入って来たのは、ガイルであった。
「よ、よう……元気そうだな……」
「まあね。今日やっと明後日から、普通に合宿に合流していいと言われたんだよ。少し体もなまってるのか、何か硬い気がするんだよね~」
「……ねぇのか」
「ん?」
ガイルの言葉が聞き取れず、聞き直すように体を近付けると、次は聞こえる声で話してきた。
「怒ってねぇのかよ。お前は、俺のせいで死にかけたっていうのによ、俺に謝れとか、何であんな事したんだとか、恨んだり怒鳴ったりしねぇのかよ!」
「いや、しないよ。それをしたら、君は許されたと思ってしまうんじゃないのか?」
「っう」
「決して怒っているとかで、許さないと言っているわけじゃないよ。確かに、ガイルの要因もあるけど、今回の怪我は俺の判断ミスで負ったもの。だから、ガイルだけのせいではないんだよ。それに、ガイルは俺の命も助けてくれているしな」
「だ、だけどもよ! 元をたどれば、俺があんな事をしなければ」
「そうだね。あの時、しっかりチーム行動が出来ていれば、あんな事にはならなかったかもね。でも、過去に戻ってそれをやり直す事なんで出来ない。だからこそ、次の選択の時に同じミスをしない様にすべきなんじゃないのか?」
「えっ……次の選択?」
ガイルは、私の言葉に困惑していた。
多分ガイルは、私に謝りに来たと同時に、怒って欲しかったんだと悟った。
そうすることで、自分の中で消えない、もやもやが晴れると思ったからだろう。
だが、私はガイルを怒らず、この後どうするべきかに気付かせようとさせたのだ。
私も、あの時こうすればよかったと考えないわけじゃない、確かにガイルを攻めて、怒鳴れば私の中にあるもやもやした気持ちは、解消されるかもしれない。
だけど、それではダメだと昔、お父様とお母様に言われた事がある。
昔私はよくやんちゃをして、他人に迷惑を掛けていた時がある。
その時、誰かのせいにしたり、自分には非はないと駄々を言っていた時があった。
そんな私に、お父様とお母様からそのままではいつまでも、一人前になれないと言われた。
起こってしまった事に足して、どうこう言っていては何も変わらない、また別の角度から同じ問題を起こしたりして、また怒られるんだよと教わった。
その時の私は、もう怒られるのはこりごりで嫌になっていたので、どうすればいいのかと聞くと、立ち止まらずに次の選択に活かす様にしなさいと言われたのだ。
それ以上、お父様とお母様はどういう意味か聞いても、何も教えてくれなかった。
なので、そこからは私なりに解釈をしたり、言葉の意味を考えて、今の考え方に辿り着いたのだ。
今になって、それが本当に伝えたかった事かどうかは、分からないけど、自分の中で納得はしている。
「とりあえず、何がいけなかったのかとか、どうしていれば良かったかを考えて、どうするためには今後どうすればいいかを、考えればいいってこと! ただ、落ち込んでいても仕方がないってことさ」
「今後どうするかを、考える……」
「ガイルも反省しているんだろ。俺も自分の行動や判断に反省したし、怒られたよ。だから、これで恨めとか怒鳴れとかもなし。はい、暗い雰囲気はおしまい! あっ、ごめん。また説教ぽいこと言ってたね。これも悪い癖だな……」
「……」
その後ガイルは、暫く黙っていたが、小さく分かったと呟くと医務室の扉を開けた。
そして出て行く前に、私に向かって頭を下げて、すまなかったそして助けてくれてありがとう、と言って、医務室を後にしたのだった。
私はガイルが出て行ってから、小さくどういたしまして私こそありがとう、と呟いた。
直後、医務室の扉が勢いよく開くと、トウマたちが流れ込んで来て、久しぶりに皆と会話をして時間が過ぎて行った。
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