「トウマ、ルーク」
「おっ、クリス」
私は会場の外で、選手専用の入口近くで2人を見つけ声を掛けると先にトウマが反応し少し駆け足で近付いて来た。
その後ろをルークが歩いて近付いて来た。
2人は既に治療が施されている姿であった。
「わざわざ出待ちかクリス?」
「俺は代表選手じゃないんでね」
「話したいなら入って来れば良かったろ」
「だから、入れないんだって言ってるだろ」
するとルークが顔をいきなり近づけて来た。
「アリスになれば問題ないだろ」
その言葉を聞き、私は直ぐにルークの顔を軽く叩こうと手を出すが、ルークは直ぐに顔を引き意地悪そうな顔を向けて来ていた。
私はその顔に腹が立ち、ルークの片足を踏んで仕返しをした。
「で、クリスはどうしてここに居るんだ? もしかして、俺に会いに来てくれたのか?」
想像以上にトウマが私に対してグイグイと来たので、私は少したじろぎながら「まぁ、まぁね」と答えるとトウマは凄く嬉しそうに「マジか!」と声を上げた。
「いや~やっぱり元ルームメイトの雄姿に惚れちまったか~そうだよな。なんつうか、ギャップ? 普段はおチャラケている俺が真剣に何かに取り組む姿を見て、そう感じちゃったか~」
「ううん。そう言うのじゃない」
私はきっぱりとそう答えると、トウマは勢いよくずっこけた。
「あ、あれ~? おっかしいな、そう言う感じじゃなかったか~あははは。そうだよね~……はっ! もしかして、ルークの方だったり」
「え~と、その、俺は……」
「えっ、何? その歯切れが悪い感じ? もしかして、図星?」
「いや、だから」
ルークは私とトウマのやり取りを見て小さくため息をついた。
「おいトウマ。あんまり分かりやすい空元気をするなよ。クリスなりに心配してるんだよ」
「……そうか。心配かけてたのか、俺……」
トウマはルークの言葉で片手で顔を少し多い、俯きながら呟いた。
だがトウマは直ぐに顔を上げた。
「すまん! 俺の事で変な心配かけた。でも、もう大丈夫だ。ルークに焚き付けられた勢いだったが、俺も吹っ切れたと言うか前に進んだ感じだ。まぁ、ラーウェンとはこれからゆっくりとどうするか考える予定だ」
「そうか。トウマがそう言うなら、俺も変な心配はもうしないよ」
「とは言うが、お前は直ぐに人の事に立ち入って来るからな。信じられないけどな」
そこにルークが口を挟んで来ると、トウマはクスッと笑う。
「そうだったな。お前とオービン先輩の時の事例があったわな」
「だって、あれはその」
「まぁ、何にしろここにいる俺たちは、互いに対して変にお節介だって事だな。クリスも、ルークもな」
トウマの言葉にルークは少し耳を赤くして、そっぽを向く。
それをトウマは笑顔で見た後、クリスの方を向いた。
「おい見ろクリス、ルークの奴が珍しく恥ずかしがってんぞ。隠してもバレバレだぞ~ルーク」
「っ! うるせぇ!」
トウマはルークの事を肘で突きながらからかい、、ルークはトウマの肘を叩いて否定している姿を見て私は声を出して笑ってしまう。
2人は私の笑い声に反応し、私の方に視線を向けた。
「ごめん。いや、少し昔の事をふと思い出したらおかしくてさ」
「おかしいって何がだよ、クリス?」
「初めて会った時は、トウマは何かとがって突っかかってくる奴だったし、ルークなんて無視するは変にプライド高いわだったじゃん。それがさ、今じゃこんな冗談言ったり助け合ったりする様に人の関係は変わるんだと思ったら、何か急におかしくってさ」
「ふふふ。それりゃ確かにクリスの言う通りだな。俺もトウマとまた昔の様に話せるとは思ってなかったしな」
「おいおい、マジかよルーク。それちょっと傷つくんですけど」
「悪かったって。でも、これもクリスが来たから変わったんだ。今があるのはお前のお陰だよ、クリス」
ルークの言葉にトウマは頷き、同じ様に「そうだな。お前に会えて良かったよ」と急に2人が感謝の言葉を掛けて来て、私は急に恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。
な、何で急にそんな事を言うかな……そんな真っすぐに言われると何て言うか、くすぐったいと言うか、何かムズムズするんだよね。
「もういいから、そう言うの。もう十分でお腹いっぱいだから。本当に、マジで……」
私は両手を顔の前に出しながら答えると、ルークとトウマは見合わせて笑いあった。
その後、何故か私はルークとトウマの両方から変な褒め殺しに合いをされたので、直ぐに仕返しに2人の足を強く踏んでやり地味な痛みを与えてやった。
マジでふざけんな。
女子が止めろって言ってるのに、何であいつらは面白がってやり過ぎるんだよ! 聞いてるだけで辛かったわ! ……でも、こんな事まで言い合えるのはある意味でこの2人は特別なのかもな。
そこで私はある事を思い出してトウマに話し掛けた。
「あっ、そう言えばトウマ。シンリから伝言あったんだ」
「おっシンリからか。あの戦いを見て称賛の言葉か?」
「聞きたい事がいっぱいあるから、だって。それと一緒に見てたリーガとライラックが、物凄い不敵な笑みを浮かべてたよ」
「……」
それを聞いたトウマは突然青ざめ始めた。
「ト~ウ~マ~く~ん~! み~つけた~!」
「っ!」
突然背後からの聞き覚えのある声にトウマがゆっくりと振り返ると、そこにはリーガとライラック、そしてシンリが笑みを浮かべて見つめて来ていた。
それを見た瞬間トウマは本能からか、脱兎のごとくこの場から逃げ出した。
怪我が治ったばかりだと言う事は関係なく、物凄い速さで逃げ出すがその後をリーガとライラックが鬼の形相で追い始めた。
シンリはルークに「色々あったけど、いいタッグマッチだったと思うよ」と声を掛けてトウマの後を追って行った。
「てか、何でトウマは逃げたの?」
「さぁ? 何か変な嘘でもあいつらに付いてたんじゃないのか? それか……いや、何でもないよ」
「おい、何だよルーク。そこまで言ったら言えよ」
「大した事じゃないよ。モテそうな奴を問い詰めに行ったってだけさ」
「?」
私はそれを聞いてもよくピンと来なかったが、そう言うもんなのだろうと思う事にした。
その後、その場に残った私とルークは暫く黙ったまま沈黙の時間が流れたが、私がその沈黙を破った。
「……あの……さ。ルーク」
「ん、何だクリス」
ルークは私の方は見ずに言葉を返してきた。
「え~と、ちょっとお願いがあるんだけど」
「お前が俺に?」
私の思っていない言葉に驚いたのか、ルークは私の顔を見て来たので、私は小さく頷いた。
ルークは暫く黙ったまま私の方を見た後、口を開いた。
「で、何だよお願いって」
ルークからの返答に私はただそのまま頼み事をルークに伝えた。
するとルークは何も変に反応する事無く「分かった」と言って、直ぐに歩いて行った。
私はただそれを見送る形でその場に留まった。
それから数十分後、会場の修復も終了し再び試合開始となる為、観客たちや一旦外へと出ていた代表選手たちも会場へと戻り始め、ミドルランクの第2試合目から再開された。
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