「見て理解しましたか? 失敗の影響は今体に出ている影響だけで、他は特に影響はないのです。安心してもらえましたか」
私は鏡を見ながら自分の顔や体型をべたべたと触った。
いや……いやいやいや! これどうすんのさ! 完全に女性じゃん! 男子用の学院服着てても完全に女子ってバレちゃうし、こんな姿誰かに見られたりしたら一番やばい!
と、私が心の中で焦っているとタイミング悪く近くで私を探すトウマの声が聞こえて来た。
「クリスーどこだー?」
「っトウマ……」
「お連れですか?」
私はその場で座り込み頭を抱える。
やばい、どうする? どうすんのこの状況!? トウマには正体がバレているけども、多分リーベストさんとかも一緒にいるだろうから見つかる訳には行かない。
リーベストさんには一度アリスとしての姿でも会ってるし、下手したらクリスが私と言う事がバレかねない。
とりあえずは、トウマに見つからずにこの場から逃げるしかない……でも、どうやって逃げれば……
私は唸りつつ頭を抱えていると、フェンが声を掛けて来た。
「大丈夫ですか? もしかして、私が見落としているだけで体調にも影響が出ているのですか?」
「あ、いや、体調は悪くないですが絶体絶命の状況と言うか、この状況のせいで陥っていると言うか……はぁ~」
「なるほど。私のせいと言うわけですね。それはすいませんでした」
そう言ってフェンは軽く頭を下げた。
私はそんなフェンに向かって「そう思っているなら助けて下さいよ」と言ってしまった。
するとフェンは直ぐに「分かりました」と返事をして来た。
そのままフェンは奥にあるロッカーから別の白衣と女子用の服を取り、私に渡して来た。
「えっ、これは?」
「服です」
「それは分かるんですけど、これをどうしろと」
「着替えて下さい」
「へぇ?」
「状況は完全に把握していませんが、とりあえず貴方はこの場にいないとした方が良いのでは思いました。なので、この場で別人になってください」
フェンは、今の私ならば連れのトウマやリーベストたちが完全に女性へと着替えてしまえば、同一人物とは分からないだろうと言う意味で服を渡して来たのだった。
私はその意味を理解したが、こんな所で着替えるのかと思うと直ぐに行動に移す事が出来なかった。
そのまま私がためらっていると、どんどんとトウマの声が近くなって来ているのに気付き、更にはリーベストや二コルもトウマに合流し探し始めているのが分かった。
「どうしたのです? 着替えないのですか? それとも、もう絶体絶命から逃れる事はしないと決めたのですか?」
「それは違いますけど……」
「けど?」
「クリスー? ん~どこ行ったんだ? リーベストさんたちの方では見てないんですよね?」
「あぁ、俺たちの方じゃ見なかったぞ。もう外に出たって言うのはないのか? 俺たちが知らないうちにするするっと見終わって先にルークと合流してるんじゃないのか?」
「いや、クリスはルークと違って黙って置いて行くような奴じゃないですよ。後、居るとしたら個別体験コーナーっていう所だけなんですよね」
「それじゃ、そこだけ見ていなかったら一度外のルークの方に行くでいいんじゃないか?」
「ナイス案だ二コル! よし、それで行こうじゃないかトウマ」
「分かりました。それじゃ、個別体験コーナーに行きましょうか」
や、やばい! トウマたちがもうこっちに来てしまう! あ~もう!
私はゴーグルを付けたまま見て来るフェンを見た後、直ぐに渡された服を持って奥の方へと移動した。
そして一度フェンの方を見ると、何故がずっとこちらを見て来ていた。
「あの、こっちを見つめられると恥ずかしいんで見ないで下さい」
「どうしてです? 別に異性同士じゃないので構わないと思いますが?」
「恥ずかしいんですよ! それに、こんな所で服を脱ぐこと自体があり得ない状況なんですから、見られたくないんです!」
何故か私の訴えに首を傾げるフェンだったが、私が威嚇する様に睨んだ事でフェンは後ろを向いてくれた。
私はその一瞬で、直ぐに制服を脱ぎ、渡された女性物の服を着てその上に白衣を纏った。
てか、この女性物の服はフェンさんのものなのだろうか? 私服?
「終わりましたか?」
「はい。それでどうです? 別人に見えます?」
フェンは私の方を見ると、そのまま近付いて来て白衣のポケットから眼鏡を取り出して私に掛けて来た。
更には長い髪を後ろで纏める様に、髪留めまで出してくれた。
私は出された髪留めを受け取り、髪を後ろで纏めてポニーテール状にして髪留めで止めた。
するとそこに、トウマたちが入って来た。
「あの~すいません。ここにクリスって言う奴がいません――」
「はい?」
「うわっ!? あっすいません。あまり見慣れない格好だったので驚いてしまいました」
トウマは振り返ったフェンの姿を見て、少しのけ反っていた。
私は少しフェンに隠れる様に立ち、あまり顔を向けない様に俯いていた。
「そう言う反応は慣れていますので、気にしないでください。それで何か用ですか?」
「えっと、クリスって言う男子がここに居ませんか?」
「クリス? すいません、私人の名前に興味がないので覚えてないのです。もしかしたら、会ったかもしれないですが、ここには今女子しか居ませんので居ないかと」
フェンがそう答えると、トウマがフェンの後ろに居た私の事を覗いてみて来た。
私はトウマと目を合わさない様にして、少し目線を逸らした。
だがトウマはじっと私の方を見つめて来ていた。
何でそんなに見て来るのさトウマ! そこは直ぐに目をそらす所でしょ……もしかして、バレた?
私は一瞬そんな事を思ったが、バレていないと思いつつじっとしていたが、私の心臓はバクバクと言う音がずっと響いていて気が気でなかった。
すると、そんなトウマの肩にリーベストが腕を掛けて来た。
「何だ何だ、お前は恥ずかしがりの子がタイプなのか? それとも、そう言う恥ずかしがり屋の子をいじめる趣味でもあるのか?」
「なっ! ち、違いますよ! 俺が好きなのは」
「好きなのは~?」
「っ……言わないですよ! 全く何言わせようとするんですか」
リーベストはトウマが答えなかった事に、少し残念そうな態度をとって肩に回していた腕を戻した。
そしてトウマは一度仕切り直す様に小さく咳払いをした。
「すいません。ここには居ないようなので、他を当たります。急に来てすいませんでした」
「いいえ。お力になれず、すいません」
そのままトウマたちは出て行くが、何故が二コルだけボーっとした感じでその場に立っていた。
それを見たリーベストが肩に手を置いて話し掛けた。
「おい二コル、まさかまた見惚れてたのか?」
「い、いや違う!」
「はは~ん、分かったぞお前のタイプが。前にも一度あったよな見惚れてた時がよ。確かあの時は対抗戦時の廊下でぶつかった相手だよな。確かに、あの時の子と少し雰囲気が似てる気がするが、まさかお前がああいう子が好きだったとはね~」
リーベストはニヤニヤしながら二コルに話すが、二コルはそれを否定しつつリーベストを押してその場を立ち去って行った。
「ちょっと、何してるんですか」
「いや~二コルがよ、お前がじっと見ていた子に見惚れててよ~」
「だから違うって!」
「何が違うんだよ。完全に見惚れてたろうが。前にもぶつかって支えたアリスの事が好きになってたろ」
「アリス?」
「リーベスト!」
その後二コルは、リーベストを出口に向かって強引に引っ張って行くのだった。
置いて行かれたトウマは、少し首を傾げていた。
「(アリス? アリスってクリスの本当の名前と同じだけど、一緒の人物なわけないよな。にしても、さっきの隠れてた子どこかクリスって言うか、アリスに雰囲気が似てた気がしたんだけど、気のせいか?)」
トウマはその場で先程出て来た個別体験コーナーの方を振り返るが、そのままリーベストたちが先に向かった方へと歩き始めるのだった。
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