とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

令嬢が男子寮へ男装し転入するもハプニング連続で早くも正体がバレる⁉︎
光逆榮
光逆榮

第198話 お見送り

公開日時: 2022年5月2日(月) 12:11
文字数:2,507

「お~お~混乱してるな~」


 フェルトは屋根の上から、ホテル敷地にて慌てている私を見つめていた。


「あれが、リーリアの娘のアリスだな。以前分身体を通じて見てはいるが、直接会うのは初めてだな。やっぱり、リーリアに目元が少し似てて娘って感じだな」


 するとホテルの敷地を眺めていたフェルトが、視線を上げて遠くの方を見つめた。


「まだ完全に逃げきれてはないけど、追っては来てないね」


 そう言うとフェルトは、片手で顔を覆う様にしてそのまま直ぐに離すと今までフェルトであった人物がバベッチへと変わった。


「もう少し収まるのを待ってから逃げるとするか。それまでは、アリスや学院生たちの事でも見ているかな……で、アンタはいつまで俺の事を監視し続けるわけですか『魔女』さん?」


 バベッチがそう言うと、背後に正しく魔女の代名詞とも言えるような帽子を被った人物が黙ったままバベッチの事を遠くから見つめていた。

 その存在に気付きながらバベッチは振り返らず声を掛けたが、その人物は何も話さずただバベッチの事を見つめていた。


「はぁ~あんたが誰なのかって言うのはだいたい予想がついているが、ただ監視し続ける事に何の意味があるんだ?」

「……」

「まただんまりかよ。まぁ、何もしてこないって言うなら俺からも何もしないけど、見られているって言うのも落ち着かないんだよね」


 バベッチはその場で振り返り、背後にいる魔女と呼んだ人物に向かって再度話し掛ける。

 だが魔女は、ずっと黙ったままバベッチの言葉に答える事はなかった。

 その変わらない対応にバベッチも諦めたのか、小さくため息をつく。


「もういいや。今更あんたが割り込んで来た所で、何かが変わる訳でもないし」


 するとバベッチは、再びホテルの敷地にいる私の方を見つめる。


「アリス。そのまま頑張って成長し続けてくれ、俺はそれを陰ながらに応援しているよ」


 そう呟くとバベッチは、その場から瞬間移動する様に立ち去って行った。

 バベッチの後方から見ていた魔女は、そのままゆっくりとバベッチが居た所へと歩いて来てホテルの敷地の方へと視線を向けた。

 直後、今まで全く口を開く事がなかった魔女が口を開いた。


「……リーリアの娘か」


 魔女はそれだけ呟いたら、バベッチと同じ様に瞬間移動する様にその場から姿を消すのだった。

 その後、バベッチを追いかけていたハンスたちはバベッチを完全に見失ってしまうのだった。

 一方で私は、突然のフェルトが現れたり消えたりで動揺していたが、何かそんな事あり得ないだろと完全に相手にされずに流されてしまった。


「いや、本当なんだって」

「あり得ないだろ。フェルトが急に出て行ったと思ったら、隣から急に現れるとか。なぁ、ライラック」

「そうだそうだ。何か見間違えたんじゃないのかクリス?」

「もしそれが出来たら、フェルトがマジシャンか何かとしか言いようがないじゃないか」


 私はこの時点で話す相手を間違えたなと思った。

 何でリーガとライラックに話したのかな私? フェルトは何かの勘違いじゃないかと言うし、他の人も疲れてるんじゃないかとか、見間違えとか言うんだよな。

 嘘は言ってないんだけど、何かそこまで言われると本当に私が勘違いしたみたいな感じになるんだよな……

 まぁ、何かされたって訳じゃないから、そこまで深く考える事じゃないか。


「はぁ~何か変な事で時間使ったかな。せっかくの慰労会なんだし、話したい人との時間を削ってまでやる事ではないな。よし、意識を切り替えて代表選手の人に会いに行くか」


 私はフェルトの件を一度忘れて、王女ティアと戦った代表選手の人を探しに会場を歩き始めた。

 その頃、フェルトはと言うと一人で夜風に当たっていた。


「フェルト? 何してるんだ? 食わないのか?」

「ピースか。俺はもう腹いっぱいだからいいだ」

「そっか。それじゃ僕はもう一周して全品食べて来るね~」

「あぁ、腹壊すなよピース」


 ピースはそのまま豪勢な食事のスペースへと急ぎ足で再び向かって行った。


「ピースは行ったが、お前は行かないのかニック?」


 そこにやって来たのは、ピースと先程まで一緒にいたニックであった。


「俺は、あいつみたいに食に興味があるわけじゃないから行かないよ。お前こそ、こんな端っこでボーっとしてるなんて珍しいじゃないかよ」

「そうか? まぁ、俺にもこうしたい時があるんだよ」

「似合わねぇぞフェルト」

「うるせえな、いいだろ別に」


 フェルトは少し口を尖らせながらニックに言葉を返すと、ニックは小さく笑った。


「で、何か悩みでもあるのか? 今日くらいは、話し相手ぐらいにはなってやるよ」

「え? お前がそんな事言うとか、何か企みでもあんのか?」

「ねぇよ、馬鹿。そんな事言うなら、話し相手にもなってやんねぇよ」


 そう言ってニックはその場から離れて行った。


「(悪いなニック。お前なりの優しさなんだろうけど、こればかりは話せないな。俺が2人いるか……暗部の話じゃ、少し前にも似た事があったらしいがそれと関係しているのか? クリスには勘違いだとか見間違いとかで逃げて来たが、一応組織の方には伝えておくか)」


 フェルトはそんな事を考えながら、それ以降の慰労会を過ごしていた。

 その後、慰労会もおひらきの時間となり各学院の生徒たちがぞろぞろと帰宅し出し、慰労会は無事終了となった。

 そして次の日、各学院はそれぞれの学院へと帰って行った。


 私はルークやトウマと一緒に、オービンの知り合いの所へと向かい別れの挨拶などをして見送った。

 そんな中、私は1人でマリアの元へと向かいまた少しの間の別れを惜しみながら、マリアと別れた。

 マリアは別れ際に「何かあれば手紙でも何でも出してください」と耳元で話し掛けられ、私は「もちろんそうする」と答えた。

 マリアとの別れを終えた後、私は両親の元へと向かい、お父様とお母様にも別れを告げた。

 それと同時に、改めて私のわがままを聞いてくれた事に感謝すると、2人は「頑張りなさい」と声を掛けて屋敷へと帰って行った。

 お兄ちゃんはと言うと、今日から既に仕事が始まっているらしく会う事は出来なかったが、王都にはいるのでまたどこかであえるだろうと私は思っていた。

 そうして、3日間の学院対抗戦が終了したのだった。

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