「えっと、どうぞ好きな所に座って……」
「アリスの言葉に甘えて、椅子に座らせてもらおうかな」
「……」
お兄ちゃんは私の椅子に座るが、ルークは立ったまま壁に寄りかかった。
うぅ~……何か空気が重い……雰囲気が悪い。
何なのこの雰囲気、物凄くここに居たくない感じのやつ。
私は交互に2人を見たりして、少し様子を伺ったが、どちらも何も話そうとはしなかった。
と言うより、お兄ちゃんが私の机にある物を物色しているので、話が進まないのであった。
直ぐにお兄ちゃんに止めるように言って、話が何だか聞くとお兄ちゃんは、「そうだったそうだった」と言って一度手を叩いた。
「アリス。俺が何でお前に会いに来たか分かるか?」
「……連れ戻しに来たから?」
「流石、俺の妹。大正解だ。だが、俺はもうお前を連れ戻す気はない。と言うか、会った時点で既に連れ戻すつもりはない」
「どいうこと? あんなに色々言ってたくせに」
するとお兄ちゃんに、もう一度ここの事を誰に聞いたか思い出してみろと言われ、お母様と答える。
「母上が、俺に全部話さないとでも思ってたか? もしそうだとしたら、余計に事態ややこしくなると思わないか?」
「確かに。てか、お兄ちゃんにその自覚があったんだ」
「もちろんだ。それくらい俺だって自覚している」
何故か自慢気味に答えるお兄ちゃんに、呆れてしまう。
そしてお兄ちゃんは、お母様だけでなくマリアからも今日までの事を聞いていると答えた。
つまり、お兄ちゃんは私がどうしてここに来たのかを全て知っており、今日までの出来事を全て知った上で私に会いに来ていたのだ。
「てことは、最初のあれはわざとやってたの?」
「まぁ、そんな所だ。お前がここではクリスって名乗ってるのも、ルークの鼻を折るために居る事も、半年過ごし更に成長して、新しい仲間たちと切磋琢磨し、それが楽しいと感じている事も全て知っている」
そこまで言われると、私は少し恥ずかしくなり顔が熱くなった。
お兄ちゃんは私に優しく微笑みかけ、「頑張っている妹を邪魔するような事はしないよ、でも全てを抱え込んじゃだめだよ仲間たちを頼ること」と言われた。
私はお兄ちゃんに、ありがとうと返し頭を下げた。
「何かあったら、このお兄ちゃんを頼れ。絶対にお前の味方になってやるからな。あっ、そうだアリス。ちょっと外にある飲み物を買って来てくれないか? 色々話して喉が渇いたんだ」
「いいけど。寮内にあるやつじゃダメ?」
「あるならそれでもいいよ」
「分かった。ルークもいる?」
「俺はいい」
そう少し冷たく答えるルークに対し、お兄ちゃんが妹の気遣いを無下にするなと言って私の分も含めて3つ持ってきてと頼まれ、私は2人を残して部屋を出た。
少し2人だけにするのは不安だったが、すぐに戻ってくれば大丈夫だろうと思い、足早に寮内の飲み物がある場所へと向かった。
「さて、やっと2人きりになれたね。アリスは当分帰って来ないから、ゆっくり話そうか」
「どう言う事だ? あいつは直ぐに寮内にある飲み物を持って帰って来る」
「普通ならね。でも、事前に寮の飲み物は全て空にするように、ふっくらした子に頼んだんだよ。あるとしたら、学院の方くらいだからさ」
ルークはその言葉に、ピースに頼んだのかと疑ったが、そこまでして自分と2人きりになる理由の方に頭を切り替えた。
「そんなに警戒しなくていい。さっきの話の続きをしたいだけだ。お前は、アリスの事が本当に好きなのか?」
「……はぁ?」
「だから、妹の事が好きかと聞いているんだ。マリアの話す感じから、そんな感じだと思ったから、直接確認してるんだ。本気で答えろ」
アバンの顔はふざけて茶化す感じではなく、真剣にルークが妹の事を好きかどうか確認している顔だった。
ルークはその問いかけに、一度迷ったが視線を逸らし答えた。
「す、好きだ……これが、聞きたかった事か?」
「何故目線を逸らす。本当に好きなら、真正面から好きと言えないのか、お前は」
「そ、それは!」
「恥ずかしいからか?」
「っ!」
アバンの言葉に見事に図星を付かれてしまい、返す言葉がなく黙るルーク。
それを見てアバンは、軽くため息をつく。
「ルーク、お前のその変に恥ずかしがり屋の所は、昔から変わらないな。雰囲気は変わったようだが、内面が全く変わっていないな」
「あんた、昔の俺の事を覚えてるのか?」
アバンはルークからの問いかけに、当然だと答えると、妹のアリスはお前の事は覚えていないが、自分は鮮明に覚えていると言い切る。
まさかの言葉にルークは驚く。
アリスでさえ覚えていない昔の事を、その兄が覚えている訳がないと勝手に思い込んでいた為だ。
「内気な感じでびくびくしていたお前を、妹のアリスは連れ出して良く2人で外で遊んでいたろ。もしかして、その時からアリスに思いを寄せるようになったのか?」
「……っ」
ルークは顔を赤くして俯いた。
アバンは小さく「当然と言えば当然か」と呟いた。
そして暫く沈黙が続いた後、ルークが口を開き「それだけを聞きにきたのか?」問いかけるが、アバンは黙ったままルークを見ていた。
「本当にそれだけならもういいだろ、次は俺の質問に答えてくれよ」
「無理だ。お前にそれは教えられない」
「まだ、何も言ってないだろ」
「分かるさ。どうせ、兄貴に勝つために、さっきの力の使い方でも教えて欲しいんだろ。そんなの身に付けた所で、今のお前じゃ兄貴には勝てはしない」
「な、なんだと!」
アバンの言葉にムキになるルークだが、アバンは気にせず続けた。
「兄貴に勝つことだけしか考えていないお前に、アリスの騎士になる資格はない!」
ルークは訳の分からない言葉に怯み、小さく「はぁ?」としか言い返せなかった。
するとアバンが、椅子から立ち上がりルークに迫って行き、いきなり胸倉を掴み後ろの壁へと押し付けた。
まさかの行動に目を見開くルーク。
「だから、今のお前みたいに中身がなく薄っぺらい奴に、妹を好きになる権利はないって言ってんだ。第二王子、ルーク・クリバンス」
「な、何だよ急に! そんなのお前に関係ないだろが!」
「関係大ありだ。俺はアリスの兄だ、妹が幸せになる事を一番に考えてる。だが、お前じゃアリスを幸せにしてやる事は絶対に出来ない」
「何でそう言えるんだ!」
ルークは臆さずに、アバンに向かって強く言葉を言い放つ。
「言ったろ、中身がなくて薄っぺらいからだよ。そして、王の子としての自覚すら足りない、残念過ぎる王子だからだよ」
「お前!」
そう言ってルークは、押し付けられた状態から押し返そうとするが、アバンは全くびくともせず状態を変えるどころか、もう一度強く壁に押し付けられてしまう。
「(なんて力だ。全然押し返せない……)」
「お前は兄貴へのコンプレックスで、兄貴に勝とうとしているらしいが、もし兄貴に勝った後はどうするんだ? 何を目標に過ごすんだ? その先はどうするんだ?」
「そ、それは……」
「それじゃ逆に聞こう、兄貴にこのまま勝てないなら、ずっと兄貴に勝つ為だけに生きるのか? 兄貴が王になっても、その先も」
その問いかけにルークは完全に黙ってしまう。
アバンはそのまま同じ様に黙り、ルークが答えるのをずっと待っていた。
「俺は……俺は、兄貴に勝って認められたいんだ。俺でも兄貴に勝てる。有能なんだって、皆に知ってほしんだ」
「それで、どうすんだ?」
「それで……それで、俺は……俺は、王国で一番になる」
「なってどうする? その先に何がある、力だけを求めて何かが変わるのか」
「うるさい! お前に関係ないだろうが! 今俺は、兄貴に勝てればいいんだよ! その後の事は、その時考えればいいだろうが!」
「だからそれが薄っぺらい志だって言ってんだ! 分かれ! お前は王の子だ、いつまでも子供気分でいられる身分じゃねぇんだよ」
「お、俺だって」
「俺だって、王の子供に生まれたくて、生まれた訳じゃないといか言う言い訳が通るわけけねぇぞ。お前は王の子として生まれた、それは変えられない事実で、この先一生それを背負って生きて行くんだよ」
「うっ……そんなの関係ない」
「いい加減、王の子で第二王子という自覚を持て。そんなんだから、周囲から残念な王子だとか、期待に押しつぶされそうになったりしたり、変な奴に殺されそうになるんだ」
「うるさい! お前に何が分かる! 俺だって、俺だってな! 分かってんだよ! でも、昔から兄貴とずっと比べ続けて、一度だって勝てたことがないんだよ! 周りの奴らは全員、兄貴の方が凄い人だとしか言わないんだよ! まるで、俺なんかがいないみたいに」
ルークは勢いよくアバンを突き飛ばして、掴まれていた手を振り払った。
「そんな中で、王の子としての自覚を持てだと? ふざけんな! 持ったところで、みじめになるだけなんだよ! だから俺は兄貴に勝って、自分の事を認めさせるんだ、力だけなら兄貴に勝てるってな!」
「……つまらない生き方だ」
「誰に何と言われようが、俺は兄貴に勝って認められるまでやる。その為には何でも利用するさ、アリスだってあんただって」
その言葉を聞いたアバンは、一気にルークに殺意を向けた。
「その意気込みだけは買ってやろう。だが、アリスを危ない目に遭わせてみろ、その時俺はお前を殺す」
ルークは今までよりも低い声で言われた事に、音を立てて唾を飲み込んだ。
「これだけは言っておく。もし仮に、兄貴に勝て皆に認められ、お前が凄い奴になったとしよう。そしてアリスを貰いに来て、誰もが祝福したとしても、今から変わらないお前を俺だけは認めない。お前をアリスの騎士には絶対にさせない」
「さっきから何なんだよ、騎士って」
「そんなの、お前で考えろ。所詮は仮の話に過ぎないし、王の子と一介の領主の娘の身分違いの恋など、昔から実らないと歴史が語ってる。だから、アリスの事は諦めろ」
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