とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

令嬢が男子寮へ男装し転入するもハプニング連続で早くも正体がバレる⁉︎
光逆榮
光逆榮

第62話 夏だ!海だ!水着大事件だ!

公開日時: 2022年4月8日(金) 06:01
文字数:3,676

 私は今、とてつもなくやばい状況にいる。

 正しく絶体絶命と言える状況だ。

 そう、今私は男物の水着を着させられようとしているのだ! え? 何が絶体絶命かだって? 分かるだろうが! 女の子が男物の水着着る事がだよ!


「はぁ~」


 私は大きくため息を漏らすと、トウマが何ため息ついてんだと言って来て、浜辺の小屋で水着を借りる手続きをしていた。

 合同合宿最終日、各自自由時間と言われ私はゆっくり過ごそうとしていたが、トウマに強引に連れられ浜辺に来ているのだ。

 このままじゃ、女と言う事がバレるし、ここで逃げて変に怪しまれるのも面倒だ。

 となると、この状況を切り抜けるためにやる事は1つ。

 そう仮病だ! これらば、自然にここから立ち去れるし、トウマも流石にこんな私を浜辺に置いておかないだろう。

 そして私は、トウマが背を向けている所を見計らい、手をお腹に当て突然の腹痛に見舞われた状況を作り出し、声を出した。


「あっいた……イタタタ……急にお腹が~」

「お、おいクリス。大丈夫か? 腹痛か?」

「うぅぅ……そ、そうみたい……これじゃ海には入れないから、俺は一度戻るよ」

「あ、あぁ。そうした方がいいな。残念だが、体調が一番だもんな。よし、施設まで送るぞ」

「ありがとう。すまん、トウマ」


 トウマに謝るとトウマは、気にするなと優しく声を掛けてくれたが、その屈託のない笑顔を見て私は嘘をついている事に、とてつもない罪悪感を覚えトウマから目を逸らした。

 すまんトウマ! こればかりは、私の進退とか色々あるから勘弁してくれ……そんな屈託のない顔を私に向けないでくれ。

 私はトウマに連れられ浜辺の小屋を出た所で、同じく浜辺に来ていたジュリルやモランたちと偶然出くわしてしまう。

 その姿は水着姿で、ビキニやワンピース姿や長袖のパーカーを来ている姿の女子も居て、バリエーション豊かなであった。


「おや、クリスに自称親友ではありませんか? どうしたのですか?」

「お前な、まだそうやって俺を呼ぶのか……まぁいい。クリスが突然腹痛でな、施設に戻る所だ」

「クリス、大丈夫ですの? そうだ、良ければ私が見て差し上げますわよ。これでも、少しは医学の知識もありますのよ」

「えっ」


 マズイ! まさか、こんな所でジュリルたちに出くわすなんて、想定外だ! やばすぎる、このままじゃ仮病とバレる。


「クリス君、大丈夫? もしよかったら、私が診てあげようか? 私も医学知識あるし」

「ちょっと、モラン。私が先に言い出したのだから、少しは遠慮してしさないよ!」

「いいや、ジュリル。私もここは引く訳にはいかないの。ジュリルが相手でもね」


 ん? モランがジュリルを呼び捨てにしてる? 確か前までは、さん付けだった気がしてたけど、何か期末試験の時にあったのかな?

 私はモランとジュリルの関係が気になったが、直ぐに自分の状況が悪い事に意識が戻りどうするか考えていた。

 そこに更に予想外の人物までやって来た。


「こんな小屋の前で、何やってるんだお前ら?」

「何? また面倒事か? 自由時間の時にまで起こすな、せっかく俺も休みが貰えたんだから、のんびりさせろ」

「な、何であんたらまでいるんだよ~」


 私が少し涙目で見つめた先には、サングラスを掛けたタツミ先生とルークがいた。

 するとルークは、今の私の状況を見て悪い顔をして口元が上がる。

 はっ! こいつ、今の私の状況を見て悪い事思い付いた表情をしやがった! お前、今よりやばい状況にするんじゃねぇよ! 私が女ってバレたらどうすんだ!

 私はそれをルークに強く目線で訴えると、それに気付き軽くため息を漏らした。

 ルーク、さすがに分かってくれたか。

 そう私が、安心した直後だった。


「仮病まで使って水着を着たくないのか?」

「ふざけんな、お前! あっ……いや~その、これは……あはははは……」


 今まで私を心配してくれて皆の視線が急に冷たくなり、私は冷や汗をかいた。


「はぁ~嘘をつかれてたのは気分が良くないが、本当に何もないならそれでいいよ。全く、そんなに水着着たくないのかよ」


 トウマがぶつぶつと言いながら、小屋へと戻って行く。

 他の皆も呆れた表情をしながらその場を立ち去って行った。

 そして皆がいなくなった後、私はルークに顔を近付けて、何であんなことを言ったのか問い詰めた。


「嘘ついているのが辛そうだったから、つい。それに、状況も打破できたろ。一石二鳥ってやつだな」

「一石二鳥ってやつだな、じゃないわ! もっと違うやり方があるだろうが! あのままバレてたら、お前どう責任とってくれるんだよ!」

「責任もなにも、お前が蒔いた種だろうが」

「ああいえば、こういいやがって、お前を少しは見直してたのに、やっぱり性格悪い奴だな!」


 私とルークが口喧嘩をしていると、タツミ先生が割って入って来た。


「で、お前はどっちの水着を着るんだ、クリス?」

「どっちて、もちろんおと……ん? 今、タツミ先生何て言ったの?」

「だから、どっちの水着を着るんだって。男物か女物」


 唐突の事に、私の頭は完全にフリーズしてしまい、何も考えられない状況になった。

 あっれー? おかしいな、何でタツミ先生が、私に女物の水着を勧めて来るんだ? 正体がバレてないはずなんだけど……あれ? 何で!?

 そして、次に私の口から出た言葉は、何でタツミ先生が俺に女物の水着を勧めるのだった。


「そんなの、お前が女だからに決まってるだろ。一応、気にかけてやったんだよ、これでも教員だからな」


 タツミ先生の返答に、私はその場で膝から勢いよく崩れ落ちた。


「終わった……終わっちまったよ、私の生活、将来、何もかも……あ~私はどうすればいいんだ~」

「うわぁ、何だよコイツ。いきなり倒れたら、ぶつぶつと言いやがって。俺何か変なこと言ったか、ルーク?」

「自覚ないのかよ、タツミ。あんたがクリスの正体を見破ったのを明かしたのが、今が初めてだったんじゃないのか」


 ルークの言葉に、タツミ先生はあ~と納得し、その場にしゃがみ落ち込むクリスに声を掛けた。


「クリス、お前が女って気付いたのは、初日の怪我で運ばれて治療した時だ。最初は俺も驚いた、まさか女だったとは思わなくて、声が出たぞ。ちなみに、この事は教員や大人には誰にも話してないから、安心しろ」

「え? 本当?」

「あぁ、本当だ。別にバラシても、何の得にもならないしな」


 そう言って、よっこらせと言いながら立ち上がるタツミ先生。

 私も涙目ながら立ち上がり、ルークとタツミ先生と詳しい話を聞いた。

 ルークも、タツミ先生が私の事を女だと知っていたのを知ったのは今日の朝であったらしい。

 医務室で2人きりの時に、突然その話になり知っているならいいかと、女だと言ったらしい。


 いや、そこは少しは隠そうとしろよ! と、小さくツッコミを入れたが、それは置いといて、タツミ先生は先ほども言った通り、私の事を学院に報告する気はないらしい。

 タツミ先生曰く、転入後から少し怪しい奴だと見られ、目を付けられていたらしく、それが女だと分かりスッキリしたので、個人的にはもうどうでもいい事らしい。

 少し教員としてその考えはどうなのかと思いつつも、黙っててくれるのであれば、私としてはありがたい事なので、そこまで口に出す事はなかった。


「で、話を戻すが、どっちを着るんだ水着?」

「いや、そりゃここで女物なんて着れないでしょ!」

「じゃ男物で、胸出して女でしたって、盛大にバラシに行くタイプか」

「そんなわけないだろがー! あんたは、頭おかしいんか!」


 私の返答に、タツミ先生は教員に対して、頭おかしいんかとか言う奴いないわ馬鹿が、と言われ一応謝罪をした。

 そして私が出した結論は、上半身まである男性用水着を来て、更にパーカーで日焼けしたくないと言う理由で、羽織って行くことにしたのだ。

 ルークには、本当に大丈夫かと少しニヤついた顔で聞かれたが、大丈夫だと強気で答えたものの、着替えて見て改めてかなりやばい事をしているなと実感し、着替えスペースで少し反省した。

 私は、意を決してここを乗り越えれば大丈夫だ! と言い聞かせてトウマたちがいる浜辺に出て行った。


 その後は、なるべく水辺は避けつつも皆に再度嘘の事を謝り、楽しく浜辺で遊んだ。

 タツミ先生は、パラソルの日陰の下にある椅子に寝そべっているだけだったが、ルークはやたらとべたべたくっついて来ていた、トウマを見てその引きはがし係りをしてくれた。

 その流れで2人がフラッグゲーム対決したりしたり、皆で昼食を食べたりと日が暮れるまで笑い、はしゃいで、とても楽しい時間を過ごせた。


「おーい、お前らそろそろ帰るぞ! 時間は守れー!」

「「はーい」」


 タツミ先生の引率の元、私たちは宿泊施設へと戻った。

 その日の夜は、合同合宿最終日と言う事もあり、最後に両院合同で外で肉や野菜を焼いて立食形式で食べる食事会が開かれた。

 合宿中にあまり話せなかった奴らや、クレイス魔法学院の人たちも少し話せたりして、合同合宿最終日が終了した。


 次の日、私たちは宿泊施設を後にし荷物を持って港に向かい、乗って来た船に搭乗した。

 そして南の島ことハサウェイ諸島を後にし、王都メルト魔法学院への帰路に就いたのだった。

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