「ふぅ~凄く緊張した~」
「大丈夫? 1年生君?」
「エ、エリス先輩!?」
「そんなに驚かなくてもいいのに。少し傷ついちゃうな、先輩」
エリスは小さくため息をつくと、それを後ろで見ていたダイモンが声を掛けた。
「おいエリス。1年の緊張を増してどうするんだよ。これからそいつらは試合なんだぞ」
「分かってるよ、ちょっとした冗談よ。ほら、あんまり1年生君と交流がないから、こういう時にこそ親睦をって思っただけ。ねぇ、ルークもそう思わない?」
突然前方を歩いているルークにエリスが話し掛けると、ルークが足を止めて振り返った。
「そうですね、エリス先輩。親睦を深めるのは大切だと思いますよ。なぁ、ジュリル?」
「え、えぇ。そうですわ。他の学年との交流自体少ないですし、こういう場を有効的に活かしていくのはいい事だと思いますわ」
ジュリルはルークからいきなり振られたにも関わらず、しっかりと受け答えをする。
「そうよね~。あ、そう言えばさっき言ってたタッグマッチの件だけど、誰が言い渡されたの? ちなみに私じゃないよ」
「それは俺ですよ、エリス先輩」
エリスの問いかけに、ルークが直ぐに答えた。
1年生やジュリルが少し驚いた表情をしていたが、ダイモンはそんなに驚く事なく問い続けた。
「それはいつ言われたんだ? 俺様もあのルールは初聞きだったし」
「入場の30分前ですね。でもダイモン寮長、あのルールは昨日事前に通達はされているはずですよ」
「あれ? そうだっけ?」
ダイモンの返答にエリスがジト目で見つめると、ダイモンはすぐにそっぽを向いた。
「どうせワイズの話でも適当に聞いてたんでしょう。全く、ダイモンは雑な所があるよね」
「う、うっせい! で、タッグマッチって言うんだパートナーは決めてるのか?」
ルークはその問いかけには直ぐに答えず、暫く考えてから口を開いた。
「はい。パートナーは決めていますし、どうせこの会場に来ていると思うんで、話をして引き受けてもらう予定ですよ」
「でもルーク様、さすがに急に代表戦に出場しろと言われても、相手の方は直ぐには承諾しないのでは?」
「いや、あいつはするさ。それじゃ、俺はそいつの所に行って話とかをしたりとやる事があるので、先に行きます」
そう言ってルークは、その場から先に立ち去って行った。
「へぇ~ルークにも頼れる存在が出来たって事ね」
「それくらいはいるもんだろ。それより、俺様はあの特別枠で出て来た方が気になっているが、エリスはどう思うよあの2人」
「あ、それは私も思いました。何と言うか、雰囲気から凄く実力がある人と言う感じでしたが誰だか全く予想が出来ないんですよね」
ダイモン以外にもジュリルや、1年生たちもあの特別枠で登場した2人の事が気になっていた事を明かし話が盛り上がり始める。
「俺様は対戦相手だし、早く戦いたくてうずうずしてるんだよ! あ~一体誰なんだ!」
「さあね? 私にも想像つかないわ。まぁでも、あんだけ大口を叩くと言う事は、余程凄い人だと言う事ね。しかも彼らは3戦とも出る様だし、ダイモンとやる事にはもしかしたらバテてるかもよ~」
「ふざけんなよ! そんなのつまんねえだろうが!」
「私に怒鳴られても困るんだけど」
エリスがダイモンに注意をすると、すぐにダイモンは謝罪した。
その後メルト魔法学院の代表者たちは控室へと戻って行った。
その頃、時を同じくしてシリウス魔法学院の一行も控室へと向かいながら話をしていた。
「おいラーウェン、お前タッグマッチらしいけどパートナーは大丈夫なのか?」
「リーベスト先輩じゃないんですから、大丈夫ですよ。それに俺のパートナーって言ったら、ドウラ以外にいませんよ」
「そうか。後、今の発言は聞かなかった事にしてやるから、俺がドジみたいな事はもう2度と言うなよラーウェン」
ラーウェンは「すいません」と謝るとリーベストは大きな声で「許す!」と口に出した。
「(はぁ~リーベスト先輩はたまにうざいけど、凄い人なんだよな。まぁ、二コル先輩の方が尊敬しているという面では上だけど)」
と言う事を考えながら歩いていると、リーベストから対戦相手について話し掛けられる。
「そう言えば、お前の相手オービンの弟だったな。なかなか面白い相手に当たったじゃないか。いいな~俺もオービンとかが良かったが今年は出てないし、まさか坊ちゃんと最後の年にやる事になるとはね。まぁ、あいつも弱くはないし楽しみなんだけどさ」
「(坊ちゃん?)」
「でよ、相手のルークは誰をパートナーに連れてくると思うよ? 俺はよ、同学年の次期寮長候補と呼ばれている奴らが来ると思ってるんだよな。お前はどう思うよラーウェン?」
そう問いかけられるとラーウェンは自信満々の表情で答えた。
「リーベスト先輩、相手が第二王子だろうが誰を連れてこようが俺たちは負けませんよ。なんてたって俺たちは戦闘に関しては、どの学院よりも特化していますし過去には無敗を誇ったアバンが居た学院ですよ」
「まぁそうだけど。相手を知ると言う事も大切だろ?」
「別に侮ってる訳ではないですよ。ただ、負ける気すらないだけですよ。所詮、第一王子のオービンよりは強くないですし、この目で戦いを見た所感情的になる場面も多く相手が勝手に自爆する事もありえますし、こちらが冷静に戦えば勝てる相手ですよ」
ラーウェンはそう対戦相手のルークの事を冷静に分析し、リーベストに答えると「そうか」と一言だけ答えた。
そうしてそのままシリウス魔法学院の一行は通路を歩いて行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はぁ~」
「どうしたのよ、ゼオン」
ゼオンは控室の椅子に座り、深くため息をついている所に声を掛けて来たのは婚約者でもあるリオナ・スオールであった。
リオナは、妹であるシルビィと同じくオレンジ色の髪が特徴であり、長髪ではあるが、髪を束ねて後頭部でまとめたヘアスタイルで後頭部にまとめた髪に白いリボンを付けているのが特徴である。
ゼオンはリオナからの呼びかけに顔を上げる。
「リオナか。あぁ、ちょっとな……はぁ~」
「どうしたのよ全く。ねぇ、ラウォルツ。何でゼオンがこんなになってるか知ってる?」
そう呼びかけた先には、妹のシルビィの横で話をしており同じ学院服を着ている白髪の男子がいた。
「いえリオナ様。私には分かりません、見る限りここへと戻って来た時には、既にそのようなご様子でしたので」
「ラウォルツ、仮もゼオンに仕える従者ならそんな時こそ声を掛けるべきではないの?」
「リオナ様、私も以前まではそのように対応していたのですが、ゼオン様からそう言う時は1人にして欲しいとご要望を受けましたのでそっとしておいているのです」
「そうなの?」
ラウォルツは、ゼオンの従者として学院にも入学してきているが年齢は同い年であり、常に目を瞑っているのが特徴である人物であった。
リオナはラウォルツからの返事を聞き詳しく聞こうと近付き始めると、近くにいた妹のシルビィが口を開いた。
「リオナ姉様、ゼオンがそんなになってるのはたぶん、対戦相手がリーベストさんだからだよ」
それを聞いたリオナは納得したように「あ~なるほど」と呟いた。
「全く、いつまでリーベストに苦手意識を持ってるのよ。別にボロ負けしたわけじゃないんだし」
「リオナには分からないよ」
そうゼオンがボソッと呟いた一言で、シルビィとラウォルツが小さく「あっ」と呟きため息をついた。
直後リオナがゼオンの方に近付いて行き、胸ぐらをいきなり掴みかかった。
「うぇぇ!?」
「へぇ~心配してあげた私にそんな事言えるなんて、凄いわ~ゼオン。私尊敬しちゃう」
「リ、リオナ!? ぜ、全然そんな感じじゃないよ! 全然!」
そんな2人のやり取りを後ろからバーグべル魔法学院の代表者たちと一緒に、シルビィとラウォルツは見つめていた。
「あ~あ。また変な事をゼオンが言うから。いつも変な時にいらない一言を発するよねゼオンは。どうにかならないのラウォルツ?」
「私からも言ってはいるのですが、直らないのであれはもうゼオン様の癖ですね。まぁ、あれは完全にゼオン様が悪いので私も止めには入りません」
「でも試合前だって言うのに、何かいつもの学院での風景を見ているみたいで、何かリラックス出来たよ。まさか、それを狙ってたわけないよね?」
「さすがにゼオン様でも、そこまで考えてあのような発言はしないかと。でも、シルビィ様の言う通り、皆さんの少し硬い表情が柔らかくなっているので結果オーライですね」
そうしてバーグべル魔法学院の代表者たちは、控室で日常の雰囲気を作り緊張がほぐれていた。
そして、クレイス魔法学院はと言うと控室で他の生徒たちと代表者たちが会話をしてリラックした雰囲気を作り出していた。
だが、その場にマーガレットとアリスの姿はなかった。
「あれ? アリスの奴を激励に来たのに居ないじゃん。またどこか行ったのかあいつ?」
メイナとジェイミが控室でアリスを探していると、1人の生徒が話し掛けて来た。
「アリスさんなら、マーガレット先輩と2人きりでどこかに行ったよ」
「えっ!?」
まさかの返答に2人は驚きの表情をするのだった。
そしてマーガレットとアリス事マリアは、2人きりでとある会場内の通路にいたのだった。
「それで、私を呼び出した要件は何でしょうかマーガレット先輩?」
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