えっ、今私の名前言わなかった?……
私は時間が止まったかの様な感覚に陥り、その場で何が起こっているのか考えようとしたが、全く思考が回らなかった。
「お前がクリスって言うのは、俺には分かってるぞ。だから、下手に嘘を付かなくていい」
「……な、何の事かな~」
私はルークの言葉を無視して、このままやり過ごす選択をしたが、ルークは呆れた様にため息をついて私の方へと近付いて来た。
「あのなぁ、嘘を言っても分かってるんだよ。お前、フェンって言う人の魔道具実験受けて変になったんだろ」
「何でその事、あっ……」
「だから分かってるって言ったろ。とりあえず、場所を変えよう。あいつらが嘘に気付いて、もしかしたら戻ってくるかもしれないからな」
「えっ嘘?」
私は首を傾げたが、ルークに手を掴まれてそのまま引っ張られて別の場所へと連れて行かれた。
そのまま私たちはグラウンド近くまでやって来て、ベンチに座った。
「とりあえず、ここまで来れば大丈夫だろう。それにしても、クリスよくその変装でバレなかったな」
「うっさいな。仕方ないだろ、あの人に借りた物しかなかったし、こんな事になるなんて思ってなかったんだから」
ルークは少し笑いながら私の服装をいじって来たので、私はそっぽを向きながら答えた。
「俺はお前がレオンと一緒に居た時から、分かったぞ」
「えっ、あの時見てたの? てかいつから?」
「レオンがダンデに連れて行かれる時に偶然見かけたんだよ。二コルさんとも仲良さそうにしてたしな」
最後の方は、何故か少し不満そうに言って来たが、私はそんな事より気付いていたら声を掛けて欲しかったと伝えた。
するとルークは「楽し気にしてし、面白そうだったから声を掛けなかった」と少し意地悪な答えを返して来た。
「本当に意地悪だな。バレない様にするのに大変だったんだぞ」
「本当かよ、傍から見たら楽しそうにデートしているカップルだったぞ」
「違うって! 怪しまれない様にしただけ」
「どうだか」
「ぐっ~! やっぱりルークよりレオンの方が、優しいし頼れる奴だったよ。一緒に居ても楽しかったし」
私はそう嫌味をわざと言うと、ルークは私の方を少し不機嫌そうな顔をして見て来た。
「あいつの方が頼りになるって? お前が大ピンチの時に助けてくれなかった奴がか?」
「うっ、それはそれでしょ。助けてくれたのは感謝してるわよ」
「っ……悪い。少し変に熱くなり過ぎた」
ルークは急に自分の発言を振り返ったのか、態度を改めた。
そのままルークは正面を向くと、右手で口を覆う様な態度をとった。
その時耳が少し赤くなっている事に私は気付いた。
急にどうしたんだ、ルークの奴? まぁ、確かにちょっと言い合いになりかけてたけど、よくある事と言うかそんな感じだったし、何で急にそんな態度をとるのよ。
私はルークの態度に、私も少し嫌味っぽく言い過ぎたかもしれないと思い反省をした。
が、よく考えればルークから嫌味っぽく言われた事を思い出した。
なので反省はそこで止めて、とりあえず話を変えようと思いルークに先程言っていた、嘘の事について問いかけた。
「あ~その事か。あれはお前を助ける為についた嘘だ。と言っても、全部が嘘じゃない」
「どう言う事?」
私が首を傾げてルークに訊くと、その事についてルークが話し始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――遡る事30分ほど前。
ルークは、校舎内の窓からクリスが二コルと一緒にいて、それをリオナたちが覗き見している所を見つめていた。
「あの人たちは、何やってんだ。それにクリスも何で2人きりでいるんだよ」
ルークはその場で小さくため息をついた。
「(レオンの次は二コルさんとか、あいつは何で断らないんだ。それとも、そう言う人が好みなのか?)」
そんな事を考えていた時に、リオナたちの所にリーベストが現れた事に気付く。
「(何か人が増えて来たな。大丈夫かあいつ?)」
「あれ? ルークじゃないか?」
そうやって後ろから声を掛けられてルークが振り返ると、そこにはオービンが1人で立っていた。
「兄貴」
「よぉ、何してるんだこんな所で」
「ちょっと心配して見てただけだよ」
「?」
オービンはルークの返答にピンと来なくて少し首を傾げる。
ルークは再びクリスの方を見ると、そこにトウマが話し掛けている所を目にした。
そしてそこに向かってリーベストたちが向かっている事も目撃する。
「全く、バレたらどうするつもりなんだよ」
そう小さく呟いた後、ルークはオービンを上から下まで見た。
「さすがにこれじゃ騙せないか」
「何だよ急に?」
するとそこに、アルジュとノルマが今日来た衣装の一部が入った箱を持って通りかかる。
ルークはそのままアルジュに声を掛けた。
「アルジュ、すまないがその中を見せてもらっていいか?」
「ルーク? いいけど、どうしたんだ?」
その中からルークはある物を見つけると、それを少し借りていいかと訊く。
「別にいいけど、何に使うんだ?」
「ちょっと知り合いを助ける為にな。ありがとうアルジュ、後でちゃんと返すから」
そう言ってルークはオービンの下へと戻って行き、ルークはオービンを連れてどこかへと行ってしまう。
「何だったんだ、今の」
「さぁ? それより早く演劇で使う人たちに貸しに行くぞ、ノルマ」
2人はそのまま目的の場所へと向かって行った。
一方でルークとオービンは、階段で下の階へと降りてその場で立ち止まっていた。
「急にどうしたんだよ、ルーク?」
「兄貴、今からここにゼオンさんたちが来るから、話をしてて欲しんだ」
「ゼオンたち来てたのか。それじゃ、リーベストとかも来てるかもな」
「リーベストさんたちも来てるけど、今はゼオンさんとこの場で話をしてて欲しんだ。いいかな、兄貴?」
オービンは久しぶりに弟であるルークからお願い事をされて、少し戸惑ったが兄として何か頼られる事が嬉しくてオービンは「分かった」と意気込んだ。
「ありがとう兄貴。それじゃ、これ」
「……えっ?」
その時、ルークからある物を出されてオービンは目を疑った。
差し出されたのは、ミディアムロングの金髪のかつらであった。
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