ワイズとレオンは、暫く睨み合った直後先に動いたのはワイズであった。
レオンの懐へと一気に踏み込み拳を突き出すが、レオンは両手でその拳を突き落とし、そのまま両手を重ねワイズへと向ける。
「『インパクト』!」
「っ!」
ワイズは顔目掛けて放たれた魔法を、咄嗟に体をねじり首も横にしてかわす。
まさかの回避に驚くレオンだが、ワイズは攻撃の手を止めず、突き落とされた拳から『バースト』の魔法を放ち、勢いよく拳を突き上げた。
その勢いを利用し、軽く飛び上がりレオンにドロップキックをくらわすが、レオンはキックを受ける寸前で両腕を胸の前に持ってきていた。
「ぐっ」
「反応速度は凄いな」
レオンはキックを受けた反動で、後方へと下げられていた。
「(やはり、武術の威力は凄い。このまま近接戦じゃ勝ち目はないな)」
するとレオンは、その場で両手を地面に付けると魔力分類の技量を使い、その地面から円柱をくり抜くよ様に取り出した。
そして、その円柱の地面を宙に浮かせると、ワイズ目掛けて勢いよく撃ちは放った。
「ほう、魔力技量から魔法使用への切り替えが早い。技術はそれなりにあると」
ワイズはレオンの攻撃方法を冷静に分析しつつ、自身の両腕に炎を纏わせた。
そのまま向かって来る円柱を殴ると、円柱が内側から爆散し粉々になり、もう一本の円柱も殴ると同じように爆散した。
殴り終えるとワイズは、両腕を軽く振り払うと纏っていた炎が消える。
「な、何だ今のは……」
「魔力質量のちょっとした応用だ。お前程技術があれば、いずれ出来るだろう」
するとワイズは、レオンに対して体を真横に向け、両足を大きく広げると右手の指先を地面につけ、左腕を左膝に軽く乗せる姿勢をとった。
「ちなみに、魔力技量ってのはこう言う使い方も出来るんだぞ」
ワイズは右手を勢いよく、振り上げるとレオンに向かって地面から棘が出て行き襲い掛かる。
すぐさまレオンは『バースト』の魔法で地面が飛び出てくる棘を破壊するが、ワイズは既に次の行動に出ており両手を地面に付いて魔法を唱えていた。
「『フレイムウォール』! むやみに破壊するのも、考え物だぞ」
直後、レオンの周囲が炎の壁で覆われる。
レオンは、先程破壊した地面のかけらに微量の魔力が含まれていたと考え、そうでなければこんな遠距離でここまでの魔法が使えないと考えていた。
完全に周囲を炎の壁で囲われ、逃げ場がないレオンにワイズは相手を仕留める魔法を唱えた。
「所詮はこの程度だったか、『フレイムソーン』!」
ワイズの魔法が発動すると、レオンが閉じ込められている炎の壁ないから炎の棘が無数に飛び出してきた。
そのまま炎の壁を解除し、レオンを倒した事を確認するが何故か無傷で立っており、ワイズは驚く。
「どう言う事だ? あの中で逃げ場はなかったはず」
「その通りです。でも、それは貴方が見ている僕が、本物ならの話です」
レオンがそう言い切ると、ワイズの目線の先にいたレオンが徐々に煙の様に揺れ出し、消失するとワイズは「幻覚?」と呟く。
「正確には蜃気楼です」
その言葉が聞こえ、ワイズは視線をそのまま横にずらすと、そこにレオンが立っていた。
レオンは先程の、ワイズが炎を纏った時に周囲の温度が上昇した事を利用し、『アイス』の下位互換である『チル』の魔法を咄嗟に放ち、ワイズに蜃気楼を見せたのだと説明した。
その言葉にワイズは、今まで何もない場所を攻撃していたのかと理解した。
「全く、とんだ恥さらしだ。しっかりそのお礼をしてやらないとな!」
「っ! はやっ」
レオンがワイズを認識した時点で、既に懐に攻め込まれており、拳を叩き込む寸前であった。
「『六武衝・一衝』」
咄嗟にワイズの正拳付きを防ぐも、その勢いのまま場外へと押し出されそうになるが、魔力創造を使用し地面をクッションの様に壁にして勢いを殺し、寸前の所で踏み耐えた。
「攻めなきゃ、勝機はないぞ。『六武衝・一衝』炎拳!」
再び両腕に炎を纏うと、先程の正拳付きを一発づつレオンに向けて放つと、炎の衝撃波がレオンを襲う。
レオンはすぐさま『バースト』の魔法を使い防ぐが、このままでは押し負けると分かり、避けても狙われるだけだと理解し、このまま正面突破で威力のある魔法で吹き飛ばすしかないと思い、ワイズ目掛けて走り出す。
途中で炎の衝撃波が向かって来るも、魔法で防ぐが全ては無理でかすり傷の様に受けつつも、ワイズに手が届く所でありったけの魔力を使い、『サンダー』を放とうとする。
「『サン』ぐっ……」
直後、伸ばした腕が見えない何かに殴られた様に弾かれる。
そのまま体がワイズに近付いた瞬間、体全体が同じ様に見えない拳を叩き込まれた状態になるが、ワイズは正拳付きを放ったままの姿勢であった。
「ぐっぅっ、がはっ!」
「これが、『六武衝・一衝』のその場に留まる拳衝撃だ。いい判断だったが、まだ青いな」
そしてレオンは、体中にワイズが先程何度も放っていた正拳付きの拳衝撃を受け、場外へと吹き飛ばされてしまう。
「さて、後は……って、知らない内に第1学年の残りと、第2学年の残りが戦ってるな。何でだ?」
「それは自分がそう、し向けたからだよ。残った第2学年の感じだと、自分たちの相手になる感じじゃないから、第1学年の子に残った先輩に力をぶつけたら勝てるかもよって言ったら、その気になったってわけ」
「マルロスお前って案外、嫌な性格しているな」
「何でだよ! せっかくここまで残った第1学年の子にも、見せ場を譲っただけだよ」
「でも、結局はそいつも倒すんだろ」
「そうだけども、この場にあと4人なら第1学年の子が、たまには3位に入ってもいいだろ。相手は自分がするからいいよ」
「お前は、あの第2学年の方が負けると思っているんか。まぁ、確かに見た感じひ弱そうで勝てそうもないな。でも、案外分からないかもしれないぞ」
「どう言う意味? 誰がどう見て、あの第2学年の子が負けるでしょ。現に、押し負けて追い詰められてるしさ」
「ここまで生き残る奴だ。それなりの理由はがあるってことだ」
「?」
マルロスはワイズの言葉に、少し納得出来ないまま、生き残った第1学年の選手とベックスの方に視線を向けた。
ベックスは第1学年の子の魔法を、逃げつつ避けていたが足がおぼつき転んでしまう。
「はぁ……はぁ……やっと、追いつめましたよ先輩」
「いっててぇ……あれ?」
その時ベックスが、マルロスとワイズの方を向きレオンが居ない事にそこで気付き、驚愕の表情をした。
「嘘だろ……って事は、もしかして第2学年は俺だけ?」
「そうっすよ先輩。でも、俺が先輩を倒して全滅です」
「マジかよ、ふざけんなよ……このまま、わざと場外に出る算段がぱあだ。あ~あ、このままわざと負けたら笑い者だし、最悪だ。まさか、レオンがそんなすぐ負けるとは想定外だ」
「? 何をぶつぶつと言ってるんですか、先輩」
ベックスはゆっくりと立ち上がり、目の前に居る第1学年の子にゆっくりと近付いた。
直後、第1学年の子がベックスに魔法を唱え場外へと出そうとするが、魔法は外れ次の瞬間には第1学年の子は場外に投げられていた。
一瞬の事で、マルロスが目を疑うもワイズは驚くことはなかった。
その場に立っていたベックスの姿は、特徴でもあった猫背ではなく背筋がピンと伸びており、肉付きも良くなり筋肉質な体格であり、もはや別人と言えた。
「この姿は見せたくなかったが、笑われ者になるよりましだ。さぁ、副寮長さんたち最後のバトルを始めようか」
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