「ルーク見たか?」
「……」
「あのオービン先輩が、アリスを抱きしめてたぞ。事故っぽい感じだったけど、あれは間違いなく抱き寄せてたよな」
「……」
「ん? お~いルーク? 聞いてんのか?」
ルークはトウマからの呼びかけに答えず、私とオービンがリーベストやゼオン、シルビィと会話している風景を見つめていた。
「(あ、これかなりのダメージを受けてるな。まぁ、それもそうか。好きな相手が自分の兄貴とあんな事になっていたら、そうもなるよな……にしても、凄いメンツだなあそこ)」
トウマは一度ルークの事は放っておき、オービンの周りに集まっている人を改めて見て、少し驚いていた。
リーベストやゼオンは、オービンと同じく学院対抗戦に第1学年から出場している実力者であり、自分たちの学院内でも寮長たちと同じ位有名な人であった為だ。
またシルビィは、男子独自創刊雑誌の目玉企画である全学院女子ランキングで常にトップ5に入っているので、トウマはその当人を目にして目を奪われていたのだった。
「(あれが、シルビィ・スオールか~。同学年とは思えない程、妹感を感じるわ~。待てよ、って事は、姉のリオナ・スオールも近くにいるんじゃないのか?)」
トウマは周囲をキョロキョロと見回している内に、オービンの周りに集まっていたリーベストやゼオンたちが解散して行くのだった。
そしてオービンたちも移動し始めたのを見て、先に無言のままルークが動き出し、それに遅れて気付いたトウマが慌てて追って行く。
そのまま後を追い、オービンたちがベンチに座り何かを話してた後、オービンが離れて行く所を見てトウマがルークに話し掛ける。
「おいルーク、そう言えばもう1人後を付けてた男どこ行った? 見当たらないけど?」
「知るか。止めたんだろ」
「なら、俺たちも止めるか? これ以上尾行しても結果は変わらないし、その~なんだ、辛くなるだけだしよ」
ルークはトウマからの提案には答えず、じっとアリスの方を見ていた。
その姿を見てトウマは軽くため息をつく。
「何か動きそうにもないし、俺喉が渇いたから飲み物買いに行くけど、ルークもいるか?」
「……俺はいい」
「はいはい。お前も喉渇いてるだろ? 適当に買ってきてやるか変な事せずに待ってろよ」
そう言ってトウマは、その場を離れて近くの飲み物を売っている店を探しに行く。
ルークはただじっとアリスの方を見ながら、ある事を考えてた。
「(本当に兄貴が彼氏なのか? どうしても、俺はそうとは思えないんだよな……兄貴の対応もそうだが、アリスの態度からして、彼氏彼女の関係には見えないんだよな)」
今までのオービンの対応やアリスの態度をじっくりと観察し続け、ルークは2人の関係を疑っていた。
するとそこに、飲み物を持ったオービンがアリスの元へと帰って来た。
ルークは先程よりも身を隠しつつ、オービンの方を見ると一瞬だけオービンと目が合った感覚がし、直ぐに目線を外し物陰に完全に隠れた。
「(目が合った!? いや、気のせいかもしれないが、完全にこっちを見ていたよな……今また顔を出す訳にはいかないな。少し場所を変えるか)」
ルークはそう考えて、その場から離れ別の場所からオービンたちを見れる場所へと移動し始める。
「どうしたんですか、オービン先輩?」
私はオービンから温かい飲み物を貰った後、それに口を付けて飲んで温まっていたがオービンがずっと同じ所を一点に見つめていたのが気になり、声を掛けた。
するとオービンはその方向を見ながら口を開いた。
「いや、ちょっとした視線が気になってね。でも、勘違いだった見たいだ」
その言葉を聞き、私はオービンに小声で話し掛けた。
「もしかしてそれって、例の彼だったりしますかね?」
「う~ん、どうだろうね。近い様な近くないような感じだったかな。気になるなら、少し移動しようか。来る途中で、いいお店を見つけたんだ。どうだい?」
「そうですね。行動を見られているとするなら、ずっとここにいて疑われるよりましですね」
「ここにいても、疑いはしないと思うけど」
「いえ、今日は何としても乗り越えないといけないので、最後までデートを実行します。それじゃ、行きましょうオービン先輩」
私はそう言って立ち上がり、オービンの前に立ち軽く背伸びをした。
「君は、相手が俺だからって安心してるね」
とオービンが小さくボソッと呟いたが、私はその言葉は聞こえずに振り返りオービンに案内をお願いした。
そして私はオービンの案内の元、歩き出した。
一方その時、トウマは飲み物を買って戻って来たがその場にルークが見当たらず驚いていた。
「何であいつ居ないんだよ!? それにちょっと居ない間に、オービン先輩たちも居ないし、どこ行ったんだ? あ~もう、とりあえずルークを探すか」
トウマはため息をつき、肩を落としながらとぼとぼと歩きながら買って来た飲み物を飲みながらルークを探し始めるのだった。
そしてルークもその頃、移動したはいいがオービンたちも移動していたとは思わずオービンたちを見失っていた。
「(くそ……やっぱり、俺の事に気付いて兄貴の奴、移動したな。やられた……だが、まだ近くにいるはずだ。探せば見つけられるはず)」
トウマの事などい全く頭になく、オービンたちを独自に探し始めるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あの~オービン先輩?」
「ん? なんだい?」
「えっと、言いずらいんですけど、本当にこっちで合ってます?」
「どうしてだい?」
「いや、その~何て言うか、かなり表通りから離れて裏通りだし、何て言うか薄暗いから不安でして……」
そう私はオービンの案内を信じて後をついて来ているが、今何故か薄暗い裏通りに来ていたのだった。
確かにお店が全くないと言う訳ではないが、ぽつぽつという程度であり、何より人がほとんどいないのである。
本当にこっちで合っているの? てか、こんな道通って行ったとか信じられないんですけど……
私は完全に不安に陥っていたが、オービンが言うのだから大丈夫だろうと心の中でそう思って付いて行っていた。
すると突然オービンが足を止めて、振り向いて来た。
「ど、どうしたんですか、オービン先輩?」
「いやね。君は何で、そんなに素直なんだろうなって思って」
「え?」
そう言うとオービンは私の方へと寄り始めて来た。
私は無意識にゆっくり後ろへと下がり始めた。
な、何!? 急に何を言い出したのオービン先輩は? それに何で徐々に近づいて来るの? 分けわからないんだけど!
そのままじりじりと私は後ろへと下がりつつ、オービンへと問いかけるもオービンは適当に流すような答えを口にするだけであった。
もう、何だか分からないけど、とりあえず今のオービン先輩は何か変って事が分かった! ひとまず表通りに出よう。
そう思い私はその場で振り返り、走りだそうとするも一瞬でオービンが目の前に現れ道を塞がれてしまい、そこで体勢を崩してしまう。
しかしオービンが私の片腕を掴み、助けてくれるがそのまま壁側へと追いやられしまい完全に前に立たれてしまい、逃げ道を失ってしまう。
「もう少し、男の怖さというものを知った方が身の為だよ」
「ちょっオービン先輩、どうしてこんな事……」
「言ったろ、男の怖さを教える為さ」
そう言うとオービンは、私の肩を掴み壁へと押し付けたまま、私の顔へと自分の顔を近付けて来た。
ちょちょちょ、ちょっと待って! こ、これの流れってまさか……
その時には、既にオービンの顔が目と鼻の先にっ迫って来ていたので私はもうどうしようも出来ないと思い、思いっきり目を瞑り顔を下へと向ける抵抗をした。
だが、その後暫く経っても何も起こらなかった。
……? あれ? 何もしてこない?
私はうっすらと目を開けると、オービンは私から既に顔を離しており何故か笑いをこらえているような姿であった。
また掴んでいた手も離されており、私は何が起きているのか理解出来ずに首を傾げていると、オービンが遂に耐え切れず小さく笑い声が漏れる。
「本当に、君って人は素直過ぎて笑えちゃうよ」
「な、何なんですか! さっきから! 変な事ばかりしてくるし、おかしくなったんですかオービン先輩!」
するとオービンは笑い終えると、少し笑いで出た涙を片手で拭きながら私の方を向いた。
「あんな事されたのに、逃げずにいるのもオービン様への信頼からですかね?」
「分けわかんなくて困って……へぇ? 今何て?」
私は自分の耳を疑った。
オービンが自分の事を様付けて呼び、何か他人事の様に話す姿を見たためだ。
「まだ分かりませんか? アリスお嬢様」
「っ! ま、まさか貴方、マリア!?」
その言葉に目の前のオービンは優しい笑顔で頷くのだった。
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