始業のチャイムが鳴り響き、教室内で立っていた者が自分の席へと戻り始める。
私は既に席について担当教員の到着を待っていた。
すると扉が開き、担当教員が教室へと入って来る。
委員長こと、アルジュの号令で挨拶をした後、担当教員が話し始めた。
「皆も知っていると思うが、もうすぐ学院対抗戦が近い」
学院対抗戦――それは年に1度王国内に存在する5つの魔法学院が王都ジェルバンスの闘技場にて行われるイベントである。
その目的は、他校との交流や手合わせを通じた中での新たな気付きや新たな関係性を作るなどと学院生たちに刺激となる経験をさせる為とされている。
だが一方では、競技を通しての成績が目に分かる為、王国内の学院優劣を付ける目安ともなっている。
学院対抗戦は3日間とされているが、最終日は全学院の慰労会と表された大きな交流会が行われる為、最初の2日間がメインの学院対抗戦である。
競技ではシニア、ミドル、ルーキーと学院内の学年がランク分けされて各競技が行われるが、中には各ランクから数名出場者を出し、合同での競技も存在する。
基本的に1日目は技術や知識を使う競技で争い、2日目は実力をぶつけ合う試合が総渡り戦で行われる。
出場者は事前に学院側で決められる為、全学院生が出られるものではない。
だが、学院対抗戦に出場できると言うのは学院内で認められた者と言う事である為、学院対抗戦に出場する事が目標である学院生もいるのだ。
「第2学年のランクはミドルだ。例年通り、1日目の競技は女子も含めた10名の選出がある。そして2日目は男女1名ずつ選出される」
「今年は誰が選ばれるんだ?」
「去年と同じく俺たちの学年は、次期寮長候補生の中なら2日目は選ばれるだろ」
「それは分からないかもしれないぞ」
クラス内の皆は、学院対抗戦の話で盛り上がり出す。
私はその盛り上がりに便乗し、前の席のシンリに話し掛けうち以外の出場する魔法学院を改めて聞いた。
するとシンリはついでに去年の順位や出場者なども教えてくれた。
学院対抗戦に出場する5つの魔法学院の内、1つは私が今いる王都メルト魔法学院である。
去年の順位は3位であり、その結果が王都内の魔法学院ランクにも反映されいるらしくうちの上に2つの魔法学院が存在すると知り私は少し驚いた。
オービンたちが居ながらも去年の順位が3位である事も驚きであり、オービンたち以上の凄い人たちが他の学院にもいるのだと知った為である。
去年の順位が2位であり、王都内魔法学院ランク2位であるのはシリウス魔法学院である。
シリウス魔法学院は男子の比率が高く、王都の北にあるベンベルと言う都市に学院がり、私の兄であるアバンが学生時代に通っていた学院でもある。
男子が多いという事もあるのか、競争と言う面では激しくぶつかり合いが絶えない学院であると聞くが、実力は申し分なく王国軍に入隊する学院生が一番多い学院でもある。
そしてその上の順位を去年取り、現在王都内魔法学院ランク1位の学院は、バーグベル魔法学院である。
バーグベル魔法学院は、うちの学院と同じ様に男女半々の学院生であり、話ではうちの学院に対抗するために創設された学院らしい。
位置は王都より東にある、ワンドールと言う都市に存在し年々学院生たちの質が向上しており、今一番注目されている学院と呼ばれている。
残りの2つの内1つは、元々私が通っていたクレイス魔法学院である。
夏合宿の時に合同で行った事もあり、私に扮するマリアが現在も通っている学院である。
クレイス魔法学院は、王都より西のカムルと言う都市にあり女子の比率が高い学院でもあるので、お嬢様学院とも呼ばれている。
また、研究者が学者を数多く輩出している学院としても有名である。
最後の学院は、ネアルガ魔法学院だ。
位置はクレイス魔法学院と同じく、王都の西カムルという都市に存在しており、男女半々ではあるが、多少男子の方が多いと言う学院だ。
ネアガル魔法学院は、クレイス魔法学院とは姉妹校でもあるが輩出している卒業生は、教育者や指導者と言った人を数多く世に送り出している学院なのだ。
以上、5つの学院で学院対抗戦が行われるのである。
そして去年の出場者は、今次期寮長候補と呼ばれるメンバーが選出され2日目競技にはダンデが出場したとシンリは教えてくれた。
ルークは去年は選出されるも出場はしなかったらしく、後はニックやガウェンが1日目の競技の方に選出され出場したらしい。
ちなみに最終的な順位は、各ランク事の成績を合計した総合順位らしく去年第2学年でミドルランクであったオービンたちは僅差で1位であったものの、シニアとルーキーのランクで2位や3位と言う成績であったので最終順位が3位であるとシンリは語った。
「まぁ、去年は残念な順位だったが今年は1位に返り咲けると思うよ。だって、オービン先輩たちもいるし、ルークも選出されたら今年は出場してくれそうな感じだし負ける気がしないよ」
「確かに、大運動会での事を思い出すと他の学院がどうだかは分からないけど、負ける気はしないね」
「でしょ~」
すると教卓にいる担当教員がざわついたクラスを一度鎮める為、何度か手を叩いて注目させた。
「お前ら盛り上がるのはいいが、話は最後まで聞け~」
その言葉にクラス内は「は~い」と言う声が発せられ静かになる。
「選出については、例年通り学院長含め教員ら選出する事になるが、今年は1つ例外がある。それは2日目の1名の選出者についてだ」
突然の切り出しにクラスの皆は耳を傾けた。
「今年は各クラスから立候補者を集め、その中で代表選手を決定する事になった。決定方法については、立候補者のみに後日知らせる形になる。と言うわけで、立候補する者はいるか?」
担当教員からの問いかけに、クラスの皆は一度固まるがどう言う事なのかざわつきだす。
するとアルジュが質問をした。
「何故今年だけ、その様な事をするのですか? 理由はあるんですか?」
「詳しくは分からないが、今年は2日目の出場選手はどの学年もこの制度で行う事になっている。これはうちの学院だけでなく、学院対抗戦に出場する他の学院も同様らしい。何でも、各学院長たちが話し合いで決めたもんだそうだ」
「学院長同士でですか?」
「あぁ。明確には言われていないが、たぶん実力の競技者は生徒たちが納得する人物を選出すべきと言う事にでもなったんではないかと言われている。分からないがな」
「……そうですか」
そこでアルジュからの問いかけは終了した。
付け加えるかのように担当教員は、もし立候補が出なければ他のクラスの立候補内から選出されるだけと伝えて来た。
暫くの間クラス内から立候補者が出る事はなかったが、担当教員が締め切る寸前にルークが立候補者として名乗り出たのだった。
「おぉ、ルーク。今年は出場してくれるのか?」
「はい。ちなみ、こっちに立候補した場合1日目の出場選手として選出される可能性はないと言う事で合ってますか?」
「まぁ、言ってはなかったがそうなるな。お前は1日目に選出される可能性は高いが、それを承知で立候補はするか?」
「します」
「分かった。他にはいるか?」
それ以降、立候補は出る事無く学院対抗戦の話は終了した。
その時私は、ルークがどうして1日目に出場できるかもしれないのに、それを捨ててまで立候補したのか何となく感付いていた。
それはルークが将来やりたいと明かしてくれた内容に関係していると直感で思っていた。
今の自分の認知のされ方では、オービンの支えられる存在や代わりとして頼ってもらえる存在には近付けないと思ったからであり、注目度の高い学院対抗戦で世間からの印象を変える為に立候補したのではないかと私は勝手に考えていた。
その真相はルークに聞かなければ分からないが、それをわざわざ私が聞く道理も、聞いて何かする事も出来ないと思ったのでそれは私の中でとどめる事にした。
それよりも私は、偽デートの方を考えなければならない。
今更ながら実行日は、学院対抗戦の前日であり、その日に大体の他学院生徒たちが王都クリバンスにやって来る日でもあるので、その日が約束の日となっているのだ。
もうそんなに日数があるわけでもないので、直ぐに授業が終わった放課後にでもレオンと話を詰めなければと私は考えていたのだったが、その話し合い自体が出来なくなるとはこの時の私は考えもしていなかったのだ。
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