「えー! 学院対抗戦に立候補した!?」
「ちょっ、クリス。声が大きい」
「ご、ごめん……」
私はレオンと一緒に放課後の大図書館に居たが、レオンからのまさかの発言に大声を上げてしまい周囲から冷たい目で見られてしまう。
直ぐに私は周囲に軽く頭を下げた後、レオンと小声で話し始めた。
「だからって、話す時間が少なくなるわけじゃないでしょ?」
「いや、それが……」
レオンは、立候補者のみに言い渡される選出方法をざっくりと私に教えてくれた。
内容としては、1週間後に代表者決定試合が行われる日程になっており、それから3日後には学院対抗戦が始まる予定になっていたのだ。
他の出場者の決定は今週中に行われ、来週から選ばれた代表選手たちはミーティングや競技の話し合いなどでほとんどの時間を学院対抗戦に当てられる事になるのだ。
そこに学院対抗戦2日目の代表者に立候補したレオンが、代表者になったならば私との打ち合わせもなしに偽デート当日を迎えてしまうという状況になりかけているのだ。
代表者決定試合の日取りは他の学年の代表者決定試合も行われる為、変更はなくレオンとしては出来れば代表者決定試合までは試合に集中したいと言われてしまった。
「すまないクリス……だけどこの機会を逃す訳には行かないんだ」
そんなの断れないじゃん! そもそも、レオンは私のわがままに付き合ってくれているんだし、レオン自身の事の方が重要だし。
それを放って私の方に付き合ってって言うほど私は最低な奴じゃない。
でもどうしたものか……レオンの感じからして私のわがままの方にも付き合う気はあるらしいし、誰かレオンの代わりを今から探すのも……
私は悩んでいたが答えが出る事はなかったので、ひとまずレオンとこれからの話をする事に決めた。
レオンが代表者になった時と、ならなかった時の両方を考慮して私がすべき事とレオンがすべき事をまとめた。
基本的には私の方で、当日のデートコースや立ち振る舞いを決め下見なども行うと大半の役割を担い、レオンは代表者決定試合にまずは集中してもらい隙間の時間に私との打ち合わせを行い当日のデートの準備をしてもらう事にした。
私としてはレオンと違って特に急いでやる事は現状他にないので当然の役割分担である。
「よし、それじゃ次の打ち合わせは3日後でもいいかな?」
「今の所問題ないよ、何か緊急の事があれば寮に来てくれても構わない」
「ダイモン寮か……何かあそこって、少し圧が強いっていうか、暑苦しいっていうか……」
「そうかな?」
「あら、珍しい組み合わせですのね?」
そこへ声を掛けて来たのは、ジュリルであった。
「ジュリル!?」
「ジュリル様」
私とレオンは先程までの話を聞かれていたのかと思い驚いてしまったが、ジュリルはそこまで驚かれると思わなかったと言う表情をしていた。
その顔を見て私は、レオンとの偽デートの話は聞かれていないと思い安堵の息を吐いた。
するとレオンが機転を気かして、別の事を私と話していたと口に出した。
「僕が代表者決定試合に出るので、クリスの魔力の使い方についてアドバイスをもらっていた所だったんです」
レオンは私の方に目配せをして来たので、私もレオンの話に乗っかった。
「そうなんだよ。俺としては出来るレオンに特にアドバイスも何もないって言ったんだけど、考え方だけでもいいって言われたからそれを話していたんだ」
「そうでしたのね。それよりレオン、貴方代表者決定試合に出るのですね」
「はい。明日には出場者が発表されるはずです。ジュリル様、僕は必ず代表者になります」
「……そう。なら、もしかしたら同じ代表選手になるかもしれないわね」
私がその事についてジュリルに訊ねると、ジュリルも2日目の女子代表者決定試合に立候補したと答えた。
女子の方の代表者決定試合は、3日後に行われるらしくジュリルもそれまでに魔力や魔法についての論文などを改めて読み、新たな事よりも今まで身に付けた力に磨きをかけに来ていたと明かした。
その言葉通り、2冊の厚い本を片手で抱えていた。
「そうなれる事を願ってますよ。それじゃ、僕はこれで失礼します。クリスもまた」
「あっ、うん。じゃあなレオン」
そう言ってレオンは立ち上がり、ジュリルに軽く礼をしてから立ち去って行った。
話す事は既に話し終えていたので、私としては問題なかったがレオンがどこかしら足早にこの場を去って行きたかった様な雰囲気を感じとれた。
何か急ぎの用事でも思い出したのかな?
私がそんなレオンの後ろ姿を見て、少し首を傾げているとジュリルが「隣に座ってもいい?」と聞かれたので、私は「どうぞ」と答えた。
ジュリルは抱えていた2冊の本を机に置き、私の方を向いて来た。
「クリス、貴方のクラスでも代表者決定試合の立候補がありましたわよね?」
「あぁ、あったけど。それが?」
「明日になれば分かる事ですが、一応誰が立候補したか聞いてもよろしくて?」
「いいけど。うちのクラスはルークだけだよ」
それを聞くとジュリルは何故か納得した表情をしたが、私にはどうしてそんな表情をしたのか理解出来なかった。
「何か気になる事でもあるの?」
「流石はルーク様と思っただけですわよ。私も負ける訳にはいかないと改めて思いましたわ」
なんかジュリルらしい理由だったな。
まぁ、私としてはそんなジュリルと一度は本気の手合わせをしてみたいと思うけど、さすがにそんな機会はないよね。
二代目月の魔女相手に、今の私はどの程度近付けているのかふと思う時があるんだよね。
せっかく憧れである月の魔女が通っていた学院にいるわけだし、私も力試しがしたいと言う気持ちが沸き上がるだよな最近。
たぶん大運動会で皆の中の意識に変化があったのか、最近やたらと自分を磨き上げている雰囲気を感じとるからそれにたぶん私も影響されているからなんだろうけど。
「そう言えば、ルーク様はレオンについて何かおっしゃっていたりしましたか?」
「え? ルークが? う~ん……特に何も言ってなかったと思うけど」
「そうですか。いえ、レオンが以前ルーク様をライバル視していたので、何か言っていたか気になっただけですわ」
「そうなんだ。それは知らなかったな」
「これはルーク様には内緒にして下さいね。それと話に付き合ってくれてありがとう、クリス」
そう言ってジュリルは立ち上がり、再び2冊の本を抱えた。
私もジュリルにその場で別れを告げて立ち上がり、大図書館を後にした。
やる事は決まったし、私もうかうかとしてる場合じゃない。
早速、自室で当日の流れとか色々と考え始めないと。
私は急ぎ足で寮の自室へ戻り、レオンとの偽デートプランについて練り始めるのだった。
その日の夜。
女子寮の一室にて、机に向かいずっと同じページとにらめっこしている女子に同室の子が声を掛ける。
「ジュリルちゃん、さっきからずっと同じ所見てるけど本当に読んでるのそれ?」
「え? あぁ、そうでしたっけ?」
「はぁ~少し根を詰め過ぎじゃない? 何か別の事が気になっている様な感じだし、先にそっちを片付けたら?」
「そう、ですわね……ミュルテの言う通りですわね」
するとジュリルは読んでいた本を閉じ、立ち上がり扉の方へと向かった。
それをベットに座り雑誌を呼んでいたミュルテが声を掛ける。
「どこに行くのジュリルちゃん?」
「ちょっと中庭に、夜風に当たりに行くだけですわ。今頭がごちゃごちゃになっていますから、整理ついでですわ」
「そう。気をつけてね」
ミュルテの言葉にジュリルは頷き、部屋を出て行った。
そしてジュリルは中庭にあるベンチへと座り、星空を見上げた。
「(レオン、貴方は代表者決定試合でルーク様に何かするつもりですの? もし貴方があの日の復讐をしようとするならば、私はそれを止める義務がありますわ。ですからレオン、間違っても復讐をしようなどと考えないで下さいね)」
ジュリルはレオンの動向に不安を感じつつも暫く夜空を見上げた後、自室へと戻って行くのだった。
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