「っ!?」
「お前の身分に合った人を探せ、アリスには婚約者がいると言っているんだろ。なら、それを本当にした方がいいだろ」
「そ、それは関係ないだろうが! 俺が誰を好きになろうが、関係ない! 人の恋路にまで口をだすな」
「俺は言ったよな、アリスの幸せになる事を一番に考えるって。また仮の話だが、アリスが今のお前と両想いになったら、幸せにならないから、その未来を排除してるんだよ」
「てっめぇ……」
冷たく言われた言葉に、ルークは拳を強く握った。
そのまま感情のままアバンに向かってその拳を突き出すが、アバンは片手でその拳を受け止める。
「っ!」
「俺は、お前に忠告したに過ぎない。どう受け止めるかも、これからどうするかも、お前次第だ」
そう言って、殴り掛かって来たルークの拳を軽く押し返した。
そのまま小さく舌打ちをして部屋を出て行ってしまう。
1人になったアバンは、小さくため息をついて座っていた椅子にもう一度座る。
軽く上を見上げると、部屋の窓から夕陽が差し込んで来ていた。
「はぁ~全く母上は、嫌な事を条件を出す。アリスの方が上手く行っていないからと言って、俺にやらせるか……にしても、何故ここまであの王子にこだわる? 何かまだ隠している事がありそうだが、それはいいか。あいつに言った事は、嘘じゃないし、アリスの為なのは本当だしな」
暫くすると、息切れし汗だくになった私が帰って来ると既に、ルークはおらず遅いから帰ったとお兄ちゃんからは聞かされた。
私は何故か寮内に飲み物がなくて、ある場所を探しに学院の方まで行った事を伝えると、お兄ちゃんは「それは大変だったね」とだけ言って、持ってきた飲み物を飲んだ。
「さて、俺もそろそろ帰ろうかな。とてつもなく名残惜しいが、母上の所にももう一度寄っておきたいからな」
「何その目は」
「いや~寂しいよ、行かないでお兄ちゃんとか言って来るかと、期待してたんだが」
「言うわけないじゃん」
その言葉に、心底がっかりした表情をするお兄ちゃん。
そのまま背中を押すようにして寮の玄関まで連れて行くと、お兄ちゃんがもうここでいいと言い出した。
「アリス、久しぶりに会えて良かったよ。お前が、変わらず楽しく元気でいる事が確認出来ただけで、お兄ちゃんは満足だ」
優しい笑顔でそう言うと、私の頭に軽く手を乗せて撫でられる。
私としても、シスコンで少し面倒なお兄ちゃんだが、久しぶりに会えて少し嬉しかったので頭に乗せられた手を直ぐ弾く様な事はしなかった。
「俺はクリスだし、誰と勘違いしてるのか分からないんだけど、お兄ちゃん」
「そうだったな。すまん、すまんクリス」
するとお兄ちゃんは、私の頭に乗せた手を下ろした。
「フォークロス家の名に恥じずにやり切れ、クリス。男たるもの、負けたままで終わらせるんじゃないぞ。お前なら出来る、なんせ俺の弟だからな」
「お兄ちゃん」
「必ずお前を助けてくれる奴もいるだろう、そう言う存在は大切にしろ。学院で友達が少なったお兄ちゃんが言うんだ、実のある話しだろ」
「そうかも。ありがとうお兄ちゃん。お母様にもよろしく言っといて」
「あぁ、もちろんだ。じゃあな、クリス」
そう言ってお兄ちゃんは、私に背を向けて歩いて行くが途中で止まりチラッとこちらを見て、何か言って欲しそうな目を向けてくる。
だが私は何も言わずに、ただ笑顔で手を振り続けた。
するとお兄ちゃんは諦めたのか、肩を落としてトボトボと再び歩き始めるが、また振り返り私の方を見るが、私は変わらず笑顔で手を振り続けた。
そんなやり取りが何度か続いたが、最終的にはお兄ちゃんが本当に諦めて帰って行った。
そうして、お兄ちゃん事アバンの突然の襲来イベントは幕を閉じたのだ。
その日はお兄ちゃんの対応だけで疲れてしまったので、ルークに一言だけ迷惑かけた事を言っておこうと思ったが、明日でいいかと思いその日は会わずに部屋に戻った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夏休みも残り2日となった日、私は朝から大図書館で魔力に関する本と医学に関する本を読んでいた。
ちなみに今日は、ガードルと一緒にいる。
夏合宿時の様に突然事件に巻き込まれた際に、医学の知識が役立つと分かったので、ガードルを誘って大図書館に来ているのだ。
ガードルもあれから、タツミ先生の元で知識や経験を身に付けたりしていたらしく、私の誘いにも直ぐに答えてくれた。
医学についてはガードルから教えて貰い、代わりに私はガードルに魔力の知識や使い方などを教えて、互いにメリットのある時間を過ごした。
そして、お昼時の鐘の音が響く時刻となった。
「もうお昼だね、クリスそろそろ休憩しようか」
「そうだね。朝から籠りっきりだったし」
そう言って私は椅子から立ち上がり、思いっきり背伸びをした。
夏休みも7日を切った時点から、大食堂も再開し始めていたのでガードルと大食堂に行こうかと言う話になり、大図書館を出た。
すると、やたらと女子生徒たちが騒いでおり、どこかへと走って行く人たちが目についた。
「何だあれ? 何か今日ってあるのか?」
「いや、特にイベントとか行事はなかったはずだけど……」
私の問いかけにガードルは腕を組んで答えると、また後方から複数の女子生徒たちが走って来た。
「ほら何してるの、早く行かないと見れないわよ」
「分かってるって! もう、情報が回って来るのが遅いのよ」
「無駄口叩いてないで走る。早くしないと先輩たちの顔すら見れないわよ」
そんな事を口にして、私たちの横を走って行った。
ガードルはそれを聞いて、何かを思い出したのか「あっ」と声を出した。
「思い出した、そう言えば昨日ガイルも言ってたな」
「? 何で、ガイル?」
私がガードルの言葉に首を傾げていると、ガードルは大食堂に向かっていた足を何故か止めて、正門へと向きを変えた。
「すっかり僕も忘れてたけど、今日は第3学年の先輩たちが帰って来る日なんだよ」
「第3学年」
「そう、先輩たちは第一期は学外での実践的な授業だから、寮にも学院にも誰も居なかっただろ。それが終わって今日から帰って来るんだよ」
「なるほど。と言う事は、やっと寮長って人に会えるんだな」
「そう言う事。先輩たちもクリスの存在は初めて知るから、驚くかもね。そうだ、良かったら顔でも見に行くかい?」
私は、どんな人がいるか位は知っておいた方が良いよなと思い、ガードルの問いかけに頷いた。
そして私たちは大食堂から、正門へ向けて急いで移動した。
正門へと移動すると、既にそこには女性生徒たちが大勢いた。
なのでガードルと私は学院の2階に上がり、正門が見える窓近くへと移動した。
「いや~今年は一段と女子生徒が多いな。ここなら、ギリギリ顔が見えるかな」
「第3学年をお出迎えするのは行事なのか? そうじゃなければ、こんなに人が集まらないだろ」
「行事ではないんだけど、先輩って憧れる対象だし、好きになる人とかもいるから帰って来る時に声とか掛けたいんだよ」
「そ、そんなものなのか?」
「そう言うものだよ。あっほら、学院の大型移動用乗り物が正門前に着いたから、第3学年の先輩たちが降りて来るよ」
ガードルが指さした方を私が見つめると、一番最初に降りて来たのはどこかで見覚えがある人物であった。
「やぁ、子猫ちゃんたち。俺は帰って来たよ、今日からまた楽しい日々を過ごそうじゃないか」
そこ言葉に何故か女子たちは騒いでいた。
その人物の特徴は、白髪で瞳が赤いのが特徴的でその人物を見た瞬間、私は転入して来た初日を思い出して声が漏れた。
「あっ。あの人、俺にいきなり声掛けて来た人だ……この学院のしかも、先輩だったのかよ」
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