「つ、伝えたい事?」
今私は、ルークに手首を掴まれ少し強引に引っ張られている状態だ。
寮内の図書館には、今は私とルークの2人しかおらず、少し気まずい雰囲気が流れ出す。
するとルークは、私を強引に引き留めてしまった事に気付きすぐに掴んでいた手首を離してくれた。
「す、すまん。急に掴んで」
「い、いや、別にそこまで痛かった訳じゃないし……大丈夫……」
私は掴まれた手首をそっともう片方の手で隠すと、ルークは右の人差し指でこめかみを軽くかきながら、視線を逸らしていた。
暫く沈黙の時間が続いたが、ルークが視線を私の方に戻し口を開いた。
「その……お前には、俺の思いを先に伝えておきたいと思って……」
えっ……ちょっ、ちょっと待て。
この胸がざわざわする感じ、前にもあった様な……確か、レオンと2人きりになった時だった気が……
だ、だとすると、これはもしかしてレオンを同じような事を言われる!?
そう私が勝手にテンパりだすが、ルークにはそんな事伝わっていないので止まることなく話は進む。
「ちょ、ちょっと、思いってこんな所で言うの?」
「な、何だよ。別に伝えるだけだから、問題ないだろ」
「いやいやいや、その、もう少し違う所が良いんじゃないかな~って。例えば、直ぐに走りだせそうな所とか……」
「何で走り出せそうな所なんだよ」
「えっ? い、いや~何となく……かな?」
「……クリス。お前、逃げようとしてるな」
ギクッ! と、私の心の音を口に出るんじゃないかと言う程、ルークの言葉が図星ですぐに視線をずらした。
やばい……バレてる。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。
ここじゃ直ぐに逃げられないよー!
「……昼間の事をまだ気にしてるのなら、謝る。だから、俺の今後についてだけは聞いてくれ」
「……ん? 今何て言った?」
私は一気に思考が停止し、今まで沸き上がっていた感情も一気にどこかへと消えてしまい、素の顔でルークに問いかけていた。
それを聞いたルークがもう一度口を開き、同じことを言う。
「帰る」
「おい、何でそうなるんだクリス!」
スッと帰ろうとした私を、ルークが再び肩を掴んで来て止められる。
「いやだって! あの雰囲気で言う事じゃないじゃん! もっと、こう、あるじゃんさ。ああいう雰囲気で言いそうなことが!」
「? はぁ? どう言う事があるんだよ?」
全くピンと来ていないルークに、勝手に想像しテンパっていた私が恥ずかしくなった。
あーー! 何で私は勝手に想像して、勝手にテンパってたんだ! 普通に考えれば、こいつがそんな事私に言う訳ないだろうが! 馬鹿馬鹿! よく考えろ、私!
私は1人で頭を抱えて、言葉にならない事を小さく声に出して悶えた。
その光景に、首をひねるルーク。
その後、私はひとまず落ち着くために席に着き状況を整理してから、少し不機嫌な感じでルークの話を聞く態勢をとった。
「で、ルークの今後の話とは一体何でしょうか?」
「何でそんな不機嫌そうなんだ? 確かに急に掴んだり、昼間の事は俺が悪かったが、もう謝ったろ」
「はぁ~そうじゃ……もうそれはいいから、話があるんでしょ」
私の返しに少し納得していないルークであったが、これ以上話が進まないのも嫌だったんだろうか、本題を話し始めた。
「俺が今後どうしていくか決めたから、お前に伝えておこうと思う」
「何で俺に?」
「お前以外にはトウマにも言うつもりだ。お前たちには、俺と兄貴の事や俺自身の事で迷惑を掛けたしな。色々とあったが、俺のけじめとして今後どうしていくかは、まずお前たちに伝えておこうと思ったんだ。自分勝手だが、聞いて欲しい」
「なるほど……ルークとしての決意表明ね。それで、どうするつもりなの?」
私は、ルークが迷っていた今後を私とトウマに伝えるという事は、ルーク自身が私たちに心を開いてくれている証だと勝手に思った。
そして、同時に本当にルークは今の自分を変えようとしているんだと解釈した。
「俺は、兄貴とまではいかないが、兄貴の代わりを務められる人間になろうと思う。その、なんだ……つまりは、第二王子としてだな……」
最後の方はどんどんと声が小さくなっていき、聞き取れはしなかったが、何となく言いたい事は分かった。
だが私は、ルークの口からしっかり聞く為に聞こえないふりをした。
「何? 最後の方が小さくて聞き取れないんだけど?」
「だ、だからだな! 俺は第二王子として、兄貴を支えらて頼られる存在を目指す!」
「いいんじゃない」
ルークの決意表明に、私は笑顔で返事をするとルークはあっさりとした答えが返ってくると思ってなかったのか、少しキョトンとする。
「お、おう。ありがとう」
「うふふ。何で、ルークがありがとうとか言うのさ。おかしいでしょ」
「そ、そうだな。いや、何か言われると思っててさ」
「俺が? 言う訳ないじゃん。だって、ルークが決めた事なんだから、部外者の私が何言ってもしょうがないじゃん。でも、まさかそう来るとはね~」
「な、何だよ。やっぱり、何か言いたいんじゃないのかよ」
「いいや~別に~」
そう言って私は、部屋へと戻ろうと立ち上がる。
そのままルークに「話が終わったなら、先に帰るよ」と伝えるとルークは「あぁ」と返してきたので、私は図書館の扉に手を掛けた。
「あっ、おいクリス」
「ん?」
「明後日の休みの日、空いてるか?」
突然のルークからの問いかけに、私は何も予定はなかったと思い普通に「空いてるけど」と返す。
すると、ルークは「約束を果たすから、外出の予定を入れといてくれ」と言って来た。
私には思い当たる節が直ぐには出てこなかったが、何も考えず「分かった」と返事をして自室へと戻った。
この時、もう頭を使い過ぎて疲れていたので考えはしなかったが、よく思えばデートなのでは? と分かるものだった。
しかしそれはまた、私の思い過ごしであった。
次の日に、ルークはトウマにも私と同じような話をして、外出までも誘っていた。
そこに私が突撃して、何で私を外出に誘ったのかを聞く。
「何って、お前が言って来た飯を奢ってやろうと思っただけだよ」
「飯? ……あ~もしかして、リレーの時に言ったやつ?」
それにルークが頷いて反応する。
ルーク曰く、一応1人は抜いたという事なので、約束を守ってくれるらしい。
ついでにトウマも一緒に誘い、この前迷惑かけた件も含め、ご飯を奢ると言ってくれた。
「何だよルーク、気前がいいな~」
「にしても明日か。確か、前日祭だったけ?」
「前日祭? って何だ?」
私の言葉に、トウマとルークが驚いた目で私の方を見つめて来る。
あれ? 私変な事言った?
「本当に知らないのかよ、お前。いいか、前日祭ってのは収穫祭前日に行われる、この街でも有名なお祭りだぞ。まさか知らない奴がいたとは……」
「さすがに廊下とかにも貼ってあるから、クリスも知ってると思ったけど……」
2人は少し呆れた表情で私の方を見ていた。
そ、そんな目で私を見ないでー! 私が悪かったからー!
私は顔を真っ赤にして、その顔を見られない様にゆっくりと下を向いた。
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