学院祭2日目、私は寮から出てクラスへと向かっていた。
「うーーっん……今日もいい天気だし、たくさんの人が来そうな予感がするな」
私がそんな事を考えつつ歩いていると、後方からトウマがやって来た。
「おっす、クリス」
「おはようトウマ。てっきり先に行ったんだと思ってたよ」
「いや~朝飯食べたらお腹の調子が良くてなくて、トイレに籠ってたんだよ」
「大丈夫なのかよ?」
「おう! 今じゃもう大丈夫だぜ! 薬も飲んだしな」
そう言ってトウマは、自分のお腹を軽く叩いた。
そのまま私とトウマは雑談をしながら教室へと向かった。
そして、更衣室で私は自分の担当のコスプレ衣装と睨み合っていた。
う~ん……昨日は忙しかったし、勢いで来て接客とかしたけど、他の人からはどう見られてたんだ? やっぱり、変な目で見られてたんじゃないのか?
私は個室の更衣室の中でメイド服を見つつ、自問自答をしていると外からアルジュが声を掛けて来た。
「クリス、もう着替えたか?」
「あっ、いや、ごめん! 今からなんだ。アルジュの方が大変だよな、俺はまだだし先に着替えるか?」
「まだならいいんだ。急かすつもりはなかったんだ、すまん。そのまま着替えててくれ」
そう言ってアルジュは更衣室前から立ち去って行こうとしたが、私はそんなアルジュを呼び止めた。
「ア、アルジュ? まだいる?」
「ん? どうしたんだ?」
「あ~その、何て言うか、ほらアルジュも女性物のコスプレじゃん? だから、その、昨日は周りからの目線てどうだったのかなって思って……」
「そんなの知らないな」
「え?」
「えって、クリスはどんな回答を期待してたんだよ? 俺が落ち込んでいる様な答えか?」
「いや、そう言うつもりじゃなくて、俺も昨日女性物のコスプレして実際に他の人とかに見られたけど、その時は夢中で接客とかしてたから気にならなかったんだけどさ、改めて周りかはどう思われてたのかなって思っちゃって……」
私の言葉を聞いたアルジュは「なるほど」と小さく呟いた。
「クリス、そんなの気にしたってしょうがないよ。ぶっちゃけ、恥ずかしがって人前に立つ方が変に見られるぞ。俺の経験上だが……。つう訳だから、昨日と同じように接客を一生懸命やってれば何も変に見られないってことさ」
アルジュの言葉を聞き、私は少しだけ気持ちが晴れた。
そうか、私は変に周りからどう見られているかを気にし過ぎていただけか。
クリスとしての正体が変な所からバレたらどうしようとか、陰で笑われ者にされていたら嫌だなとか思っていたが、もうやりきってしまう事で見られる印象も変わるって事だよな。
うん! そう言われれば、今日もすれ違う時とか別に変な事も言われてなかったし、笑われたりもしてなかったから、昨日の様にメイドとしてやりきればいいんだな!
「アルジュありがとう! 何か吹っ切れたわ!」
「それは良かった。じゃ、更衣室空いたらいいに来てくれ。教室の方で準備をしているから」
「あぁ」
そうして私はメイド服のコスプレ衣装を着て、教室へと向かった。
その後クラス全員が担当の衣装を身に纏い、学院祭2日目開始まで5分前となった。
「よ~し、後5分で2日目開始だ。皆、準備はいいか?」
「もちろんだぜ!」
「午前中までだし、今日は気が楽だしな」
「午後はどこ行くかね」
と、皆はリラックスした状態でアルジュからの問いかけに答えていた。
「自由時間の事も良いが、とりあえずは午前中だ。完売目指して頑張ろー!」
「「おぉー!」」
皆で意識を高めた後、ちょうど学院祭2日目開始のアナウンスが流れた。
数分もしないうちにうちのクラスにお客さんがやって来て、見る見るうちに昨日と同じ様な光景になるのだった。
その後、私たちは無我夢中でそれぞれの役割をこなし、その結果予想よりも早く残り食料が無くなってしまう。
既に並んでいるお客さんたちは、食料がなくなり次第終了と説明してあったので、少し残念そうにしていたが解散してもらった。
看板なども一度教室へとしまい、私たちは椅子へと座った。
「いや、まさか開始2時間で完売するとは」
「まだ11時だろ。ってか、昨日より人多くなかったか?」
皆それぞれに思う事を話していると、アルジュが軽く手を叩いて注目を集める。
「皆お疲れ様。想定より早く完売したが、これはこれで結果オーライってやつだ。つう事で、これからは各自自由時間だが、その前に軽く片付けてからな」
「「は~い」」
私たちは椅子から立ち上がり、簡単に教室の片づけを始めた。
一応片付けの時間は学院祭の終盤にあるが、その前に終わらせて楽をしようと言うアルジュからの提案だったので、私たちもその方が良いと感じ皆で片づけを行っているのだ。
衣装などは持ってきた時の箱へと綺麗にしまい、調理器具なども最後に借りた食堂へと返すので洗って教室で一時的に保管する事になった。
そして、だいたいの片づけが終わった所で自由時間となり、皆が教室を出て行き学院祭を周り始めた。
「自由時間だー! さてと、どこから行こうかな」
「クリス」
そう言って私の近くにやって来たのは、トウマだった。
トウマの手には学院祭のパンフレットを持っており、いきなり私にそのパンフレットを見せて来た。
「どこにいくよ?」
「そうだったな。一緒に回るって話だったな」
「おいおい、忘れてたのかよ」
「そんな事ないぞ」
私はトウマが見せて来たパンフレットを見ながら、何がどう言う所で出し物をやっていてどこへ行こうかと吟味していると、突然背後から声を掛けられる。
「そろそろ昼食だし、食べ物を売っている所が良いんじゃないか?」
「っ! ビックリしたな、ってルーク?」
私が振り返るとそこにルークが立っていた。
「何だよ急に話し掛けて来て」
「そんな嫌な顔をするなよ、トウマ」
「俺は今からクリスと2人で回るんだよ」
「そんな連れない事を言うなよ、俺も混ぜてくれよ。友達だろ」
「お前なぁ、こういう時にそう言う言わなそうな言葉を使うんじゃねぇよ」
何故かトウマとルークは、小さい言い争い始めてしまい私はどうしてそんな事になっているのか首を傾げた。
「つうか、ルークお前は昨日もガウェンと一緒に居たんだから、今日もガウェンと周ればいいだろ」
「ガウェンは先約があるから、今日はそっちでいないんだよ。だから、俺はお前らと周ろうかと思って声を掛けたんだよ。クリスは俺がいるのは嫌か?」
「別に俺はいいけど」
「あっ! ずりいぞ! クリスに訊くなよ! 俺が先に誘ったんだぞ!」
「いいじゃなか。混ぜてくれよトウマ。クリスもこう言ってるし」
「ぐるぅぅぅぅ……」
何故狼の威嚇する時の様な声を出すんだトウマ……何なんだよこの状況。
私は腕を組んでその状況を見ていたが、このままじゃらちが明かなそうな気がしたので私がトウマに声を掛けた。
「トウマ、何を気にしてるか分からないけど、このままじゃ自由時間が減るだけだぞ。いいじゃないか、ルークがいても」
「ク、クリス……」
「ほら、クリスもこう言ってるし、自由時間がなくなったら元も子もないだろ、トウマ」
「ルーク、お前……絶対許さん! 分かってて来たろ!」
「さぁ、何のことやら」
「くっそ~……俺の勇気を返せ……」
何やら2人で話していたが、何の話をしているのか私は分からなかったので無視して教室を先に出て2人を呼んだ。
2人が教室を出た所で改めてどこへ行くかを話していると、うちの教室前で立ち止まっている帽子を被った2人組の女子が目に入った。
「え~もう終わっちゃったの?」
「完売だって。残念ね」
「う~楽しみにしてたのに。やっぱり昨日来るべきだったんじゃない?」
そんな会話から、うちの出し物を目当てに来てくれた人だと直ぐに分かった。
するとそこに2人の男子が合流して来た。
「ここが目的の教室か? もうやってないようだが」
「完売しちゃったんだって」
「それは残念ですね」
私は4人で会話しているそのグループを見て、どこかで見覚えがある様な人たちだなと思ってじっと見つめていると、ルークに声を掛けられる。
「クリス、何見てるんだ?」
するとトウマもそれが気になり、私と同じ方向を向くと見つめていた先の1人の女子が私たちの視線に気付き、こちらを向いた時だった。
「あっ! クリスとルークだ」
「!? ……あっ」
私は帽子で顔が見えずに暫く目を細める様にして、私の名前を呼んだ女子を見てやっとその女子が誰なのかに気付いた。
「シルビィ!」
「久しぶり、クリス。それにルーク」
そう言って私たちの方へとやって来ると、シルビィと一緒にいた3人も近付いて来て声を掛けて来た。
「クリス君、ルーク君覚えてるかな? 私服だったし気付きづらかったよね」
「見慣れてなくて、でも覚えてますよ、リオナさん。それにラウォルツさんに、ゼオンさん」
「お久しぶりです、クリス様。ルーク様」
「やぁルーク、クリス。元気そうでなによりだ。対抗戦以来だね」
私とルークに声を掛けて来てくれたのは、バーグべル魔法学院のゼオンたちであった。
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