「(仕掛けて来たわね。さぁ、どう攻めて来るのかしら)」
ジュリルは私が動き出した事にすぐさま反応し、創り出した3体の人型ゴーレムで自分の周りを囲み防御態勢をとらせた。
私はジュリルと中間距離辺りで一度足を止め、姿勢を低し両手を地面に付けた。
そのまま魔力創造と魔力技量を同時使用し、扇状に2メートル程の壁をいくつも創り出した。
私はその直後に、壁を利用しジュリルとの距離を詰めて行く。
自分の周りはあのゴーレムで守ってるだけか。
魔法もまだ使う気配はないな……よし、まずはあのゴーレムを片付けて行くか。
私はジュリルの周囲の壁を利用し、素早く移動して唐突に飛び出して行き、ジュリルのゴーレムへ一撃を叩き込む。
だがその一撃は、簡単にゴーレムに受けとめられてしまい、私は目を見開いてしまう。
止めた!? ……この硬さ、ただの人型ゴーレムじゃないのか。
私は咄嗟に離れようとするが、左右から残りの2体の人型ゴーレムが私目掛けて拳を振り抜いて来た。
迫って来る拳に対し、私は両手をそれぞれの拳に向け『バースト』『ガスト』を放つと、2体のゴーレムは少しだけ後方へと押し出せた。
その一瞬の隙に私は2,3歩下がり、右手に魔力を込め先程攻撃を受けとめられたゴーレム目掛けて再度、拳を叩き込む。
するとゴーレムも先程と同じように私の拳を受けとめようとしたが、先程よりも私は魔力を込めた拳である為、受けとめられずそのままゴーレムの核ごと貫いた。
私は、そのままジュリルに対してももう一歩踏み込んんで殴り掛かろうとするも、ジュリルは私に対して両手の平をクロスさせた状態で突き出していた。
「貴方なら突破してくると思っていたわ。『アイスブランチ』」
そう唱えると、ジュリルの突き出した手から複雑な枝状の氷が放たれる。
目の前で放たれた魔法に私は避ける事が出来ず、真正面から魔法を受けてしまい体や顔の頬に氷の枝が擦って行き、切り傷が複数箇所出来てしまう。
そのまま後ろへと数歩押し込まれると、ジュリルは連続で魔法を放つ。
「『アイスレッグホールド』」
ジュリルの魔法によって私の両足は、凍り漬けにされてしまう。
更に、そこへ先程遠ざけた2体のゴーレムが再び同時に殴り掛かって来る。
ぐっ……これはもう出し惜しみしてられないな。
中途半端に終わるなんて一番最悪だ!
私は作戦を変更し、この絶体絶命の状況を打破するために奥の手をこの場で使う事を決める。
そして私は両腕を魔力創造にて地面から鎧の様な物で覆い、魔力技量で荒削りに形を整えて、両手をクロスし殴り掛かって来たジュリルのゴーレムの拳を片手で受け止める。
そのまま私は掴んだゴーレムの拳から、魔力技量を流し込みゴーレムの腕を一部削り、脆くなった腕をそのままへし折る。
「(っ!? あの強化ゴーレムの腕をへし折った?)」
ジュリルはまさかの光景に驚きの表情をしていた。
私はそんな事など気にせずに、そのままゴーレムに向けた手から『ガスト』を放ちゴーレムを遠ざける。
すぐさま私は凍り漬けにされた両足に両手をかざし、魔力技量と制御で削って抜け出し、そのまま顔の正面を覗いた全身を両腕と同様に魔力創造で鎧を創り上げ、技量で形を整えた。
「(あれが切り札……さっきの攻撃は一見パワーで破壊した様だったが、操作していた感覚だと魔力を逆に流されていたわね。それに全身をただ鎧の様に覆っているようだけど、全身に魔力が通っていてまるでゴーレムを纏っているようだわ)」
私の姿を見たジュリルは、瞬時に分析を行い始め私と距離を取ろうと後方へと移動し始める。
それを私は逃がす訳にはいかないと、強く地面を蹴り素早くジュリルとの距離を詰める。
だがジュリルはそれも想定していたのか、すぐさま魔法を放ってきた。
私は咄嗟に両腕で防御姿勢を取り、ジュリルの魔法を防ぐがジュリルとは距離を取られてしまう。
いや、まだこの距離なら問題ない。
このまま押し切る! あの場で奥の手を出すように仕向けられて、そうするしか出来なかったんだからこれで決めなければ、完全に私の勝ちはなくなる。
私の今の状態は簡単に言えば、ゴーレムを纏っている様な状態である。
魔力創造・技量・質量・制御によって一時的に創り上げた装備であり、これは大運動会にてダンデから習った体術に、スバンの魔力質力のやり方・ロムロスの魔力付与を元に私が独自に創り上げた奥の手だ。
これを私は、ゴーレム武装と言っている。
ゴーレム武装は、身に纏ったその物自身が魔力を纏っている為、自身の魔力消費が膨大であり使用の制限時間があるが、魔力を使った体術や魔法の発動、直接的な魔力干渉などもある程度行う事が出来る。
使ったからには時間との戦いでもあるだ。
だから必ずこれで決める!
私がそのままジュリルへと突っ込んで行くと、ジュリルは目の前に1体の人型ゴーレムを創り出した。
ゴーレムを1体だけ? いや問題ない。
深く考え過ぎるな。
何であれ、この状態なら退けられるはずだ。
私は一瞬ためらいそうになったが、この好機を逃す訳には行かないと言う気持ちが勝ち両手に魔力を込め出し、そのままゴーレムへと殴り掛かった。
次の瞬間、ゴーレムではあり得ないスムーズな動きで私の攻撃をかわし、カウンターで私へと一撃を叩き込まれてしまい軽く吹き飛ばされてしまう。
ぐぅぅ……な、何今の動き……あり得ない。
ゴーレムがあんな本物の人の様に動くなんて……どう強化しても、魔力を流し操作したとしてもあんな動きは出来ないはず。
私はそのまま異様な動きをしたゴーレムの方へと再び視線を向けると、その後方でジュリルがそのゴーレムと同じ姿勢でいる事に気付く。
そしてジュリルが体勢を元に戻すと、ほぼ同時にゴーレムも同じ行動をとったのだ。
まさか、感覚接続!? だとしたら、先程の動きも納得出来るけど、実際に使用できる人がいるなんて……本の中でしか見た事なかったから未だに信じられないが、使用時の状況から感覚接続である可能性は高い。
感覚接続は、ある対象物に対して自身の感覚を接続することで魔力を通じて何かを行う事に対して、遅延なしで操る事が出来るのだ。
実際に今までは研究内容などでよく見られる内容であったが、実際に使用できる人がいると言う事はほとんど書かれておらず、その存在自体私はただの知識として入れているだけであった。
基本的に何かを操る時には、魔力を通して操る事が基本的である為、どうしても操作時に遅延が行ってしまい思った通りに動かす事が出来ないという事があるが、魔力で操ると言う部分を自身の感覚で代わりに果たす事で、遅延もなく自分が思った通りに動かす事が出来ると言う内容である。
デメリットとしては、感覚を接続する為痛みと言った痛覚は共有されてしまう点と、操った状態で別方向へと魔力や魔法を自身から放つ事が出来なくなる点が上げられている。
仮に感覚接続したゴーレムが破壊された場合は、接続者は死ぬことはなく破壊された部分から接続が切れるだけである。
にしてもジュリルめ、そんな事まで出来るのか……あ~やっぱり凄いよジュリル。
私はそんな貴方とこうやって全力で戦えている事が心から嬉しいよ。
うっすらと私は笑った後、ジュリルの前に立ちはだかるゴーレムに向かって突っ込み手の平から魔法を放ち、そのままもう片方の拳に魔力を込めて破壊を試みる。
だがゴーレムは、私が放った腕を掴み下へと向けると、殴り掛かった拳を受けとめる事はせずに上手く流して、方向を逸らされた。
そしてゴーレムは私の腹部目掛けて、膝蹴りを叩き込んで来た。
「ぐふっはっ!」
「『ジャイアントブロウ』!」
私はそのまま吹き飛ばされてしまうが、地面へと足を着け途中で踏ん張り、耐えた。
「はぁ……はぁ……」
私が息切れし始めている中、ジュリルは顔色1つ変えずに私の方を見つめて来ていた。
この状態でいられる残り時間も少なくなって来たな。
ここに来て、また新しい手を出して来るとはね……あの状態で魔法の威力も変わらず放てるとは、流石二代目月の魔女。
もうこうなったら、一か八かの手段をやってみるしかもうないか……上手く行く気はしないけど。
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