次の日、位置づけとしては学院対抗戦3日目となるのだが、特に競技などはなく今日は街の祭りに参加してそこで他の学院生たちとの交流をすると言うのが大きな面目になっている日である。
また、夕刻頃から慰労会として学院対抗戦参加校全校でのパーティーが行われる事になっている。
パーティーでは、代表選手になった者とそうではない者とで最初は会場が違うが、最終的は全てを混ぜての慰労会と言う名の交流会が行われる予定である。
「ん~……はぁ~。何かまだ眠いけど、あのまま寝てたらずっと寝ちゃいそうだから朝食食べちゃうか」
私が起きたのは9時前であり、寮内では遅い方であったが今日は授業もなく普通に休日であるので食堂兼リビングに行くと、まだ朝食を食べている人たちがちらほらといた。
今日は夕方に慰労会があるので、生徒たちはそれまで自由時間となっており、朝早くから街へと繰り出していく者が多いらしい。
まぁ、それは昨日の祝勝会が聞いただけだから本当かは知らないけど、寮の感じを見ると合ってそうだな。
私はゆっくりと朝食を食べた後、昨日の試合での疲れもまだあったので自室でストレッチをするなど、体のケアを午前中いっぱいまで行った。
ルームメイトのシンはトウマたちと街へと行くと、昨日聞いていたので部屋は私一人である。
「ふ~こんな所かな。シャワーで汗でも流して、私も少し街に出ようかな。どうせ、慰労会場の現地集合だし」
その後私は部屋にあるシャワー室へと入り、少し鼻歌交じりにシャワーを浴びていると部屋の扉を誰かがノックして来た事に気付き、シャワーを止める。
えっ、こんな時に誰? 面倒だな……居留守でも使うか?
「アリス君、部屋にいるかい?」
ん? オービン先輩!? な、何で急に私の部屋に訪ねて来るの?
私は少し困惑しつつも、何か急用かもしれないと思いシャワー室から声を出している事を知らせる。
その後急いで着替えてから部屋の扉を開ける。
「急にどうしたんですか、オービン先輩?」
「あ~すまない。何か取り込み中だったかな? 大した用事じゃないんだが、特に用事などなければ出掛けないかと誘いに来たのんだ」
「俺をですか?」
オービンは首を縦に一回振る。
う~ん、これってデート的なお誘い? いやいや、今の私はクリスだしオービン先輩もそんな感じじゃなさそうだけど……過敏過ぎか?
私は少しうろたえた表情をしていると、オービンは付け加える様に口を開いた。
「二人きりじゃなくてだな、これからリーベストたちと会うんだが、クリス君も良かったらと思ってね。エリスやミカは2人で出てて、一度会っている君を誘ったわけさ。どうだろうか?」
「リーベストさんたちとですか……確かに知らない人ではないですが、オービン先輩一人会う約束をしたんじゃないんですか?」
「一人より、二人いた方が遊ぶにしても楽しいだろ。そう言う事さ」
オービンはそう笑顔で私に言うが、多分これは一人だと何か物足りないと思っているから、空いていそうな私を誘いに来たんだなと思った。
まぁ、街には出ようとは思っていたし、知らない人たちでもないからいいか。
どうせ一人で行きたい所も決めてなかったし、何か奢ってもらえるかもしれないし意外と悪くない話なんじゃないかこれ?
私は少し考えた後、オービンからの誘いを受けた。
その後、自室で服を着替えオービンと共に寮を出た所で、ルークとバッタリ出くわした。
「ルーク。珍しいね、どっか行ってたのか?」
「少しタツミの所で体を見てもらってたんだ。昨日試合でかなり魔力を使ったからな。……それよりクリス、何で兄貴と一緒に居るんだ?」
オービンはルークに「おはよう」とだけ声を掛けた。
ルークは、少しぎこちなさそうにそれに対して挨拶を返した。
「いや、オービン先輩に外出に誘われて、今から行く所なんだ」
「なっ!? ど、どう言う事だよ兄貴?」
ん? 何でルークがそんな驚いてんだ?
オービンは詰め寄って来るルークに対して、リーベストたちと会いに行くのに誘ったと説明するとルークは「だったら俺も行く」と言い出した。
その発言に対してオービンは特に断る理由もなく、私からも特に言う事もなかったので、その場で同行者が一人増えるのであった。
なんかあっさりと人が増えたな。
にしても、ルークがこう言うのについて来るとか珍しいな。
あっ、もしかしてこれも目標の為に社交性を磨く為とかそう言う感じなのかも。
それなら納得の行動だな。
と、私はルークの行動を勝手にそう思い込んで、勝手にルークの方を見て頷きながら納得した。
それを見たルークは、私の突然の行動に引いていた。
「(はぁ? 何でコイツ、急に俺の方を見ながら頷いてるんだ? こわっ……てか、何で兄貴はそう簡単にアリスを誘ってるんだ? 兄貴もアリスに気があるのか? 前に偽ではあるがデート相手もしてたし、それで意識が出来たとしてもおかしくはないよな……)」
「(いや~まさかルークまで付いて来てくれるとはね。クリス君を連れ出して正解だったな。でも、ルークの奴には変な目線で見られてるから、何か間違った勘違いをされてる気がするな。まぁ、そこは後で解決すればいいか)」
ルークとオービンは兄弟でそれぞれ違う考えをしながら、私と三人で街へと繰り出して行った。
その後、噴水の時計台前でリーベストと相棒的な存在の二コルと合流し、雑談をしながらオービンや予約した店で昼食を食べた。
するとそこへ偶然か、ゼオンたち一行が現れ合流する事になった。
私はそこで初めて、リオナとラウォルツと顔を合わせ軽く挨拶を済ませた。
それからは、そのメンバーで屋台や観光名所をなどを周りながら互いの話をしたり、たわいもない話をして仲を深めた。
そしてあっという間に時間が過ぎて行き、日が傾いて来た頃に慰労会の会場へと私たちは向かった。
「お~! ここが会場のホテル。大きいな、こんな所があったのか」
「何、クリス君は知らなかったの?」
「あ、はい。あまり街の方に出ないんで、初めて見ましたよ。リオナさんは知ってたんですか?」
「まぁ学院対抗戦は三回目だし、一度この会場も来た事があったからね」
私がリオナとそんな会話をしながら、ホテルの敷地へと足を踏み入れている時に後方では、リーベストがルークに懲りずに絡んでいた。
「なぁ、オービンの弟。ちょっとだけ手合わせしようぜ。お前もオービンに引けをとらず強そうだしよ、俺とどっちが強いか見てみたいんだよ。な! なぁ! やろうぜオービンの弟」
「ですから、さっきから言ってますけどやりませんって! 何度言えば諦めてくれるんですか?」
「ちょっと不完全燃焼気味なんだよ~坊ちゃんとの試合も良かったけど、もう一戦くらい強い奴と戦ってみたいんだよ~だから頼む! オービンの弟~」
「嫌ですって! 後、その呼び方止めて下さいよ」
するとそこに二コルがすかさず割って入った。
「おいリーベスト。まだ、言ってんのか」
「げぇ……二コル」
「すまないな、ルーク。こいつの話は無視していいから。全く少し目を離すとそんな事しやがって、嫌われるぞリーベスト」
リーベストをルークから引き離した二コルは、その場で軽く注意し始める。
それをルークが少し離れた所から見ていると背後から、ゼオンが話し掛けて来る。
「あの人に目を付けられるとは、残念だったねルーク」
「ゼオンさん」
ルークがそう呼ぶと、何故かゼオンはその呼ばれ方に浸っていた。
「すまん。あんまりそんな先輩ぽく呼ばれてなかったもんでな」
「は、はぁ」
「あの人は面倒だし、おしゃべり大好きだけど実力は相当だから、いつか一度手合わせしてみるのはおすすめだよ。君の戦い方にも何かヒントになるかもしれないからね。まぁ、それもほどほどがいいけどね」
それだけゼオンは言うと、ラウォルツと一緒にホテルの敷地へと先に入っていた。
「ルーク。どうだった、あいつらと話したりしてみて。いい刺激になったろ」
「兄貴。あぁ、色んな意味でいい刺激だったよ。ほとんど他の学院の生徒と話した事なかったけど、話してみると授業や学院の方針とかも想像していたのと違っていたりと驚いたよ」
「そうだろ。あいつらはそれぞれの学院の中で自分を磨いて、トップに立っている奴とそれを支える奴らだ。お前の目標とする所に参考程度にはなったろ」
ルークは「あぁ」と呟き頷いた。
「それじゃ、俺たちも行くぞルーク」
オービンがそう言って先にホテルの敷地へ進んで行き、後からルークも追いかけるように歩き出す。
「(兄貴は、今日俺にこんな経験をさせる為に誘ったのか? いいや、今日の感じから本当に普通に同年代の人たちと楽しく過ごしただけだ。そこに俺が勝手に付いて来ただけで、今日の経験は副産物的な物って所かな)」
ルークはそんな風に思いながら小さく笑うと、小走りでオービンの真横に並びホテルへと入って行くのだった。
その後、続々と学院生徒たちが集まって来て慰労会がスタートした。
その頃同じ王都ジェルバンス内の、王城内にて学院対抗戦を観戦しに来ていた両親方のみで国王主催の懇談会が行われていた。
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