とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

令嬢が男子寮へ男装し転入するもハプニング連続で早くも正体がバレる⁉︎
光逆榮
光逆榮

第227話 絶体絶命の大ピンチ

公開日時: 2022年5月7日(土) 09:01
文字数:3,738

 私は押しに弱いのだと今日はっきりと理解した。

 今までにも何度か似たような事があったと、私は振り返り今日の出来事で自分の弱点を初めて理解した。

 現在私は、二コルの押しに負けて一緒にベンチに座り二コルからの奢りの軽食と飲み物を手にしながら、軽く雑談していた。

 はぁ~どうしよう……別に二コルとのこの時間が嫌と言う訳じゃないんだけど、何と言うか視線が……

 私はそんな事を思いつつ、後方の遠くからの視線を気にしていた。

 その視線を送って来る相手は、リオナとシルビィである。

 たぶん私だとは気付かれてないと思うから、二コルの方だと思うけど見るならもう少し隠れるとかしないかな? 丸見えなんだよね。

 私は二コルが買いに行っている時に、たまたまベンチに座る際に視線に気付き2人を見つけたのだ。

 もう何というか、隠れる気はなくデートを覗き見してます感が溢れていた。

 とりあえず、あの2人がここに合流してくる事はなさそうだから、このまま二コルとの時間を何事もなく過ごして、さらっとこの場から立ち去れば問題ないはず。

 私はリオナとシルビィからの視線を気にしつつも、二コルとの時間を過ごした。


「ねぇ、シルビィ。二コルがデートしている相手どう思う? 同い年だと思う?」

「そうですね、二コルさんのイメージからすると年上好きと言うか、お姉さんタイプが好きそうなので1つくらい上ぐらいじゃないですかね?」

「分かる! 私もそのイメージ。でも、相手の感じからすると同い年か年下って感じね。雰囲気的に」

「えっ年下ですか? 私にはそんな感じには見えませんが」

「いいえ、あれは何と言うか装っている感じね。本当の自分をまだ出していないわ」


 リオナとシルビィは、二コルのデートを見て話に花が咲いていた。


「にしても、まさか二コルがナンパするとはね。そこが予想外だったわ。そんな事出来ない人だと思ってたし、奥手ってイメージだったから見る目が変わるわ」

「それはリオナ姉様に同感です。頼りになるお兄さんって感じの雰囲気で、いつもリーベストさんを支える相棒って感じで、恋愛しているイメージが持てなかった人でした」

「彼はいつもリーベストにからかわれていたりするから、あまり自分の事を言わなかったりするし、そう思うのも仕方ないわ」

「リオナ姉様、二コルさんがいると言う事はリーベストさんもこの学院祭に来ているのではないんですかね?」


 ふとシルビィが思った事を口にすると、リオナは「確かにそうね」と答える。

 だが周囲にリーベストの姿はなかったので、別行動でも取っているのだとリオナは思い二コルの方へと意識を戻した。

 と思った次の瞬間だった。

 リオナたちの真横をリーベストが通って行く。


「あれ? もしかして二コルか?」


 リーベストは遠くに座っている二コルの後ろ姿を見てそう呟くと、そのまま大声を出して二コルを呼ぼうとした。

 しかし、それにいち早く気付いたシルビィがリオナの名を口に出すと、リオナは瞬時にリーベストの脛に片足で蹴りを入れる。


「いっった!? 何!?」


 するとリオナはそのまま立ち上がり、脛を抑えるリーベストを見下ろして自身の口に人差し指を当てて黙る様にジェスチャーをとる。

 だがリーベストは、黙らずリオナの存在に驚いた。


「リオナ!? 何でお前って、今のお前がやったのか? 何でこんな事――」

「リーベスト、少し黙ってて!」


 少しきつめにリオナが言うと、リーベストはその言葉に気が引けてしまい黙る。

 その後シルビィが、二コルの方を見てこちらを見ていない事を確認するとリオナにそれを伝える。

 リオナはそれを聞くと、再び座ってリーベストの方を見た。


「リオナ、何で急に脛を蹴ったのか教えてくれるんだろうな?」

「そんなの貴方が二コルに声を掛けようとしたからよ。今良い所なんだから、邪魔しないの」

「良い所? どう言う意味だ? てか、お前らも来てたのか学院祭」

「お久しぶりです、リーベストさん」


 シルビィは普通にリーベストに挨拶をすると、リーベストもシルビィに対して返事をした。

 その後、リオナから二コルがナンパしてデート中(勝手にそう思い込んでいる)だと言う事を伝えると、リーベストは「なるほど」と呟いた。


「たまには黙って見てなさいよ。いつもお世話になってるんだから、二コルの恋愛を邪魔しないように」

「わぁってるよ。で、相手は誰だ? やっぱり年上か? あいつはお姉さんタイプが好きだし、今日も好きそうな雰囲気の子に見惚れてたし、もしかしてその子か? いや、あいつにナンパする様な事はないか」

「相手はたぶん年下ね。それに二コルから声を掛けてるわね、あれは」

「何だって!? おいおい、マジかよ」


 リーベストは、リオナとシルビィの間に移動して机に両腕を組む様に置いて二コルの方を見た。

 そのまま3人で二コルの様子を観察していると、話が白熱して少しだけ二コルから視線を外した時だった。

 二コルの所にトウマが近付いて来ていたのだった。

 その事に遅れて気付いた3人は、トウマを止める為にリオナとリーベストが先頭に立って向かい始めた。

 だが、見つけるのが遅かった為トウマは、二コルに気付き声を掛けたのだった。


「あっ、二コルさん……」

「トウマ……」


 ……トウマ、何でこのタイミングで……

 私は二コルと同じ様に、少し放心状態に陥った。

 するとトウマは、状況を察したのか申し訳なさそうに「何か、すいません……」と視線を外して謝った。

 二コルはその言葉を聞いた直後、慌てて立ち上がった。


「いや、謝らないでくれ。これは、ちょっと話していただけで」

「これは俺が悪いんで、はい、すいません」

「トウマ、俺の話を聞いてくれ。これはだな」


 と、言いかけた時にリーベストが突っ込んで来て、トウマの両肩を掴み前後に揺らした。


「何してんじゃ、お前!」

「すいません~! 悪気はなかったんです~!」


 トウマは首が前後に揺れつつ答えたが、リーベストはトウマを離さずに揺らし続けた。

 そこにため息をつきながらリオナとシルビィがやって来た。


「トウマ君、君には失望したよ……」

「空気が読めない男子は持てないよ、トウマ……」

「うぅ~ごめんなさ~い~」

「リーベスト!? それにリオナに、シルビィまで、何でここに?」


 二コルは次々に現れる人に困惑し始める。

 そして私はと言うと、その場でもう固まる事しか出来ずにいた。

 その後リーベストやリオナが、二コルに対してデートを邪魔して悪いと言う様な事を伝えられて、二コルは耳が一気に赤くなる。


「ち、違う! これはそんなんじゃないくて」

「いいって、俺たちが悪いんだ。だから、もう何も言うなよ二コル」

「いや、何全て悟った様な事を言っているんだよリーベスト!」


 二コルの肩に軽くポンと置いて来たリーベストの手を払いながら反論するも、リーベストはそのまま同じ様なやり取りを続けた。

 そんな中、リオルやシルビィが私の方にやって来て勝手にデートを邪魔した事を謝り始めた。


「……やっぱり、どこかで見た事ある様な気がするんだよな~」

「何、トウマ君横取りナンパ?」

「えっ、トウマってそんな人だったの?」

「違いますよ! そうじゃなくて……あっ! クリスだ」


 えっ……バレた!?

 その時私は唾を飲み込んだ。


「クリス君?」

「そうそう、クリスに似てるんだ! あ~何かスッキリした」

「……あ~言われて見れば少し似てるかもね」


 やばいやばいやばい! これは物凄くやばい! バレるよ、バレちゃうよこれ!

 私は名前を呼ばれてじろじろと見られ始めた事に、心臓の鼓動が速くなり、このままでは本当にマズいと理解し絶体絶命の状況だと悟る。

 その後リーベストや二コルもそこに加わり始めそうになり、私は下を俯いた。

 どうする? どうすればいい? 逃げるか? いや、ここで逃げたら怪しまれない? てか、完全に囲まれて逃げられないし、本当に大ピンチじゃん私!

 絶体絶命の状況に私は何の策も思い付かず、助けもない状況に私はただ俯いて固まる事しか出来ずにいた。

 そして周囲の皆は、徐々に私へ興味が湧き始めてゆっくりと近付き始めた時だった。


「トウマ、あいつ見かけたぞ」

「へぇ?」


 その声に、トウマたちが振り返るとそこにはルークが立っていた。


「あいつって……」

「はぁ~クリスに決まってるだろ。ゼオンさんと話してたぞ。てか、何でリーベストさんやリオナさんもここにいるんです?」

「いや~色々と事情があってね」

「そうそう」

「まぁいいですけど。あっそう言えば、ゼオンさんが知らない女性と楽しそうに歩いてましたけど、放って置いていいんですか?」


 その言葉を聞いた直後、リオナはその方向を聞いて走り出した。

 直後、その後をシルビィが追って行くとリーベストは「何か面白そうだな」と言って二コルを強制的に連れて追いかけて行った。

 トウマはと言うと、リオナが走り出したのと同時に並走する様にルークから訊いたクリスの場所へと向かって行き、既にこの場には居なかった。

 結果、私は絶体絶命をルークのお陰で抜けきったのだった。

 私は安堵の息をつき、そのままこの場から立ち去ろうとするが、何故かルークに呼び止められる。


「な、何ですか?」

「助けてやったのに、お礼もなしで行くのかよ」

「えっ……」

「普通助けてもらったら、その人にお礼くらいは言うだろクリス」


 まさかのルークの言葉に、私は開いた口が塞がらなかった。

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