私たちが卒業生研究発表資料室に向かって歩いている中、通り過ぎる教室ではそろそろ学院祭終了なので片づけを始めている教室もちらほらと目にした。
だが、まだ学院祭は終了していないので出店などは最後まで売り続けようと生徒たちが声を出して呼び込みをしていた。
一般人の方たちもまだ校内に沢山おり、最後まで学院祭を楽しんでいた。
私たちとすれ違う人たちは一瞬だけ私たちの方を見るが、そこまで気にする事無くそのまますれ違って行った。
そして、卒業生研究発表資料室に向かう途中でグラウンドが視界に入りチラッと見ると、中心に大きな薪を運んでいる生徒たちと教員の姿が目に入る。
ん? 何の準備をしてるんだろ?
私は歩きながらその方向へと視線を向けていると、ルークが気付いて答えてくれた。
「あれは後夜祭の準備だよ。ああやって薪を組んで最後に火を付けるんだ」
「へぇ~そんな事するんだ。後夜祭はダンスパーティーってシンリから聞いてたから、てっきり室内だと思ってたよ」
「後夜祭は生徒主導で、例年外でやる事になっているんだ。一応一般の人も参加して一緒に最後まで楽しもうと言う趣旨でやって来ているらしい。だから、人数が多くても問題ない外でやってるんだ」
「そうだったんだ。意外と詳しいね、ルーク」
「例年各寮長たちがリーダーとして動いているから、それを知っていたたけだよ」
私はその話を聞いて、やはり寮長や副寮長は色々な仕事に追われて忙しんだと勝手に思い、以前私のわがままに付き合ってくれたオービンに申し訳ない気持ちになった。
その後、私たちは卒業生研究発表資料室近くまでやって来て、入口に男性教員が1人立っているのを目にする。
そのまま私とルークはその教員に話し掛けて、まだ卒業生研究発表資料室に入れるかを確認するとまだ大丈夫と言ってもらえたので、そのまま部屋へと進んで行った。
部屋に入るとそこは、寮内にある小さな図書館に似ている作りになっており、様々な棚に卒業生の研究発表資料が収められていた。
更には、研究時に作ったと思われるレプリカなどの実物品も展示用ケースに飾られていたりもした。
部屋には私たち以外には誰もおらず、静かな空間になっていた。
「すっごい! こんなになってるんだ!」
私は目を輝かせながら研究発表資料タイトルと見たり、展示用ケースに近付いて見つめていた。
そんな私をルークは優しい顔で見ながら、自分も棚にある研究発表タイトルに目を向けていた。
「俺も初めて来たが、こんなに研究発表資料があるとはな。大図書館にもあるのは見た事あるが、そこにあったのは簡易的な物だったんだな」
「それね! 分かるわ~確かに大図書館にある研究発表資料は、すごく分かりやすくまとめられているだけど、私としてはもう少し具体的に知りたいと言う物もあって、大図書館を探したりしたんだよね」
「そ、そうだったのか?」
「そうよ。あ~こんな魅力的な場所だったなんて、何で学院祭の時しか解放してないのかな? 毎日来たいくらいなんだけど」
「(たぶん、そんな事を思うのはお前だけだぞ)」
と、ルークは心の中で思いつつ、それは口には出さなかった。
その後ルークは気になった研究発表資料タイトルを手に取って、中身を読み始めた。
私も気になっていた研究発表資料タイトルを探し出し、中身を熟読し始めたが、これは限られた時間で読みたい物に目を通すのは厳しいと思い、断腸の思いで重要箇所と気になった所だけ目を通して別の物へと移った。
そのまま私たちは、互いに気になった研究発表資料を読みつつも、互いにおすすめの物を間に話したり、知らない用語などを私はルークに訊いたりして時間を過ごしていた。
そうだ、もしかしたらここになら卒業生でもある月の魔女の研究発表があるかもしれない。
私はそう思い、いくつもの棚を探し始めたがどこにも月の魔女と書かれた物はなかった。
ん~さすがに月の魔女とは書かれてないか。
もしかしたら、その名前であるんじゃないかと思っていたけどないか。
そうなると、本名って事になるけど私知らないんだよな~……う~ん、さすがにそれはどうしようもないよね。
でも、ここまで来たら諦めたくないんだよね、どうにかして知る方法はないかな。
私は腕を組んで頭を悩ましていると、突然私の前に一冊の研究発表資料が差し出されて来た。
突然の事に私は驚き、差し出して来た方を見るとそこには表にいた男性教員が立っていた。
「えっ、な、何ですか急に?」
「いえ、お探しの物がある様子でしたので、お持ちしたんですよ」
「え?」
私は差し出された研究発表資料を手に取って、タイトルの下に書かれている名前を見ると、何故かそこだけ黒いもやが掛かっていた。
「あ、あの、これ作者にもやみたいのがかかっていて誰だか分からない物なんですけど」
「それは月の魔女の本当の名前が書かれていますので、あえて隠しているのですよ」
「えっ!? これって月の魔女の研究発表資料なんですか!?」
私が少し興奮しながらした問いかけに、男性教員は優しく頷いて来た。
こ、これが月の魔女の研究発表資料。
私は生唾を飲み込み、渡された研究発表資料を開こうとしたが、その前に一度止まり本当にこれが月の魔女の研究発表資料なのかと思ってしまった。
現に、作者は黒いもやで不明で、見知らぬ男性教員が突然私が探していた物を持って来た事に違和感を感じ始めた。
何でこの人は私が探していた物が分かったのかしら? と言うか、いつの間に近付いて来たの? 全然気づかなかった。
私は男性教員に対して、この人は本当に教員なのだろうかと言う疑念の目を向けた。
「どうしたんです? 読まないんですか?」
「あの、これは本当に月の魔女の研究発表資料なんですか?」
「えぇそうですよ」
「では何故、私がそれを探していると分かったんですか? 一度も口には出していませんし、そもそも貴方は外に居ませんでしたか?」
すると男性教員は、そのまま黙り込んでしまう。
怪しい……この人、本当にこの学院の教員なの? ちょっと前にはタツミ先生の偽物が紛れ込んでた事件もあったし、もしかしたらこの人も教員とかじゃなくてそう言う人なのか?
私はそう思いつつ、いつ何が起きてもおかしくない様に心の準備と体を直ぐに動かせる様に男性教員から見えない所でかまえた。
すると男性教員は腕を組み始め、何か考え始めた後ため息をついた。
「やめやめ、こんな茶番するべき事じゃなかった」
男性教員が腕組みを止めて、片手を振りながらそう話し始めた。
急にこの人は何を言い出したのかと思い、私は首を傾げた。
直後、男性教員が軽く指を鳴らすと今まで目の前にいた男性教員の姿が一瞬で変わり、魔女が被っている様な帽子を被った女性へと変わったのだった。
まさかの出来事に私は「えっ!?」と声が出てしまう。
「いや~昨日振りだね、アリス。覚えているかい? 私の事」
そう訊ねて来た女性が、被っていた帽子を軽く上に上げて顔を私に見せて来た。
「……あっ! えっ、リリエルさん!?」
「あたり」
男性教員だと思っていた人物は、昨日初めて出会った人でもあり、母親であるリーリアや学院長のマイナなどが学院生時代の担当教員をしていたリリエルであった。
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