何を言っているのこの人は……私が消える? 器になる?
突然の宣告に私は目を見開いたまま、バベッチを見つめていた。
そんな事出来るはずがない、聞いた事もないしやれたとしても上手くいくはずがない……そうだ、これは私を精神的に追い込もうとする拷問なんだ。
そう私が思った直後、バベッチは真顔でその考えを打ち砕いて来た。
「これはハッタリでも嘘でもないから。現に俺は、その成功者さ」
「成功者?」
そう言ってバベッチは、懐から1枚の写真を取り出し私に見せて来た。
そこには王都メルト学院の制服を着た生徒が5人映っており、そこには見覚えがある顔があった。
それはお母様であり、私は「あっ」と小さい声を上げていた。
バベッチはそのまま昔話を始めた。
今から24年前に、王国へのクーデター事件が発生しそこにある犯罪組織が関わり王国転覆寸前まで行われた事件があった。
だがそれは、現国王と王女の活躍と王都メルト学院生徒の活躍もあり解決したのだった。
しかし表には出ていないが、ある生徒が生徒を庇い死亡すると言う報告があった。
そこで死亡したのがバベッチ・ロウと言う生徒であり、写真にも映っている通り現国王と王女以外にも、学院長でもあるマイナやリーリアの同級生でもあったのだった。
その後その死体を回収し、魂憑依と言う禁忌の魔法を使い王国転覆を計った犯罪組織の生き残りがバベッチの体へと乗り移ったのだと語った。
その為、見た目は若いまま魂は40代と言う事なんだとバベッチは少し冗談交じりに話した。
「あり得ない……そんな事あってはいけないことだ。お前は許されない事をしてるぞ! 分かっているのか!」
私は他人のしかも死んでいる体を自分自身の欲望の為に使っている事が許せなくなり、バベッチに怒鳴るもそれはバベッチには届いていなかった。
「これは有効活用だ。一度死んだ身のバベッチと言う体を、俺が有効的に使っているんだ。若いまま死んでしまって、彼も報われないだろう」
「ふざけるな! 何が有効活用だ! それはただ、死者の体を弄んでいるだけに過ぎない! 今すぐ止めろ!」
「止めろと言われても」
私はバベッチに突っ込もうとするも、拘束具に繋がれた鎖で動きを制限され引き戻され、その場に尻もちをついてしまう。
そしてバベッチは私を見下ろす体勢で不敵な笑みを浮かべた。
「そんなに怒っても仕方ないよ。これから君も、同じ様な事になるんだから」
「っ!」
「え? もしかして、忘れてた? 俺の事に怒って忘れてたのかい? あはははは! さすがにそれはないか」
バベッチは大声で笑った後、先頭を歩きだしその後を黒いローブを来た奴らも追って歩き出す。
私は後方の黒いローブを来た奴に立つように指示され、逃げる事も出来ないのでそれに従い歩き始めた。
その道中バベッチは歩きながら私に話し掛けて来ていた。
「そう言えばさ、何で君男装なんてしてるんだい? 趣味?」
「なっ……」
「俺は相手をよく観察するタイプでね、ちょっとした仕草が気になったりするんだよ。そこから君が男装している事も分かったんだよ」
バベッチはただ話したいのか、自分の能力を自慢したいのか分からないがそのまま私に背を向けたまま話し続けた。
だが私は途中からバベッチの話など聞かずに、どうすれば逃げられるかと考えていた。
拘束された状態、黒いローブを来た奴は前に2人に後ろに1人、先頭にはバベッチを名乗る男……強引に逃げた所で魔法も使えるか分からない状況では無謀だ。
と言っても、このまま連れて行かれたらコイツの言う通りであるならば、私は死ぬ。
死と言うものが迫って来るのはこれが初めてではなく、一度夏合宿の時に死にそうな危機を体験していた為、少し冷静になれていた。
相手の力量は不明、黒いローブを来た奴らに関しては学院で見た時の事から魔道具を使うものと武術を使う者がいるのは分かる。
一番は、あのバベッチだ。
あいつの話からすると、あいつは副官的な立場なのは分かる。
そしてこいつらの正体もさっきの話で分かったが、まさか過去に王国を転覆させようとした犯罪組織『モラトリアム』とは衝撃だ。
確かにあの事件の時、主犯格と数名を取り逃がしたとされていたがまさか姿まで変えているとは……しかも死体を使って。
「おいおい、背中越しでも分かるんだよ君の怖い目線がさ」
バベッチは私の睨む視線に気付き話を変えて来る。
しかし私は、答える事無くただ歩き続けた。
「その顔は女の子としてどうなの? あっ、男子と偽って逆ハーレムを体験してる感想を聞きたいな。どうだった? やっぱり胸がドキドキした? もしかして、好きな男子が出来た?」
「……」
「無視しないでよ。そう言う細かい事を知っておかないと、ボスが君になった時に困るんだよ。だから、ね? ちょっといいから教えてよ~」
「……貴方っておしゃべり好きなんですね。……少し黙ってもらえますか? いい加減うざいです」
「はぁ~緊張をほぐしてあげようと言う、俺なりの優しさだったのに。そんな事を言われると俺、傷つくな~」
「思ってない言葉を口にすると、相手の機嫌を損ねると知っておいた方がいいですよ」
「ん~あたりがきついな~アリス・フォークロス」
「っ!?」
私はバベッチから出た言葉に、耳を疑った。
何故この男が私の正体を知っているのか分からなかったからだ。
ここまで正体を暴かれる様な事はしていないし、オービンが口を割った様にも思えなかった為、余計に分からずどこで知ったのかと動揺していた。
どうして私の名前を知ってるの? ……いや、知っていたのか? いやいや、それこそあり得ない事だ……
私は突然の事に足を止めてしまうと、それに気付きバベッチも足を止め振り返った。
「動揺しているね~アリス。どうして? 何故? そんな事を考えているのが、手に取る様に分かるよ」
「っ……」
私は奥歯を噛みしめつつバベッチを睨みつける。
するとバベッチは小さく笑った後何故か、どうして私の正体を知っているのかを教えてあげると言い出した。
「それはね……」
と言いかけた直後だった。
バベッチが背を向けている通路の奥から話し声が聞こえていたのだった。
「こっちは当たりだったらしいな」
そして通路の奥から現れたのは、王国軍の服装をした人物たちであった。
「サスト隊長、王都メルト学院の生徒を確認しました」
「では、これより彼の保護を第一目的とし、次に敵対行動をとる者の確保とする」
現れたのはサストを含めた3名であり、1人は一般王国兵であるがもう1人は訓練兵である印が胸についていた。
私はその印を見たことがあったので直ぐに訓練兵だと分かった。
それは以前お兄ちゃんに見せてもらった事があったからだ。
だが、そこにいたのは兄であるアベルではなくベルヴァティであった。
「サスト隊長」
「ベルヴァティ、お前はこの道から誰も通さない様にするんだ」
「了解!」
「では、行動開始!」
サストたちが動き始めバベッチへと迫って来るとバベッチは、大きなため息を漏らした。
「やっぱり動いていたか、王国軍」
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