リーベストはオービンの発言が信じられないと言う顔でじっと見つめているが、オービンは何一つ動じる事無くリーベストの方を見ていた。
「な、何の冗談だよオービン。お前が学院対抗戦に出ないって言うのはよ」
「冗談じゃないぞ、俺は今年の学院対抗戦には参加しない。色々と事情があってな、すまんなリーベスト」
するとリーベストは顔を歪め唸りだす。
一方で私は、オービンの発言を聞き軽く頷いていた。
そうだよねオービン先輩……病の件もあるし、今は普通に振る舞ってるけどいつまた再発するか分からないようだし、無理に学院対抗戦に出る事はしないよね。
でもオービン先輩なら、もしかしたら1日目の方には出るんじゃないかと思っていたけど、さすがにそれもなかったわね。
私は1人、勝手に納得していると唸っていたリーベストが何か吹っ切れれたのか、軽く「あーっ!」と声を上げた。
そして片手で頭をかきながら、オービンに話し掛けた。
「それなら仕方ないか。お前は強すぎるからな、それが仇になったわけだ。俺はそう思って、潔く諦めてやるがこの先も俺はお前を倒す為に勝負を挑むから覚悟はしとけ。……あっ、でもお前第1王子だったな。学院卒業後も会えるよな?」
「今は、卒業後は明確じゃないから何とも言えないけど、会うことぐらいはできると思うぞ」
「ようし! それじゃその時に、去年の続きと行こうかオービン! 言っとくが、俺はお前に勝つまでやるからな。しつこいぞ、俺は」
「お前のその俺に勝つ欲は変わらないな。まぁ、気が向いたらな」
「目標の1つなんだから当然だろ。で、今年の2日目はオービンが出ないなら、誰が出るんだよ。当然、うちは俺だ」
リーベストは片手の親指を自分に向けて、宣言する様にオービンへと話す。
だがオービンは軽くため息をつく。
「リーベスト、お前それは当日まで言うなと言われてるんじゃないのか? 特に二コルとかに」
「いいだよ。どうせ、どの学院もだいたい誰が出るかなんて分かっているだろ。で、お前の代わりは誰なんだよオービン。言っても減るもんじゃないだろ」
するとオービンは、このまま言わないとしつこく付きまとって来ると思ったのか、諦めて代表者の事を口にし出した。
「ライオン寮の寮長だよ。名前は言えないが、お前なら分かるだろ」
「げぇ、あいつかよ。あぁ~面倒な奴だな……まぁ、オービンには及ばないにしても強いからいいか。でも、あいつの技いてぇ~んだよな」
「ちょ、ちょっとオービン先輩!」
私は直ぐに口を挟む様に割りこんだ。
さすがに名前を言ってはないにしても、明日から始まる学院対抗戦の相手校に情報を言うのはまずいと思ったためだ。
「他の奴らには内緒なアリス君。特に、ミカには」
「そんな事言われても、それはさすがに……」
私がオービン先輩に内緒にする様に言われて、少しひるんでいるとリーベストがぐっと近付いて来た。
「何だ? オービンの彼女は真面目だな。それなら、あいつにうちの代表は俺だと言えばフェアだろ? なぁ、オービン?」
「いや、そう簡単に言いますけど」
「確かに、それなら対等だな。誰にも言わなければね。と、言う訳だからアリス君、これは内緒と言う事で」
「うぅ……わ、分かりましたよ……全く、そう言う悪知恵は兄弟ですね」
私はボソッと小さく最後に呟くが、オービンは笑っているだけだった。
するとそこに、変に驚くような声が聞こえてくる。
「えぇ……リーベストに、もしかしてオービン?」
私たち3人はその声がした方に顔を向けると、そこにいたのは赤い短髪で翡翠色の瞳が特徴的な男性であった。
更には、その人の左腕に彼女と思わしい女性が引っ付く様に立っていた。
その女性は男性よりも背は低く、オレンジ色の髪で耳より下で二つ結びしたツインテールヘアが特徴的な人だった。
「あれ? もしかして」
そうオービンが口にした直後、先にリーベストが声を掛けた。
「お~坊ちゃんじゃねぇか。久しぶりだし、こんな所で会うなんて奇遇だな~。にしても、お前彼女いるのに、別の女連れてるとはなかなか根性ある奴だったんだな坊ちゃん」
「リーベスト! 前から言っているけど、僕を坊ちゃん呼びするな! それに、この子は彼女の妹だ! 勝手に勘違いするな!」
「とか言っちゃって、本当は違うんだろ~知ってるぞ、そう言う手口なんだろ~早く言っちまえよ、坊ちゃん」
「だ・か・ら! 違うと言っているだろうが! シルビィも黙ってないで、早くあのリーベストに言い返してくれよ」
するとその男にシルビィと呼ばれた隣の彼女は、まんざらでもない顔でぴったりとその男の腕にくっついた。
「別に私は、ゼオンの彼女と勘違いされても構わないわ」
「おいシルビィ! こんな時までからかうのは止めてくれ!」
「うふふふ。ごめん、ごめんゼオン。つい、面白い事を言うから乗りたくなっちゃって。てへ」
と言って、シルビィは軽く下を出してゼオンに謝るとリーベストにも正しく自分が彼女ではなく、その妹であると説明した。
それを聞いたリーベストは「何だ、つまんねぇな。まぁ、分かってたけど」と少しすっとぼけながら呟いた。
その態度にゼオンはリーベストの名を怒りながら呼ぶが、オービンがそれをなだめた。
「ゼオン、それにシルビィ。久しぶりだね」
「お久しぶりです、オービン様。オービン様もお変わりない様でなによりです」
「僕はこんな所で会いたくはなかったよ、オービン。それにリーベスト。君にもね」
「連れないこと言うなよ、坊ちゃん。俺はお前の顔を学院対抗戦前に見れて嬉しいぞ」
「ニヤニヤした顔で、僕の事を見るな! リーベスト! 後、坊ちゃん呼びやめろ!」
とゼオンとリーベストが小さな小競り合いをしている中、私はまた知らない人たちに首を傾げていた。
オービン先輩の知り合いだよね……この人たちの服も学院生服だけど、シリウス魔法学院じゃないな。
特徴は、1冊の本を2枚の羽根が包み込む様にしているマークか……確かそのマークが特徴の学院は、バーグべル魔法学院だったっけ?
私はゼオンとシルビィの胸のマークを見ていると、オービンが紹介し始めてくれた。
「アリス君。紹介するよ、彼はゼオン・アンベルト。俺と同じ第3学年でバーグベル魔法学院の顔的な存在さ。そして、隣にいるのがシルビィ・スオール。第2学年生で、ゼオンの彼女リオナ・スオールの妹だ」
「初めまして、シルビィ・スオールです。シルビィとお呼びください」
「ゼオンだ」
「ご丁寧にありがとうございます。私はアリスです」
そうやって軽く挨拶をしたが、私はフォークロスの名前はあえて言わずに隠していた。
それは何だか、色んな人が周りに集まりだしていたのでただでさえ面倒な私の状態を、この人たちに自分の正体を明かす事でさらにややこしくすることを避けたためだ。
しかし既にリーベストには、オービンの彼女という事になっているのでバラされると思ったが、リーベストはオービンの友達と話すのだった。
直後、リーベストが私の方に軽くウインクして来たので、これはリーベストなりの配慮なの分かったが私は少し引きつった笑いでそれに答えるのだった。
「それで坊ちゃん、肝心の彼女はどこ行ったんだ? 誰かと逢引か?」
「冗談言うな! 違うよ、買い物だよ。荷物持ちにラウォルツを連れて行ったんだ。それでこれから会う予定なんだよ」
「ラウォルツに持っていかれていないといいな、坊ちゃん」
「あ~もう! これだからリーベストと関わるのは嫌なんだ。坊ちゃん呼びも止めてくれないし、永遠とからかうし。もう行くぞ、シルビィ」
そう言って、ゼオンは1人で歩き出しその場を立ち去って行く。
「あっ、待ってよゼオン。私はもう少しオービン様やお友達のアリスとお話したいんだけど」
「どうせ学院対抗戦最終日の慰労会で話せるだろ。僕は一刻も早くリーベストから離れたいんだ、行くぞ」
「分かったよ~もう! リーベストさん、貴方のせいで貴重な機会を逃したんですから、学院対抗戦中に何か奢ってくださいよ。後、ゼオンをからかい過ぎるのは止めて下さいよ。ケアするのは姉なんですから」
「あははは……すまん。今度からは加減するよ、シルビィ」
「お願いしますね! それでは、オービン様、アリスまた近いうちにお会いしましょう。それでは」
そう言ってシルビィは軽く一礼し、ゼオンの後を追って行くのだった。
「さ~てと、俺もそろそろ行くかな。デートの邪魔しちゃ悪いしな」
「リーベスト、今日の事はくれぐれも秘密にしてくれよ」
「わぁってるよ。それじゃな、オービン。それに彼女さん。また早くて明日にでも会おう」
リーベストは背を向けたまま軽く手を振りつつ、立ち去って行った。
私は突然嵐にでも遭遇した様な感じに陥り、彼が去った事で少しぐったりとし軽くため息をついた。
何か、怒涛の展開で疲れた……特にあのリーベストって言う人が凄かった……言葉の嵐だったな、あの人は。
するとそんな私を見たオービンが、心配する声を掛けて来た。
「悪かったね、俺の事に巻き込んで。少し色々とあって疲れたろ? 向こうに休める所があるから、そこで少し座って休もう」
「ありがとうございます」
私はオービンの言葉に甘えて、そこから少し歩いた所にあるベンチに座った。
その後オービンと座りながら軽く雑談をして時間を過ごした。
その中で、どうしてゼオンがリーベストに坊ちゃんと呼ばれいるのか教えてもらった。
それは、以前リーベストとゼオンが戦闘訓練で戦った際にゼオンが負けてしまい、悔しくて泣きだした事がありその様がお坊ちゃまに見えたリーベストが、それをいじり続けているだけらしい。
思いもしない理由に、私は少し笑ってしまったがオービンは私よりも笑顔で笑っていた。
「そうだ、近くに美味しいホットな飲み物を売る所があったな。買って来てあげるから、少しここで待ってて」
「だったら一緒に」
「いいから、いいから。座って待っててよ」
そう言ってオービンは私をベンチに座らせたまま、1人で飲み物を買いに行くのだった。
1人残された私は、深呼吸する様に息を吐き肩から力が抜け、リラックスした状態になる。
だが、さすがにマリアから聞かされた言い寄って来る相手がまだ見ているかもしてないので、完全に気を抜いたわけではないが少しだけリラックスしようと力を抜いたのだ。
そして空を軽く見上げ、少し赤く染まりつつある事を知った。
「もう、そんな時間か……」
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