私が出し物のコスプレのくじ引きでメイドを引き当てから、1週間が経過した。
学院内では、徐々に学院祭へ向けての準備が進み始めていた。
既に各クラスの出し物などは教員の方へと提出されており、1日の授業が終了するとだいたいどのクラスも準備に取りかかる。
私のクラスでは、内装組と調理組と別れて日々準備を進めており、現時点で調理組の方はほぼ準備万端の状態まで来ていた。
内装組は、衣装の最終調整をする為、1週間前に引き当てた衣服を各自寮内で着て調整する事を行っていた。
「はぁ~」
「ただいまって、またため息をついてるのクリス?」
「シン……そりゃため息もつきたくなるでしょ、この衣装だよ。はぁ~、マジで嫌だ……」
「あははは……まぁ、それはクリスがくじで引き当てちゃった物だしね」
「シンはいいよな~料理班で。俺も料理班が良かったな」
私は衣装をベットの上へ置いて、シンの事を羨ましいと思っているとシンは「そうでもないよ」と言って来た。
そのまま私はどう言う事か聞き返した。
「いや~思っていた以上にスパルタで、特にニックがさ……」
「え、あのニックが? 何かあんまり前向きな感じじゃなかったような気がするけど」
「う~ん、火がついた的な感じなか。ほら、ピースも一度言ってたでしょニックが料理好き的な事」
そう言われて、私は「あ~」と声を出して思い出した。
「たぶんそれが中途半端な技術にさせないと思って、スパルタになってるんじゃないかなって思う。でも、分かりやすく教えてくれるし日々レベルが上がってる感じだし大変なだけで、嫌ではないんだよね」
「いい~な~。代わって欲しいな~」
「僕に言われても、何も出来ないよ」
と、私はルームメイトのシンとそんな雑談をした後、何故かシンに説得される様に衣服の調整を始めた。
一応学院服の上から着る事になっているので、服を脱がなくて良い点には安心していた。
そして、渡されたメイド衣服をシンにも手伝ってもらいながら着て、鏡の前に立った。
「……何か、思っていた以上に衣服がリアル過ぎじゃない? 作ったていうより、本物のメイドさんから貰ったって感じ」
借りて来たメイド服は、白と黒の2色かつロングスカートであり、スカーフで襟元を締める物になっていた。
「おぉ~似合ってるじゃんクリス」
「……似合ってる? それ本気で言ってるのかシン?」
「えっ、あ~その~……うん、ごめん……」
私は鏡の前でメイド服を着た自分の姿に、再度ため息をついた。
何でメイド服なんて来てるのよ私……男装して学院にいて、そこで更にメイド服とか分けわからないでしょ。
あ~何で当たりたくないものをくじで引いちゃうかな、私は……運悪すぎでしょ。
私は少し肩を落としていると、そこに突然部屋の扉が開いて大きな声が聞こえて来た。
「お~っす! クリスどうだ? 衣服来たか? 俺の見てくれよ、このカッコいい執事服! ちょう似合ってね? それに、この片側眼鏡の付属品とか懐中時計とかちょ~良くない?」
「げっトウマ!?」
そこに現れたのは、執事衣装を来たトウマであった。
トウマは話したい事を話した後私の方を見て、口が開いたまま塞がらなくなる。
「トウマ、急に入って来るからビックリするじゃん。せめてノックぐらいしてよ」
「……」
「ん? トウマ~?」
シンがトウマに注意する様に話し掛けるが、話が聞こえていないのか微動だにしなかった。
直後トウマは、意識を取り戻した様に顔を軽く振ってから口を開いた。
「似合ってるじゃん、クリス」
そう言ってトウマは私に向けて、親指を立てるジェスチャーをして来た。
「……ねえ」
「ん? 何か言ったかクリス?」
「……似合ってねぇ」
「へぇ?」
そして私は近くにあったペン立ての筒だけを掴み、そのまま勢いよくトウマ目掛けて投げつけた。
「似合ってるわけねぇだろがトウマ! 俺は男だ!」
そのまま投げつけた筒は、見事トウマの額にクリーンヒットし、綺麗にカンッと言う音が部屋に響き渡った。
そしてトウマはその場で尻もちをつくように倒れるのだった。
それを見たシンは、倒れたトウマへと駆け寄った。
「たっくよ、何が似合ってよだ……この姿で似合ってても嬉しくねぇっての」
私は誰にも聞こえない様にぼそぼそと呟きながら、一応衣服のチェックだけして直ぐにメイド服を脱いだ。
そのまま私はアルジュに衣服の事を伝えに行くために、トウマとシンを残して部屋を後にした。
私は少し急ぎ足でアルジュの部屋へと向かっていた。
「全くシンもトウマの奴も似合ってるとか言ってくれて、何でそう言うかな。男子としてメイド服が似合ってるのって全然褒め言葉じゃないよね?」
そんな事を考えつつ歩いていると、廊下の角で誰かとぶつかってしまう。
「あっごめん! 考え事しちゃってて……え?」
「いや、俺も余所見してたから……ん?」
そこで私がぶつかった人物は、コスプレの衣装である国王風の衣服を来たルークであった。
「ルーク……だよね?」
「あぁ、そうだよ。何だよ、その不思議そうな顔は」
「いや、一瞬本当の王子に見えて」
「おい」
私は直ぐにごめんと謝り、冗談だと言う事を伝えた。
するとルークは軽くため息をついた。
「で、何でルークはその服着てこんな所を歩いているの? はっ、もしかして見せびらかせていたとか?」
「いやちげぇよ。アルジュの部屋に行く所なんだよ」
「アルジュの所? その服で?」
するとルークはこの服を着て出歩いている経緯を説明してくれた。
さっきまでトウマと部屋で衣服調整の確認をしており、ルークが先に着た後トウマのを手伝い鏡で確認をしていたらしい。
そしたらトウマが急にどこかにテンション高く出て行ってしまい、ルークは自分だけで衣服が脱げない所がある為暫く待っていたが、全く帰って来ないので仕方なく先にアルジュに衣服の事を伝えに行こうと歩いていたのだと教えられた。
「なるほどね……」
「何でお前が目を泳がすんだ?」
「いや~別に、大変な目に遭ってたんだな~って」
私はトウマが倒れて伸びきっている事を思い出して、少しだけ申し訳ない気持ちになっていた。
「で、お前はどっか行くのか?」
「いや、俺もアルジュの部屋に言って服の事を……はっ」
「へぇ~お前も服の事を言いに行くのか。って事は、あの服着たんだな~」
その瞬間、私は言うべき事でない事を、言ってはいけない人に話してしまったと後悔したが、時既に遅し。
ルークはその話を聞き、物凄いいじりがいのあるおもちゃを見つけたような顔をして私の方を見て来ていた。
私はルークの方を見ずに、直ぐにそっぽを向いた。
「それで、着た感想はどうだったんだよクリス?」
「べ、別にどうもないし! お前に言う必要ないだろ!」
「いいじゃんかよ。鏡の前でメイド服の自分を見たんだろ?」
「うるさい、うるさい! お前に言う事はない!」
そう言って私は、足早にアルジュの部屋へと歩き出す。
その後をルークが追いかけて来て、しつこくニヤニヤしながら問いかけ続けて来る。
私はその問いかけを無視し続けると、途中でルークも諦めたのかその質問をする事はなかった。
「まぁ、俺にはそう言ってもいいが、そんな調子で本番大丈夫なのか?」
「うっ……痛い所を……そ、そこは何とかやるよ。皆平等に決めた結果だし、俺だけ文句言ってやらないって訳にも行かないし」
「そうか。でも、本当に嫌だったら言えよ。俺からアルジュにも言ってやるかさ」
「っ……」
急に言われた一言に、私は黙ってしまい返すことが出来なかった。
な、何で急にそんな事言うかな。
調子狂うんだよね……
そんな事をした直後に、目的のアルジュの部屋の前へと辿り着く。
そしてルークがアルジュの部屋をノックすると、何故か慌てるアルジュの声が聞こえてくる。
ルークは何かやっているのだろうと思いつつ、服の事を伝えるだけなので扉を開け始めた。
私も特に止める事無く、その場で扉が開くのを待っていると、開けた扉の部屋での衝撃な光景に私もルークも絶句してしまう。
「あっ……」
「えっ……」
「ち、違うんだ! 勘違いしないでくれ2人共ー!」
そこには物凄く慌てふためく、王女風の衣服を身に纏ったアルジュの姿があったのだ。
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