「弘和。実はの、ここに来ただけでは勇者にはならんのじゃ」
雷に打たれたかのような衝撃が弘和を襲う。「そんなまさか」そう言うことしかできない。ここに来れば勇者になれるものとばかり思っていたのだから。
「じゃあどうすればいい?」
なにか、何かあるはずだと、弘和心の中でおもいながら必死に願ゲインに問いかける。
ゲインの話しによると。まず、ゲインが管理する世界、レジェンドラへと行けとのこと。そしてそこで、適性判断のようなモノを受け、勇者に相応しいかどうか視るらしい、のだが。
「まあ正直、今ここで視れんこともないがの」などと、言葉と雰囲気のギャップがありすぎてどうも調子が狂う。しかし、当然というか、当たり前というか「是非!今視てくれ」と即答してくるあたり、弘和の脳筋ぶりに拍車がかかってきているきがする。
神はハア、と溜息つきつつ「やめろ、カズ」と言って弘和を止める。「何故だ?」というような顔で神を睨みつけてくる。
弘和にしてみれば、納得できる物ではない。どうして目の前に張本人がいるのに視られない。などと、神に文句を言っている。
神からすれば、神であるゲインにこれ以上手を貸していただくわけにはいかない。レジェンドラへの案内役は自分がすると、名乗り出たのだ。
「カズ、お前も少しは自分で行動しろ。勇者になろうって人間が、そんな事でどうする」
確かに、これから勇者になろうというのに、未だ冒険のひとつもしていない。ならせめて勇者への道のりを自分の足で征くのも悪くはないと、弘和は頭の中で考えを整理する。そして、弘和の中で何かが決まったのか「よし」と声を上げて神によろしく頼む、と手を出してきた。
「なんだよ、その手は」
スッと差し出された手に戸惑うが、答えはかんたんだった。
「何言ってんだ、握手に決まっているだろう。これから仲間になるんだからな。当然だろ」
「あ、ああ」と、深読みしすぎた自分がバカらしくなったのか、なんとか平然を装い握手を交わす。
「それで、どうやってそのレジェンドラに行くんだ?」
異世界へ行くのだから普通なはずがない。思いもしないような方法があるに違いないと、弘和は期待で胸がいっぱいだった。のだが。
弘和の背後から「ガチャッ」と音が聞こえ振り返ると、先程自分たちが入ってきたドアが開いている。ドアの向こうには見たこともない光景が広がっていた。
「さあ、行くぞカズ。」そう弘和へ神が促してきた。
「そうじゃない、そうじゃないんだよ。タツ!」
血の涙を流しそうなほど弘和が猛抗議をしてくる。弘和にとっては、当たり前にはなるが人生初異世界なのだ。誰であれ、移動の手段ともなればそれは妄想が膨らむというものだろう。
ある時は瞬間移動、またある時は飛行生物に乗る。等々、それはもう興奮しないわけがないのだ。
だというのに、移動方法が、ドア?ドア!?ここは異世界だろう。だったらアイデンティティを大切にしろと、これではどこ○もドアではないか。
神に対して、というか異世界人に対して、容赦なく自分の異世界とはこうあるべき、といった持論を延々と話す弘和。この話だけで1時間は経過していた。ゲインも疲れたのか、「はよ、行かんか」と言って手をパンと叩くと、突然弘和と神の姿が消えた。
「やれやれ、全く騒がしい奴だわい。しかし、本当に視なくても良かったんじゃろうか。神も苦労が絶えんのう」
「ま、がんばるんじゃぞ」
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