俺を勇者にしてください

勇者になれると思って異世界に行ったら勘違いだった
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第二話 『信じられない』

公開日時: 2020年11月27日(金) 20:44
更新日時: 2020年11月28日(土) 18:26
文字数:2,370

「は、いや、え?」

 うまく言葉が出て来ず、その場に立ち尽くす。明らかに、しかもハッキリと適性無しと言われ。どう反応したものかと、弘和は頭の中で必死に考えていた。もしかしたら聞き間違いかもしれない。そう思います再度受付嬢に問い返した。しかし。


「ですから、弘和さんの勇者適性はほぼゼロ、です。こればっかりはどうにもなりません。」


残酷な現実が弘和を襲う、膝から崩れ落ちそうになるのをなんとか踏み止まり受付嬢に礼を言ってその場をあとにする。入り口にはじんが待っており、「どうだった?」と軽く聞いてきた。

そこで感情の糸がぷつりと切れ、弘和はその場に崩れ、大粒の涙を流した。


 これには神も驚きを隠せない。今までこの様な弘和の姿を見たことがない。いつでも自信に溢れ、自分の行動に何の疑問も持たずに生きてきた。そんな弘和しか知らないじんにとって、この姿は動揺してしまう。


「何があった?」


 慌てて弘和に問うものの、返事はない。どうすればいいのだろうか。神が頭を悩ませていたその時。


(やっぱりダメだったのう)


突如頭の中で聞き覚えのある声がする。ゲインであった。何故あの場にいたはずのゲインが神にコンタクトを取るのか。それよりも一つ気になる点が。


「ダメだったとはどう言うことですか?ゲイン様」

「視えておったからのう。」


 そう。すでにゲインには視えていた。弘和に勇者の適性がない事を。ならば何故、レジェンドラは行かせたのか。神には不思議に思えてならない。


「しかし、なら何故カズをこのレジェンドラへ行かせたのですか?」

「ふむ。それには、ちと訳があるんじゃ。詳しくはこっちにきてから説明するでの。ほれ。」


 ゲインが手をパンと鳴らすと、神と弘和はレジェンドラから、ゲインのいる場所までやって来た。


 ゲインを前にしても、弘和は泣き続けていた。20年以上費やした時間が木っ端微塵に吹き飛んだのだ。こうなるのも無理はない。


「すまんのう弘和。あの時わしが言えばよかった。期待をもたせてすまん」


「ゲイン様、かみが人間に頭を下げるなど・・・」


 そう言いかけたじんだったが、ゲインからの圧倒的な気迫によって、これ以上しゃべれなかった。


「元を正せばタツミチよ。お前があの場で止めておらねば、わしはこの事実を弘和に告げておったぞ。」

「しかし、敢えて行かせたのじゃ。異世界とはどういうものかを知ってもらうためにのう」

「それで、タツミチ。この責任をどう取る?」

 

 受付嬢のあの顔を見た時、難しいのだろうと思っていた。しかしそれが、適性無しと判断されるとはどうしても信じられなかった。

勇者への適性判断が生易しいものではない事は人も知っている。だからといって適性が無い、と判断されたのはどういう事だ?


 今まで勇者になった者は数えるほどしかいない。しかしその全てが、適性有りと認められている。あの、いさみも例外ではない。その適性を見出された者は勇者になっている。ゲインからの問いに、じんは答えることができない。どうすればいいか、今の弘和に、何と声をかければ良いか。全くわからなかった。


 見兼ねたゲインが「仕方ないのう、今回だけじゃぞ」と、立ち上がり、弘和の前へ歩く。


「弘和や、残念だったな。だがな、安心せい。じんは知らん事じゃが、良い事を教えてやろう」

「おぬしの前に来た巡陀勇めぐりだいさみを覚えておるな。実はな、あやつもまた弘和同様に勇者への適性はゼロじゃった」


 「信じられない」と、涙と鼻水でクシャクシャの顔を上げる。そう、信じられる訳がない。事実、いさみは勇者になっている。それは間違い無く、勇に適性があったことに他ならない。


「どういう事ですか?ゲイン様」と、じんでさえわからないといった表情でゲインに聞き返す。


「タツミチは勇より後にわしの元に来たからのう、知らんのも当然じゃ」

「今更になってしまうが、勇者になった者にはある共通点があるんじゃ。それはな」


「全員が元々の世界で事故、或いは死亡してこのレジェンドラに転生した者、ということじゃ」


 弘和は耳を疑った。聞き間違いであって欲しい。そう思わなければ平静をたもてないほどに、ゲインの発言はそれ程の衝撃だった。


 しかし、ならば何故、弘和はレジェンドラに来たのか?ということになる。弘和は事故に見舞われたわけでも、ましてや死亡すらしていない。その理由は簡単だった。


「弘和。ここに来た理由は最初に言った通り、おぬしの持っておる強運と、神棚担当のかみの文句があったからなんじゃ、ここまでは覚えておろう?」

「つまりおぬしは、生存したまま転生ではなく召喚

されてこの世界に来た。ということじゃ」

 転生ではなく、召喚。簡単な様に見えるが、この言葉の差は天と地ほども違う。転生はなんらかの理由で死んだ者が、生まれ変わりを果たす事。そして召喚は単純にその対象となる者を呼び出す事。その上転生者には加護が与えられる。それが、『勇者への適性』つまり弘和は本当に呼ばれただけなのだ。


「ちょっと待ってくれ、俺の他に手紙をもらった奴らがいただろ?そいつらは召喚でいいのか?」


弘和の問いにじんが答える。

「彼等はお前とは事情が違う。彼等は勇者になろうとはしていない、勇者のパーティーに入りたいと願っていたからな。勇者への適性は関係がない。だからもし、あの手紙に『YES』と答えたとしても、俺以外の天使によって、この場所にしょうかんされていたはずだ」


「なんだよそれ」


 異世界という未知の場所に呼ばれたのだ。当然自分の願いが叶うと思う、誰だって思う。それが、たかだか死んでいる、いないの違いだけでその望みが絶たれるなんて想像もしていない。じゃあ俺は一体何のためにここまで。、だがここで、不可解な点があることに気付く。ゲインは言った。「巡陀勇めぐりだいさみも適性ゼロ」と。


「じゃあ巡陀勇も召喚者だったのか?」

「その通り、とは言えん。勇は召喚途中に命を落としたのじゃ」

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