タツが俺のところに来たのはゲインの指示だったことがわかり、より一層わからなくなってきた弘和。ここでゲイン、「まあ、お茶でも飲んで落ち着いたらどうじゃ?」と弘和に促した。
「おやめくださいゲイン様。そんなこと俺がやりますから」
神が申し訳なさそうに、3人分のお茶を淹れる。「タツがお茶汲み?」と小馬鹿にしてくるので、うるさい、と神が怒る。
「しかし、えと、ゲイン様、でいいのかな?」
「好きなように呼んでくれて構わん」
「なら、ゲイン爺さんと呼ばせてもらうよ」
「おま、なんて失礼な事を」
「ホッホッホ、構わんよ」
神が珍しく焦っている。このゲイン爺はそんなに偉いのか?神がこんなに萎縮している姿を見るのは初めてだ。最初は神の上司、と言っていたが、そこら辺はどうなんだろう。少し気になる気持ちをグッと堪え、弘和は話しを戻す。
「そんなことより、どうしてゲイン爺さんは俺の所にタツを寄越したんだ、何か意味があるのか?」
これが知りたかった。未だにここへ来た理由がわからないまま、というのもおかしな話。そろそろ本題を聞きたいと思っていた。
「おお、そうじゃったな。実はな」
「おぬし、毎日自分が神棚に何を祈っておったか覚えておるか?」
ゲインのその言葉に、弘和は心の内で「当たり前だ」と思う。忘れるわけがない。あの日、あのニュースを見て弘和は勇者になると心に決めた。
それからは辛い日々もあった、いつ終わるとも知れないトレーニング、異世界?勇者?そんなの出来るわけがない、と言ってくる連中。全てはこの目標のため。
しかし、覚えているかとは、どういうことだ?弘和は少し理解できない表情を作る。が、改めてゲインに「覚えている」と答える。
「おぬしは神棚に向かって「異世界へ行って勇者になりたい」と、そう言っておったな」
「ああ」
「しかし、おぬしがいくら神棚に祈ったところで本来であればそんなことは叶わぬ。はずじゃった」
はず、とはどういうことだ?それよりも神棚ではなんの効果もなかったことがここに来て発覚。あの時に父親の言葉を信じての行動が、とんでもない間違いであった事に、動揺が隠しきれない。
「はずって、どういう事だよ。ゲイン爺さん」
「そう慌てるものではないぞ、落ち着くんじゃ」
「はず、と言ったのはあやまろう。つまり、お前さんの運が、たまたま良かったおかげで、こうしてわしの所に話しがきたわけじゃな」
「運がいい?」
「その証拠に、ほれ」
目の前の空間に突如としてさっきまでいたドアの向こうの空間が映し出された。この部屋に入る前は白一色だった場所から、だんだん幻想的な景色が映しだされていく。その光景に、弘和は驚愕する。
「俺たちはこんな細い道を渡ってたのか?!」
さっきまで神や弘和がいた場所は、大人1人が渡れそうなほどしかなく、一歩踏み間違えれば転落して二度と戻っては来れなかっただろう。
神が最初に「絶対に離れるな」と言った意味がようやくわかり、冷や汗が滲む。
「ここまで来れた事自体が、運がいい事の証なんじゃ」
運が良い。この言葉に弘和は心底安堵していた。運とは天性のもの、こればかりはどうすることもできない。その運が味方してくれたおかげで、弘和は今こうしてここにいる。が、まだわからないことがある。それは・・・。
「どうしてそれで俺をここに?」
たしかに、自分がいくら運が良くても。神棚担当の神様に文句を言われたから召喚んだ、では説明がつかない。それを裏付ける確かな根拠があるはずだと、ゲインの言葉を待つ。
「それは簡単じゃよ、弘和。おぬしだけなんじゃよ」
頭に?マークが浮きそうなほど不思議な顔で「おれだけ?」と呟く。実に間抜けな表情で、神が振り返り笑いを堪えている。
「実はの、おぬし以外にもおったんじゃよ。あの手紙を受け取っておった人間がのう」
あの勇のニュースを見て、自分も勇者に、とまではいかないが、パーティーメンバーの一人になれるかもしれない。そう思った人間は確かに弘和の他にもいたのだ。
だが、残酷な事に弘和以外の全てが様々な理由挫折していった。親の猛反対、友人たちからの心ない言葉、いつまで経ってもなんの変化もない日々に、少しづつ希望をなくしていった。
絶望し疲れ果てたそんな時にあと手紙が届く。しかし、今更どうだというのか。そう思い、弘和以外の全員が「NO」と答えていた。
「だから、おぬしだけなんじゃ。あの手紙に、「YES」と答えたのは」
「まあ。即答したのもおぬしだけなんじゃがな」
ゲインはすこし呆れている。
「それで、ここに召喚ばれたのか」
弘和はあっけらかんと納得。そこで改めて神への。説明をしなかった事への怒りがふつふつと込み上げる。
「やっぱいるじゃん!説明」
弘和は納得はしたがそれでもあと一つ不思議な点があった。それは、「俺はここに来て勇者になれるのか?」という事。
確かに、弘和はこうして、召喚されている。だが、来たからといって本当に勇者になれるものなのか?弘和にはそれがどうしても気になる。
第一の目標である異世界へ行く。は、ここに来て時点で叶っていると見るべき。あとは、最大の目標ともいえる、勇者になること。これを聞かずしてどうする。
「どうなんだ?ゲイン爺さん!」
若干興奮気味にゲインは詰め寄りとう。その答えは予想を裏切る者だった。
「実はの、弘和・・・」
「まさか!」
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