異世界レジェンドラ。大都市ホーリーの街の往来
ゲインにパンと手を叩かれ、いきなり異世界レジェンドラに瞬間移動してきた弘和たち。だからといって先ほどまで続いていた喧嘩は終わっていなかった。というよりも、弘和が瞬間移動で跳ばされた事に未だ気付いていないからだ
神は弘和との付き合いは中学からということもあり、こういった喧嘩の収め方も心得ている。といっても難しいことはなく、ただ一言「異世界にきたぞ」と言えばいいだけなのである。
そう言われて、弘和は我に帰る。あたりを見回すと、そこは地球では見たこともない光景が広がっていた。一気に弘和の意識はこの風景に釘付けになっていた。
「な、なんだ。ここはどこだ?こんな場所、見たことないぞ!」
どこか西洋を思わせる街並みが広がり、そこにはさまざまな種族が弘和の目の前を行き来している。ここで神が困惑する弘和に解説を入れる。
「ここが、ゲイン様が守護する異世界レジェンドラ。そして、今俺たちがいるのが、レジェンドラ三大都市の一つ、ホーリーだ」
「ここには多種多様な種族が住んでいる。人間はもちろん。亜人と呼ばれるエルフやドワーフ。動物種の猫族、そして犬族なんかもいるな。
あのデカイのは巨人族だな。あげ出したらキリがないからここまでだな」
弘和は初めて見る人間以外の種族に会えた事を心から感動していた。しかし、その他に神に聞いておきたいことが一つあったのを思い出す。
「というか、タツ。瞬間移動出来るんじゃねえか!なんで使わない」
「俺たちには難しくてできないんだよ。ゲイン様だからできたんだよ。神舐めんな!」
「そうなのか」
少し気落ちする弘和。その横で神がが当然のように怒っている。
もともと天使は神様の使いという役割な為、基本的な魔法しか使用できない。だから、瞬間移動や飛行生物を使役、などの高難度のことができないようになっている。だから、ああいったドアなどの道具を使用しているのだ。ただし、神様からのからの承認があれば、天使であっても同等の力を行使することはできるらしい。これはあくまでも緊急事態が起きた時の措置であり、滅多に起こることはない。
「わかったか、カズ」
「・・・わかった」
「本当か?」
「わかった!」
神がこうも弘和に聞き返すには訳がある。それは、弘和は知り合った頃から長くなる説明を理解したことがない。もともと鍛え方が極端で、身体を鍛えても頭を鍛えることを疎かにしていたためか、学校の授業なども長すぎる解説などは殆ど頭に入ってはいなかった。
そのため、神は弘和に説明する際には、、念入りに確認することを怠らない。それに、今は状況が普段とはまるで違う。少しの理解の無さが命の危機に繋がらないとも限らない。
「なあタツ。いい加減このやり取り、辞めにしないか?」
「何言ってんだ!こうでもしないとお前忘れるだろ!」
正直、このやり取りは恒例となっており弘和も、もうんざりしていた。だが、このお陰で助かったことがあるのも事実。うんざりしているとはいえ、やめるわけにはいかない。
「それで、どこまで話したか。で、だ。この街がホーリー、そして残る二つが『ライジン』と『アンダー』だな。」
ライジンは工業都市で、レジェンドラの主な工業製品はこのライジンで作られる。そして、最後のアンダーは、神から見ても、あまり治安の良い都市ではないらしい。アンダーはホーリー、ライジンよりも前にでき、当初は栄えていたが、年数を重ねていくうちにだんだんと荒んでいった。そして何故かここアンダーでは、ゲインでさえ知らない闇があるとされており、今となっては陽のホーリー、陰のアンダーとも呼ばれている。そのため、アンダーへは極力行かないように弘和は強く念を押された。
「ここまではわかったな、わ・か・っ・た?」と、再度弘和に念を押す。「わかったよ!」と、うんざり気味の弘和。
「さて、まずはこのホーリーのギルドへ行くぞ。ゲイン様も言っていたが、そこで勇者になる為の適性判断を受けてこい」
「そんな簡単なのか?なにかこう、もっとあるだろ?」
「いや、無いな。これが1番手っ取り早い」
あまりにもそっけない。そんな簡単に勇者になれるなんて思ってもいなかった。レジェンドラに来るのでさえ20年以上待ったのに。こうもあっさりとなると、少し残念な気持ちになってしまう。弘和はせっかくの異世界の街並みを堪能することなくトボトボと歩き出した。
ホーリーギルド本部、受け付け。
「猫族が受付嬢をしているんだ。流石異世界。やっぱり、猫だから語尾にニャ、とか付けるのか?」
バカ丸出しで質問する弘和に、神はため息をつく。
「つけねえよ!それと、あまりキョロキョロ見るな。初めて感丸出しでちょっとしたおのぼりさんだな」
「誰がおのぼりさんだ!初心者なだけだ」
そんな弘和を無視して、神は受付嬢に話しかける、「神さん、お久しぶりです」と、軽く挨拶を交わしていた。そして慣れた口調で「適正判断をお願いしたい」と、淡々と話を進めていく。
「適正判断をするのはどちらにいますか?」
「コイツなんだ。勇者への適正判断を希望している」
そう言われて、受付嬢の顔が少しこわばる。「本当ですか?」と、神に確認してきた。「ああ」と答えた神に「わかりました、こちらへ」と言って扉の奥へと案内をする。
「カズ。ここからは、一人で言ってくれ」
案内された先は、広めの部屋、そして中心には丸い水晶が台座に置かれていた。とても、不思議な感覚が弘和を襲う。ついに勇者になれる、そう思うと心臓の高鳴りが抑えられない。、
「その水晶に両手をかざしてください」
受付嬢の言う通りに水晶に手をかざす。が、何も起こらない。もう一度手を水晶にかざしてみる。しかし、水晶にはなんの変化もない。弘和の中で
焦りの色が濃くなる。汗が止まらなくなり、呼吸も荒くなる。「どうして、何で、何が」この言葉弘和の心を埋め尽くす。
そして、受付嬢なら信じられない言葉が弘和へと告げられた。
「ああ、弘和さん?あなた、勇者の適性無いですね、お疲れ様でした」
その日弘和は絶望感に打ちのめされた。
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