俺を勇者にしてください

勇者になれると思って異世界に行ったら勘違いだった
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第三話 『一筋の光』

公開日時: 2020年11月28日(土) 20:10
更新日時: 2021年1月23日(土) 12:59
文字数:2,056

巡陀勇めぐりだいさみは、召喚途中に命を落としたんじゃ」


 ゲインの言葉を聞いて弘和の頭の中に?が浮かぶ。召喚途中に死亡?いったいどの様になればそんなことになるのか。不思議でならない。


「ゲイン様。召喚途中、というのが気になるのですが。そんなこと可能なのですか?」


じんもわからないと思っている様で、ゲインに質問をする。弘和もこれに頷く。


「可能か不可能かだけでいえば、可能なんじゃ。しかしこれには、召喚者と共に来る天使の影響が大部分を占める」

 天使の影響の意味とは何か。ゲインはこう付け加える。つまり、天使が意図的に召喚者を死に至らしめたということ。それが原因で、勇はゲインの計らいにより、召喚者から転生者へとなったらしい。


「この事実を知っておるのは、わしと、当事者である勇、そして、タツミチの前任者、コジロウの3名しか知らん」


「そんな、虎次郎先輩がそんな事を」

「やつを信じたい気持ちはわからんでもない。が、これが事実なんじゃ。コジロウが勇を死に至らしめてしまった結果、わしが勇を転生させたんじゃ。それが証拠に現世に戻った勇はあの当時と変わっておらんかったじゃろ?」


 確かに。俺が見たニュースでは、巡陀勇は行方不明となった当時の15歳のままだったとアナウンサーが言っていたのは覚えている。まさかそれが、死んでいたからというのは驚きではあるけど。


「なら、俺も死ねば転生させてもらえるのか?」

「サラッと怖い事を聞くのう。残念じゃがお主はすでに召喚者としてレジェンドラへ行っておる。じゃから死んだとしても転生はできんのじゃ」

「でも、ゲイン爺さんは神様なんだろ?何でもできるんじゃないのか?」

「すまんのう。わしが司るのは全知でな、ある程度はできるが全能ではないんじゃ」


 その言葉を聞いて、「こんな事なら、あの手紙に『YES』なんて答えなきゃよかった」と言って、弘和は膝から崩れた。微かに見えた光が完全に閉ざされてしまった。そんな絶望感が弘和を襲う。しかし、ここでゲインからの一言が弘和にとっての一筋の光明となる。


「そんなに卑屈になる事はないぞ弘和や。わしは全能ではないが、全知ではある。とっておきの裏技がある、と言ったら、お主はどうする?」

 

 そのゲインの言葉を聞いて、また失敗したら、徒労に終わったら、騙されたら、という様な負の感情が弘和の頭の中を駆け巡った。しかし、それ等の考えを一瞬で振り払う。

 今更失敗、徒労、なんてどうでもいい。俺が待った20年以上の時間を考えればそんなのは一瞬。それに、ゲインは俺を異世界にんでくれた。そんなゲインに感謝こそすれ、疑う様な事は絶対にしない。だから俺は自信を持って答えられる。


「その裏技、どういうものか教えてくれ。ゲイン爺さん」

「うむ、流石さすが弘和。その意気じゃ」

「では、心して聞け。実はわしには弟がおっての、名をガインという。わしが全知なのに対して、ガインは全能を司っておる。ガインならば、弘和に勇者への適性を付与する事も容易いはずじゃ」

「やったな!カズ。これでお前も勇者になれるぞ」

「あ、ああ」

 じんが弘和の肩を叩いて喜んでいる。しかし、弘和にはどうしてもゲインに聞いておきたいことがある。

「ゲイン爺さん、アンタの弟ってのはどこにいるんだ?」

「鋭いの、弘和。ガインはアンダーにおる。それ相応の覚悟がいるぞ?大丈夫か?」

「アンダーだって、ゲイン様、それは弘和にとってはあまりに無謀ではありませんか。」

 天使としてアンダーを知っているじんは、弘和がアンダーへ行く事を危険視していた。しかしゲインは「こんな事で怖気付いておっては、勇者なぞ夢のまた夢じゃそ」と言う。それを聞いていた弘和も。


「そうだぞ、タツ。危険は十分覚悟している。それに、このくらいのこと乗り越えられずに、なにが勇者だ」と続く。

「わかった。こうなったのには、俺にも責任はある。だからせめて、俺も一緒に行かせてくれ!それが俺の責任の取り方だ。」


 じんはゲインに許可を求め、これを受理する。いざ、アンダーへ向け出発しようとする2人に向かって、ゲインが呼びかけ、そして頭を下げる。

「ゲイン様、一体どうしたのですか」

 じんが驚いてやめさせようとするが、ゲインはお構いなしに話しだした。


「2人ともスマン。わしは1つお主達に嘘を言っておった。実は、勇を転生させたのはガインなんじゃ。じゃから、ガインに聞けばなにかわかるかもしれんぞ。そして最後に、ガインは極度の人見知りでの、わし以外とはまともに会話もままならん。そして、この手紙をタツミチに預けておく。ある程度の事は書いてあるから、これを渡せば分かるはずじゃ」

「ありがとうございます」

「良いか弘和よ。アンダーは全知であるはずのわしですら、その底が計り知れん場所じゃ。なにが起こるかわからんぞ。心せよ」

「わかった」

「それではゲイン様行って参ります」

「うむ。困った時はわしの名を頭の中で思い浮かべてみよ。ある程度は会話が可能なはずじゃ」

 わかりました。と言って2人はアンダーへ向け出発した。果たしてこれから2人に何が待ち受けているのか?

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