「どこから話したものか、迷うのう。じいさん、じいさんと言われるのも癪だしのう。先ずは自己紹介といこうかのう、わしは、ゲイン。このタツミチの上司、みたいなもんじゃ。」
「はあ、それはどうも」と言い、「俺は、」と自分の名前を言おうとした時、「知っておる」と言われ、驚いた。
「知って、え?」どういうことだ。弘和はこのじいさん、ではなく、ゲインに会うのは勿論、会話をしたことすらない。だというのに、ゲインは弘和のことを知っているというのである。「いったい、いつから?」と、バカ正直に聞いてしまう。「ホッホ、なら、そこから話そうかのう」と、ゲインは言いながらお茶を飲み、語り出しす。
「おぬし、弘和や。お前さんは覚えておるはずじゃが、あの20年以上前の、ほれなんと言ったかのう。あの少年を」
「巡陀勇ですよ、ゲイン様」と、神が答えた。
「おう、そうじゃそうじゃ。その勇をこの世界に召喚んだのは、何を隠そうわしなのじゃ」
そんな驚きの事実をあっさりと言われ、それこそ反応に困る弘和は「はっ?」と、素っ頓狂な声を出してしまう。それもそうだ、あのニュースで流れていたことが実は本当で、しかも、それを行った人物が目の前で茶を飲んでいるのだから。
そっちの方が信じられない。だが、ここで一つの疑問が弘和の頭の中に浮かぶ。それが事実だとして、それでどうして俺のことを知っている事に繋がるのか、と。
とはいえ、「けど、それと俺になんの関係が?」という具合に、目の前に張本人がいるのだから、正直に聞いてみる事にする。
「バカ正直なやつじゃの」ゲインも少し呆れている。その横で神もうんうん頷いている。
「それはのう弘和。おぬし、わしが勇を元の世界に戻したあたりから、神棚に向かって何か祈っておらなんだか?」
ゲインの言葉を聞いて、弘和は衝撃を受けた。たしかに、弘和はあの日以降神棚への祈りは欠かしていない。それも毎日。ここで、更なる疑問が。それは何故知っているかと言う事。弘和はここでも正直にゲインに尋ねた。すると。
「それは、お前さんが毎日毎日神棚に祈るもんだから、神棚担当の神に「祈るならせめて教会に行け」と怒られたんじゃ、わしに言われてものう」
なんと、この目の前で茶を飲んでいるじいさんが、実は神様だというのだ、しかも、よくよく聞くと、神様といっても1人ではなく数百人規模でいるらしく、全てに担当場所が決まっているのだという。そして、ゲインは異世界『レジェンドラ』を任されているのだとか。
ここまでの説明を聞いてみても、いまいち理解できない弘和。神に「脳筋バカなんです」と言われた。
「失礼な事を言うヤツだな。てことは、お前も人間じゃないのか?」
神と友人関係になったのは中学生の頃からだ。どちらかといえば、俺が勇者を目指した頃からだ。つまり、神も神様なのか?そんな疑問が浮かび神に問いかける。すると、神ではなくゲインが、「こやつは神ではない、わしの下で働いておる、いわば天使のようなものじゃ」と答えた。
神が天使!人間でなかったことも驚きだが、しかし、弘和の話しを信じて応援してくれたのは神だけだっだ。それならば、神が天使だったのもうなずける。そして、脳筋なだけに、疑問が後から出てくる。
「タツ、お前はどうして俺のところに来たんだ、それもゲインに言われて来たのか?」
結局神も俺のことではなく、神様のゲインの命令で来ただけなのか、神との信頼関係が音を立てて崩れる気がしていたが、「カズ、俺も最初の理由は命令だった。だけど、お前と話しているうちにそんな気も失せたよ。だから、今は自分の意思でここにいる、ゲイン様には許可を貰ってな」と言われ、少し、涙ぐむ。「泣いてるのか、カズ?」そう問われ、「違う!」と否定するが笑われる。
するとゲインが、「つまりそこなんじゃよ。お前さんをここに来てもらったのは」と、笑いを堪えながら弘和にはなす。そことはいったいどういうことなのか。息を呑み、ゲインの話しに耳を傾ける弘和であった。
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