中央ではイリアさん達が障壁魔法を張ってなんとか|地獄犬《ヘルハウンド》の業火を耐えていた。イリアさんにはまだ余力がありそうだが、すでに魔力を使い切って動けなくなっている衛兵達もたくさんいた。
「先輩サポートを!!」
「あいよ!」
先輩が走りながら詠唱をして私に防御魔法をかける。
「|炎護《フレアプロテクション》」
炎熱耐性を上げてもらい、そのまま助走をつけて後ろから一気に攻める。奴の炎を喰らっても一撃で死ぬ事はないだろう。
「おりゃぁぁぁぁあーーーー!!」
『ガウ?』
私の存在に気付いた|地獄犬《ヘルハウンド》は私に向けて火の息を放つ。
「あっついいぃぃぃぃー」
全身に炎を浴び、じりじりと体が焼かれていく。先輩の魔法がなかったらこの一撃で燃え尽きていた事だろう。防護魔法がかかっている今でも軽度の火傷を負ったのだから。
炎を浴びながら進み雷剣を振るうが、すんでのところで飛び退かれてしまった。地獄犬は爪での追撃をせず、その場を離れた。
「くそ、すばしっこい」
「あの、あなた方は……」
衛兵の一人がおずおずと質問をしてくる。彼には私に対する畏怖の念があるらしい。私がどう答えよかと迷っていたらイリアさんがひと睨みし、衛兵は黙りこくってしまった。まぁ追及されるよりはましかな。
イリアさんが一息つき、こちらまでやってくる。
「そっちは大丈夫になったの?」
「ええ、まぁ」
「召喚士は見つかった?」
「あ、それはね。ちょっとまずい事になってて」
衛兵さん達に聞こえない程度の内緒話をする。
「悪意がたくさんあった?! それは本当なの?」
「うん、間違いない!」
「それは困ったわね」
私たちがこうしている悩んでいる間にも炎の壁はじりじりと迫ってきている。その事実にようやく衛兵さん達も気付き始めた。
「おい、なんか壁が狭くなってきてないか?」
「何を馬鹿なことを……え、まじかよ」
建物内にいる市民が気付き騒ぎ始めるのも時間の問題だろう。その前に何か手を打たなければ。
「少しいいかな?」
悩む私たちの元へ一人の男性が歩み寄ってきた。私の天敵になりつつある人物……侯爵様だった。
「侯爵さ……んん。何かようですか?」
あっぶな!
「君達……何か良い打開策はないのか? ボクはともかく市民達だけは助けてあげたい」
「え、めちゃくちゃ良い人じゃん。僕はてっきり我が身可愛さに生き残りたいだけかと……もがもがもが」
これ以上、この馬鹿に喋らせおくと危険なので口を塞ぐ。口を抑えられながら先輩が目線を上げて「なんで! 離してよ」と言ってきたので「|アルマ《ばか》は黙ってろ」と私も微笑みの視線で黙らせた。
そんな様子に困惑する侯爵様にイリアさんが話しかける。
「そう貴方は良い貴族なのね」
「貴族は皆こんなもんだと思うが?」
不思議そうに首を傾げる侯爵様にあと純情ねとイリアさんが付け足す。
「手ならあるわ。あとは人手が集められればの話」
「我々はどうすればいいのですか?」
立って歩ける衛兵達が私たちの元へと集まる。みんな覚悟を決めた顔をしていた。
「この炎は|地獄犬《ヘルハウンド》を倒してもすぐに消えることはないのだけれど弱くはなるのよ。その時あたしが魔法で道を作るわ」
あなた達はその時、怪我で動けなくなっている人や恐怖で足がすくんでいる人を背負ってここから出るの。それがあなた達の役目よ。イリアさんがそう言い終えると彼等も渋々ながら納得してくれた。
(自分たちでは足手纏いだってちゃんと理解してるんだな)
「ボクはどうすれば?」
「貴方はあたしと来なさい。それなりに魔法の才能はあるようだからあっちであたしの手伝いよ」
「分かった手伝おう。して肝心の|地獄犬《ヘルハウンド》は誰が……」
そこまで言って、全ての視線が私とアルマ先輩に集まる。はい、そうです。私たちがやるみたいですね。
まじですかーイリア先輩。私たちに信用寄せすぎじゃないですか。
「|地獄犬《ヘルハウンド》はこの二人が倒してくれるわ」
そして呆けた私の隙をついたアルマが拘束から抜け出す。
「もちろん、僕たちに任せてよ」
「だそうよ」
イリアさんがテキパキと指示を出してみんなが動き出す。
いや、待ってくれよ戦うの私なんだけど。
その時どこからか遠吠えが聞こえてきた。そして、次には無数の足音が聞こえてきた。
「え、悪意が一斉に動いた?」
真っ先に反応したのは先輩だった。次に、私、イリアさん、侯爵様。
「うそ……あれは」
「なるほどね」
「そんな……」
|地獄犬《ヘルハウンド》が一体だけではなく、七、八体、群れをなして向かって来ていた。
「……|地獄犬《ヘルハウンド》がたくさん」
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