ベッドの中で私たちはまぐわっていた。
まぐわっているといってもそういう行為をしてるわけではない。
ただ単純に互いに身体を寄せあっているだけである。
まあ、ほとんど一方的に近いが。
「んふー」
アルマは私に擦り擦りと頬を寄せてくる。まったくもって甘えん坊さんだ。
「くっついて良いって言ったのは私だけど、あんまりくっつき過ぎないで」
そういう私も、本気で剥がしにかかろうとは思っていない。せいぜい彼女の口づけを拒むくらいである。
「なんでー? 嫌なの?」
「いや、嫌ではないけどさ」
アルマは迫ってくるが、さすがにキスは早いと思う。うん、まだね。カノン様に浮気したと思われたくないし……でもちょっとだけならバレないかもとか思っちゃう。
カノン様は生きている。
そしてどこからか私の事を見ているかもしれない。そう思うとあんまり踏み込んだ事は出来なかった。
スキンシップは歓迎するし、それよりちょっと踏み込んだ事をしたくないわけじゃない。でも……まだ心の整理がつかないだけ。
それに私は尻軽女じゃないしね。
いつなんどきでも、私の中で一番に思い浮かぶのはカノン様やシズルだ。
でも、最近そこにアルマが追加された……気がする。
大切な人の中に、アルマが加わった。
あの日から私は、少し前向きになれたのかもしれない。
それと大事な事だからもう一度言う。
私は軽い女の子じゃないよ!! たぶん。
そんなこんなで、ベッドの中でアルマと昔話に花を咲かせていた。
重苦しいものもあれば、楽しい話もいっぱいした。
「でねー……それでその子がー」
「あははっ! なにそれへんなの!」
実に楽しい時間だった。
でも楽しい時間も今日が最後……とまではいかないけど、明日からは暫く忙しくなる予定だ。
トルメダ・レイスフォードを暗殺するための準備をしないといけないから。
「はむっ!!」
「ふひゃぁ!! ちょっ、なにするの!」
「エトが僕の事見てなかったから」
私がちょっと考え事していただけで、耳たぶを噛んでくるとか……めんどくさい彼女かよ。
いやこの場合、かまってちゃんか?
「もう……寝るよ」
「まだお喋りしたいー!!」
「だめ、明日も早いんだから。アルマ寝起き悪いじゃん」
「そんな事ないよー。あ、エトがちゅうしてくれたら起きる」
「あー、これは寝ぼけてるねー。さっさと寝ようか」
ボフッ! とアルマに自分の枕を押しつける。
「ふがっ! あ、いい匂い」
クンクンと私の枕を嗅ぎ始めた。
素直に気持ち悪いからやめてほしい。いや気持ち悪いは言い過ぎか。生理的に無理です。
「そんなにかがないで――べふぉ!」
今度はアルマが私に枕を押しつけてきた。そしてついつい匂いを嗅いでしまう。
アルマの甘ったるいようでいて、そうでないような独特な良い香りがした。
(アルマの匂いだ)
「今日は枕を交換して寝よう!」
「いやですよ! 自分の枕じゃないと――私の枕を返せ!」
「今何言おうとしたの? まさか寝れないとか子供みたいな事を言うんじゃないよね?」
私の顔が一気に熱に浮かされた気がした。
「そんなことない!! いいから返せ!」
「やーだよー」
結局返して貰えなかった。
その後、なんやかんやで戯れつつ、疲れて私の方が先に眠ってしまった。
「エト、おやすみ。良い夢を」
アルマがそう言って、私の額にそっと口づけをしてきた気がするがそれはおそらく夢だろう。
月光が部屋に射し込む。雲一つない夜空は、昼間の空よりも綺麗に思えた。
どのくらい時がたったのかは分からないが、ふと意識が戻った。
(これは……夢?)
少し目を見開くと、部屋の窓が開かれていた。そこから冷たい風が入ってきて、寒がりな私を襲う。
(さむっ! 先輩はどこに)
横で寝ている筈のアルマはいなかった。代わりにまだ暖かい枕が置かれていた。
(そんなに時間は経ってない)
私は上着を着て、忍び足で窓際に近づく。
開いた窓に近づくと、一階の屋根の上に栗色の髪をした少女がちょっこんと膝を折り畳んで座っていた。
「アルマ、ここにいたんだ」
「あ、ごめん起こしちゃたかな」
窓を乗り越え、屋根の上に立つ。
アルマが場所をあけてくれたので、私はよっこいせとその隣に座る。
暫く無言の時間が続いた。
二人で夜空を眺める。
「綺麗だよね、夜空って」
アルマは私と全く同じ感想を抱いていたようだ。
「そうだね、アルマの髪みたいに」
「なにそれ、僕の事口説いてるの?」
「寝ぼけてるだけです」
「そっか寝ぼけてるだけか」
二人して顔を見合わせて笑った。
今ならなんでも寝ぼけているで済ませそうだった。
もしくはこれは夢なのかもしれない。
夢なら何をしても許されるのかな?
「ねえねえ」
そっとアルマが肩を寄せてくる。
「なんですか?」
「キスしたい」
思ったより素直に、それでいて直球にきた事に驚き、言葉を失う。
「…………」
「いや?」
「……嫌じゃないよ」
「じゃあいいよね」
そういって私の対面に座ると、顔を近づけて来た。
(いけない、いけないんだけど……今はなんだか、振り払う気になれないな)
そのまま私は目を閉じた。目を閉じる前、アルマが少々驚いていた気がする。
きっと拒まれると思っていたんだろう。
アルマは止まることなく、そのまま自分の唇を私の唇に重ねた。
「んっ……」
月明かりが照らす夜空の下で、私と彼女は初めてキスをした。
ついばむような短いキスだった。
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