普通のメイドだったけど王女を失って暗殺者になりました

〜世界最強の暗殺者になって、私から全てを奪った者達に復讐しようと思います〜
水篠ナズナ
水篠ナズナ

依頼内容

公開日時: 2020年10月17日(土) 23:12
文字数:2,305

 私はゴクリと唾を飲み込み。ジークの言葉を待つ。


「今回、お前達に行ってもらう任務は、ベルセイン商会の長。ロッゾ・ベルセインの暗殺だ。依頼主はベルセイン商会の競争相手、アベルタ商会の会長様からだ」


 ベルセイン商会、アベルタ商会はどちらも帝都で今、一番力を持っている商会だ。


 ベルセイン商会は、珍しい食品類や庶民の生活必需品などを。アベルタ商会は、戦争などで使う武器などを多く取り扱っている。


「二つの商会の争いに、私達が、アベルタ側に加担するという事ですか?」


 私の質問に、思ってもいない所から声がかかった。


「エト。余計な詮索はしない、余計な事は喋らない。いいね?」


 普段とは全く別人のような……ちょっと怖い先輩だ。


「すみません。先輩……」


 先輩の冷えきるような声に、私はそれ以上、何も言うことは出来なかった。


 ジークもそれに同調する。


「アルマの言う通り、命令にだけ従えばいい。それを正しいとか、正しくないとか考えてはダメだ」


「はい……」


 すると、ジークが私の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。


 ちょっ、下手くそ、頭がくらくらする! お前絶対、子供いないだろ。


「ギルマス?? ……何するんですか」


「そんな暗い顔するなって事だ。怒ってる訳じゃない。それに今回は、何故この依頼を受けたかも説明してやる」


 ジークの言葉に、私は安堵した。 

 どうやら私は、まだ、何も知らされずに人を殺す事は出来ないらしい……いや、その覚悟が足りてないのだろう。


 先輩は心底どうでもいいと思っているのか、ジークの説明を聞く気は全くないらしい。私も早くそうなりたいな。


「ベルセイン商会は長年、民衆の為に活動してきた。だが昨年から商会長が変わり、商品の値段が格段に上げられてしまった……」


 帝都に流通している商品の殆どはベルセイン商会の物だ。それを値上げするとなると、民にとって苦しい事になるだろう。


「確かに、町で買い物した時、洗剤とかは高かったですね。でも食料品は、そんなに高くなかった気がしますが?」



「それはな、このままでは民が暮らしていけなくなると、アベルタ商会が抗議した為、仕方なく定価に戻したらしい。それに、これが依頼を出した一番の理由らしいんだが……ベルセイン商会は違法奴隷の販売・密輸に手を出しているらしい」


 ジークの話によると、ベルセイン商会のあまりの落ちぶれぶりを知った、アベルタ商会の会長がジークに依頼をしたという。


 随分と偽善者っぽい事をするな。いや、それとも本心から民の事を思ってるのかもしれない……放っておいても破滅するというのに。


 でも……良かった。私達が一方的に悪者じゃなくて。いや、暗殺者の時点で既に悪者なのかも……。


 話を聞き終えた、先輩は当然だとばかりに、胸を張っている。


 ……いや、何をそんなに自慢げにしてるんですかね、それに先輩、私より胸ないでしょう。ないよね、うん。


「それは……随分と酷い話ですね。奴隷は子供が大半でしょうし、民が知ったら信用もガタ落ちでしょう」


 でも本当は、こんな感情持ってはいけないんだよね。ジークはまだ甘い私のためを思って、話してくれたんだろうな。


「手段はお前達に任せるが、アベルタ商会は自殺に見せかける事をお望みだ。期限は一週間以内に遂行しろ」


「はい、お任せ下さい!」


 私が返事をするより先に、先輩が元気よく答えた、よほど自信があるんだろう、私としても安心できる。


 よし、足手纏いにならないよう、精一杯頑張ろう!


「エト。今度は、任務成功時に会えることを楽しみにしてるぞ」

「はい、私も情報を楽しみにしていますね」


 俺に会えることより、情報の方が楽しみなのかよと小声で言いながら帰っていった。 いや、当たり前でしょうに。


 と、同時に周りの気配も消えた。


「プハッーー。やぁっーと、生きた心地がするよ」


 先輩が大きく息を吐いた、こんな先輩でも案外、緊張してたらしい。


「先輩、ずいぶんと自信満々でしたね。何か策があるんですか?」


 私が期待のこもった眼差しで見つめる。だか、返答は私をげんなりさせるものだった。


「なんにも、無い!!」


  ハッキリ言いやがったな、こいつ。


「……じゃあなんで、あんな自信満々に言ったんですか!!」


「それは、周りの人達が怖かったから!」


 ――コイツ。私は拳を握りしめたが、なんとかこみ上げてくる怒りを抑え込む。


「で、でも先輩は数々の任務を成功させてきたんですよね? ならいつも通りにやれば……」


「それは、無理。僕、一人じゃないと本気出せない」

 

 この人は何言ってるんだろ、一人だろうが二人だろうが変わらないだろうに……やっぱりただの馬鹿?


「エト……心の声が漏れてるよ」


「はっ、しまった。声に出てましたか……」

「と、とにかく、何を言われても僕はやらないからね。エト一人でやりな、失敗したらすっごく怒られるだけだから、大丈夫だよ」


 うわ、すっごくやりたくない。それに先輩がなんだか怪しい。


「それのどこが大丈夫なんですか……分かりました。もう一人でやります、先輩なんか頼りません」


「うんうん。それがいいよ! あっ、間違っても任務の事、他の人に話しちゃだめだよ。これは一応僕達の任務なんだから」


「それくらい、わかってますよ。先輩じゃありませんし………ちょっとカッコいいと思ってたのにな」


「うん? 今何か言った?」

「なんでもありません。さようなら!!」


 私はドアを思いっきり強く閉めると、ターゲットのいるベルセイン商会へと向かった。


 道は覚えている、ターゲットの顔もよく見るから知っている。後はうまく処理するだけ。こんなの私一人でも十分だ。


 先輩なんか必要ない。


 この時の私は、暗殺者という職業を軽く見て、事に及び、後に大変な後悔をする事になるのを知らなかった。


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