普通のメイドだったけど王女を失って暗殺者になりました

〜世界最強の暗殺者になって、私から全てを奪った者達に復讐しようと思います〜
水篠ナズナ
水篠ナズナ

魔力欠乏症

公開日時: 2021年1月22日(金) 22:15
更新日時: 2021年9月9日(木) 22:38
文字数:2,285

「ジークが倒れたってどういう事ですか!」


「エト、とりあえず落ち着いて!」


 思わずイリアさんに掴みかかってしまい、「すみません」と言って手を離す。


「え、ジークが? うそ」


 先輩も先輩で大混乱中のようだ。


「とにかく緊急事態よ。ベルタさんが緊急招集をかけているからすぐに来て。いいわね?」


「は、はい分かりました」


 どこに集まるのかは言われなくても分かる。あの酒場だ。


 私と先輩は手早く準備を済ませ、集合場所へと向かった。


◇◇◇


 酒場にはベルタさんも含め、イリアさんやクロエの他、様々な顔ぶれが集まっていた。


 その中で、一際神妙な顔をして佇む男性を見つけた。


 話に聞くベルタさんだ。


「ベルタさんですよね?! あのジークの容態は?」


「え、アメリアちゃん!?――っとエトさんでしたか」


 一瞬、幽霊を見るような目でベルタさんが私の事を見てきた。


 だが、すぐに見間違いだと気付いたのだろう。


 ベルタさんは私の事を知っていた。そしてカトレアさんの話も合わせると私の母を知っている人物の一人でもある。


「私はお母さんじゃないです」


「すみません間違えてしまいました。ジーク様なら奥で寝ています。医者によると今は容態が安定していますが、いつまた発作が起きるかは分からないとの事です」


 ベルタさんによると、迅速な対応によって最悪の事態は免れたが、当分は絶対安静だという。


 ジークの様子がおかしかったのは前々から分かっていたけど、どうして急に……。


「ベルタさん。ジークの病気はなんなんですか? 教えて下さい」


「僕も知りたい」


 私たちがそう言うと、周りにいた他のメンバーも口々に詰め寄る。


「教えてくれよベルタさん!」

「そうですよ、私達は家族です。家族に隠し事はいけません」


「急にジークが倒れたって聞かされて本当に驚いたのよ」


「うん。イリア、すっごい驚いて変な動きしてた」

「クロエ。余計な事言わないで」


 イリアさんにクロエはごちんと頭を殴られる。


「痛い」


 クロエが頭を押さえてうずくまる。いつもの二人だった。


 みんなのジークの事を思う想いに、ベルタさんが折れてくれた。


「まあ、今更もう隠し通せませんか……本当は言わないようにって言われていたんですけれど」


 私たちはごくりと眉唾を呑み込む。


「……ジーク様は、魔力欠乏症なのです」


「「魔力欠乏症?」」


 先輩と私の声が重なる。


「文字通り魔力が枯渇し、本来の力を使えなくなる状態ですね」


 私とシズルが森で魔力を使い果たした時、全身から力が抜けて動けなくなったあれ? でもそれならこんなに酷い症状は出ない筈。


 そう思っていると、ベルタさんは話を続けた。


「ジーク様の場合は、それが永続して行われているの状態なのです。そしてそれでも足りない分をその命で補っている状態です」


「どういう事ですか?」


「ジーク様は若い頃に一度、魔力を極限まで高めた事がございまして、それにより魂を傷つけてしまいました。なので今のジーク様は、常に魔力が抜け出てしまっている状態なのですよ。実力は全盛期の10分の1程といった所ですか」


 え。それでも勝てる気がしないんだけど。ジークの若い頃ってどんだけ強かったの!?


「ねえ、それってやばいの?」


「やばいとは?」


 ベルタさんは先輩の質問に図りかねているようだ。


「命を使い切ったら死んじゃうの?」


「あーそういう事ですか。それに関して言えば、魔力を無駄に使わなければ、生涯無事に過ごせる予定です。魔力を無駄に使わなければの話ですが……」


「え、それって僕らを……」


 先輩が何か言いかけた所で、誰かに話を遮られた。


「喋り過ぎだベルタ」


 声のする方に向くと、医者に支えられたジークが戸口に立っていた。その顔は酷くやつれている。


「ジーク!」


「ジーク様!!」


「ギルドマスター!!」


 何人かがジークの所に行き、医者に代わってその体を支える。


 「大丈夫だよお前ら」と気丈に振る舞うが、その顔に余裕はない。


「ジークさん、ベルタさんの話は本当なんですか?」


「……今まで言えなくて悪かったな。ベルタが話した内容は、全て本当の事だ。若い頃は少しやり過ぎる事が多くてな」


 今はそのツケが来ているんだよ、とジークは苦しそうに呻く。


「ギルマス。そのお身体では作戦遂行は無理なのではないでしょうか。やはり依頼主に依頼を取り下げてもらわれては?」


 一人のメンバーの言葉に、ジークは首を振るう。


「いや、元々作戦を立てるのは俺で、実行するのはあの二人だ。だから――アルマ、エト。お前達が作戦立案を引き継げ。作戦会議にはお前達も参加する予定だったし、俺一人が抜けた所で支障はないだろう」


「支障ありすぎですよ!」


 ジークが抜けた穴が大き過ぎるよ!


「え、僕たちが……作戦の全てを?」


 あー言わんこっちゃない、先輩が思考停止しちゃった。


「そうだ。お前達が作戦の内容を詰めろ。必要な書類や協力者の名簿は渡しておく」


「え? うそ、本当に私たちでですか?」


「ジーク抜きで作戦を考えるの?」


「ああ」


 ジークに指名され、結局、私と先輩が主導で任務を行う事になった。ジークは再び、ベルタさんと共に奥の部屋に戻っていった。


 本当は立ち上がる事さえ辛いのだろう。


 それでも私たちの所に来て、任務を引き継がせてくれた。ならば、その期待に応えなければ。


「私たちも手伝うわ」


「ん。手伝う」


 この作戦には元々加わっていなかったメンバーも協力を申し出てくれた。


 本当にありがたい。


 先輩をみると、その目に生気が戻って来ていた。


「先輩頑張りましょうね」


「う、うん。そうだね、頑張るしかないよね。それにこれは僕の役目だし」


 先輩が「よーし! やるぞー!!」とグッと拳を握る。


 やっぱり先輩は小動物みたいで可愛かった。

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