こんにちは! カノン様の誕生日がニ週間後に迫っているため、だんだん睡眠時間が減っているエト・カーノルドです。
使用人総出で行う本格的な準備はまだ先だが、私は私で準備を進めていて、 ティナ様がケーキを作る事は無理そうなので私が空いた時間を使いミシェラさん達に聞きながら少しずつ練習していた。
一週間前になると、忙しくて自分の時間が取れなくなる事が去年でよく分かっているので、今年は三日後王族の人が全員会談で城を出るため、その時に作る事にした。
作ったらミシェラさんがしっかりと保存してくれるそうだ。
その日の側仕えは、フリーダ、ミザリー、ヨハンである。
会談場所は帝国と王国の国境で行われ、相手は帝国の皇族達である。 この間の件について話し合うそうだ。会談相手が敵国な為襲われる危険があるという事で近衛騎士団も全員ついていくみたい。
まぁ帝国もそんな馬鹿な事はしないと思うけど、カノン様によると帝国も身辺を守る兵士を連れてくるらしい。
お互い信用してないなー。
私はてくてくと歩きながらお目当の人物がいる所に向かう。 カノン様の伝言をお伝えする為だ。
剣がぶつかり合う音が聞こえてきた。 剣の音に混じって男の人の声も聞こえる。
ここは城の修練場だ。
ここでは兵士の稽古や鍛錬が行われていて近衛兵の人による指導のもと行われている。
カノン様の専属従者である、ヨハン、ライオット、レヴィリオスの三人もいて、執事のエリオ、マリウスは先輩執事の所で修行している。
今日の担当はレヴィリオスのようで、ヨハンとライオットの二人が組んで近衛兵の人と試合をしていた。
二対一だが近衛兵の人は随分と余裕があるようだ。 さっきから二人の攻撃は全てかわされている。
ヨハンが鋭く剣を振るい、後ろに避けた所を背後からライオットが槍で襲う。 近衛兵の人は後ろも振り返らず身体を反らしてかわした後、後ろ蹴りを叩き込んだ。
ヨハンが狼狽えた一瞬の隙に近づき首元に一発、気絶させられた。
後ろも見ずにかわす事が出来たのは、感覚が良いのと後ろから来ると読んでいたんだろうなぁ。 近衛兵恐るべし。
一方気絶したヨハン達も普通の人に比べたら強いはずなんだけどやっぱり近衛兵の人は別次元ね。 ヨハンに近づいた時、速すぎて目で追うのがギリギリだったもの。
近衛兵の強さは王国一の戦力だが、問題は絶対数が少ないという事だ。
昔は八十人程いたらしいが大戦によってその数が三十人弱になってしまい、少し増えた今でも四十人程しか居ない。
信用できて強い者しかなれない為、人が集まらないんだろう。
私は近衛兵と互角に戦っている金髪の美しい青年に目を向けた。
第一王子のアレン様だ。 王子様が汗水垂らして剣を振るっている姿は滑稽に思う人もいるかもしれないが、王国の王族はお飾りではないのだ。
いざという時に自ら前に立って戦わなければならない、なのでそれ相応の技術を身につける為、日夜修練に励んでいる。
他にも芸術や政治、ダンスなど様々な事を覚えなくてはならないので、並みの者よりも遥かに忙しいのだ。
近衛兵とアレン様はさらにスピードを上げて斬り合いを始め、他の者もみな二人の戦いに見入っている。
アレン様の相手である近衛兵は大臣であり、近衛騎士団団長のドレット・アルヤスカ様である。
アルヤスカ様は文句なしに近衛兵の中で一番の実力者だ。
ヒュン、ヒュン、カッ、カッ、二人の剣がぶつかり合う。 アレン様が一気に懐に踏み込む。全力の突きだ。
アルヤスカ様は落ち着いてアレン様の手元を狙い、木刀を振った。 アレン様の木刀が宙を舞う。 アルヤスカ様がアレン様の首筋に木刀を突き立てた。
「中々良かったがここまでのようだな」
「そのようですね、流石は師匠です」
アレン様は参ったと両手を挙げた。
普段の剣の稽古はアルヤスカ様に教えてもらっているようで二人は師弟関係なのだという。 アルヤスカ様が昔から王族に仕えているのもあるのだろうけど。
「アレン様お疲れ様です。 今日は一段と激しかったですね」
私は人波を押しのけなんとかアレン様の元に辿り着いた。
「エトちゃんか、そうだね今日も良い稽古が出来たよ」
「アレン様、その呼び方はやめて下さいと言いましたよね」
「ごめん、ごめん、そんな怒った顔しないでくれよ、ティナが会うたびにエトちゃん、エトちゃんというからすっかり僕にもうっかり浸透しちゃって……」
はははっと青年は笑ってみせた。
冗談じゃない、こんな色んな人が見てる中でそんな呼び方しないでほしい。女の子に言われるのと男の人に言われるのじゃ全然違うんだからね。
ほら、そばにいる専属メイドの顔が怖い、怖い。 露骨に嫌な目で見られてる。
「いつも、ティナの面倒を見てくれてありがとうね、おかげであの子の放浪癖も少しはマシになったよ」
「あ、はい。メイドとして当然の事をしたまでですよ。 それとアレン様には陛下から呼び出しがかかっているのですぐに向かって下さい」
「父様から! 分かったすぐに向かおう」
アルヤスカ様に一言礼を言った後、パタパタと上着を持ってアレン様は修練場を出て行った。
さて、用も済んだし私も戻りますかね。 私も戻ろうとした時アルヤスカ様に止められてしまった。
「エトといったか。今、暇だったら一戦してみないか?」
はっ? この人何言ってんの。私はメイドでか弱い女の子ですけど。あぁ、そうか冒険者モードの先生みたいなタイプか。
「私などでは相手になりませんよ」
「そんなのやってみないと分からないだろう。 それにカノン様の護衛兼メイドなら少しくらいは強くないとな。 実力を試すいい機会だ。」
やってみなくても分かるからいってるんですよ、そして断りにくい言い方しないでください。
その後ヨハンを入れて二対一で行う事で話がついた。
ごめんよヨハン、犠牲になっておくれ。
「そっちから、かかってきていいぞ」
私もヨハンも本気で戦うとなれば前衛なのでとりあえず全力で当たりに行くことが作戦となった。
この人相手に小細工は効かないだろうし、向こうも小細工なんかするきもない。お望み通り真っ向から挑んでやるよ。
試合の形式は魔法や能力はアリだということなので……。
「雷剣!」
私は自分のお気に入りである魔法剣を生み出した。 私のような固有能力がないと同じようなものは作れないので、これは私のオリジナルの武器だ。
「おお〜」
「あれが魔法剣か……」
「俺、あんなに光る剣初めてみた」
「流石は専属メイドだな」
まぁ私のは光っていると言うより、雷が絶えず流れているだけなのだけれど。
ヨハンの武器は一般の剣に色々魔法を付与しているようだ、おそらく威力や耐久を高める魔法を重点的につけているのであろう。
私達の準備は整った。
アルヤスカ様の武器は木刀のみだ、木刀では私の魔法剣やヨハンの剣でも余裕で折れるはずだか……相手が相手だそもそも斬り合いが出来ないかもしれない。
「始め!!」
試合開始の合図の直後に私とヨハンは走り出し、一気に距離を詰め斬りにかかった。
「「はぁぁぁぁっ!!」」
私達の刃が目前まで迫ってもアルヤスカ様は動こうとしなかった。
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