チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね
北きつね

第七話 能力の開花

公開日時: 2020年9月1日(火) 07:00
文字数:3,273


「長。それは・・・」


ヒューマが、俺の言葉を遮るように、長に質問をする。


「ヒューマ。儂が、リン様と話をする。黙っていろ」


ヒューマが頭を下げて一歩下がる。

長が俺の前まで歩いてくる。


「リン様。ヒューマが失礼した」


「許す。それで、俺のジョブとスキルだったな」


「はい」


長が俺の顔を覗き込むように見る。

鋭い眼光とかではない。なにか、眩しいものを見ているような目つきだ。


「ジョブは、”動物使い”だ。ユニークスキルに”動物との会話”がある。スキルに”言語理解”もある」


「おぉぉぉ・・・」


長は、泣き崩れるように、跪いた。


『おい。ロルフ。どういうことだ?』


『マスター。解ると思いますか?』


俺の肩に戻っているロルフからも困惑している雰囲気が伝わってくる。


『なんとか出来ないか?』


眼前に広がる光景だけでもなんとかして欲しい。本気で思う。爬虫類顔した長が泣きながらひれ伏している。それだけなら、俺が逃げればいいが、徐々に近づいてきている。


『無理です』


ロルフが当てにならないのなら、別に人物を頼るしか無い。


「ヒューマ!」


「リン様。ご容赦ください。長には何か考えがあるのだと思います」


「ない!絶対にない!」


長は、俺の名前を呼んでいる。涙声で、よく聞き取れないが、確実に俺の名前を連呼している。


「長。わかったから落ち着け。何がなんだかわからない」


「リン様。長はこの状態です。少しだけ、本当に、少しだけ時間を・・・」


「わかった。ヒューマ。長が落ち着くまで、待っている。この場所を使っていいのだよな。寝ていないから、少しだけ横になりたい」


「はい。問題はありません。この場所には誰も近づけさせません」


「助かる」


ヒューマが、引きずるように長を連れて行った。


「なぁロルフ。俺のジョブは珍しいのか?」


「”動物使い”ですか?珍しいとは思いますが、今までいなかったわけではありません」


「そうか・・・。俺も、”動物使い”の本質というか、どういうジョブなのか理解出来ていないのだけど・・・。ロルフは知っているのか?」


「いえ、ジョブの内容までは知りません」


「そうか・・・。長が元に戻れば、解るだろう」


「はい」


「ロルフ。悪いけど、少しだけ寝る」


「わかりました。マスター。おやすみなさい」


マヤ・・・。ミル・・・。


---


「マスター!マスター!」


「ん・・・。猫か・・・」


「マスター!猫型精霊のロルフです!」


「あっ・・・。そうだった!精霊だと言いはる猫だ!」


俺は、泣いていたのか?

ロルフに問いかける声が泣いているような声になっている。


「違います!猫の形をしていますが、精霊です!」


「わかった。わかった。それで、ロルフ。何かあったのか?」


「マスターが、魘されて、おりましたので・・・」


そうか、魘されていたのか・・・。夢を見ていたのか?


「そうか、覚えていないけど、夢見が悪かったのかもしれないな」


「はい」


「ロルフ。どの位、俺は寝ていた?」


「2時間ほどです」


「ヒューマを呼んできてくれ、長も落ち着いただろう」


ロルフが、部屋の様な場所から出ていって。

5分くらいしてから、ヒューマと長を連れて戻ってきた。やはり、ロルフを上位者のように振る舞っている。


「リン様。先程は取り乱してしまって・・・」


「大丈夫だ。それで、俺のジョブやスキルがどうした?」


「はい。リン様は、鑑定をお持ちですか?」


隠してもしょうがない。それに、長は俺が鑑定を持っているのが前提のような口ぶりだ。


「ある」


「ご自分を鑑定して、体力と腕力を覚えてください」


///真命:リン=フリークス・マノーラ

///ジョブ:動物使い

///体力:80

///魔力:80

///腕力:70

///敏捷性:50

///魅力:190(+250)

///魔法:外(2)


「わかった」


「その後で、ヒューマの額に手を置いて、真命を持って、次のようにお唱えください」


何かの儀式か?

確認をしたいのだろう。言われたとおりにする。


「我、リン=フリークス・マノーラが名を与える。汝は、ヒューマ」


何も起こらない。


「リン様。もしかして、真命が違うのでは?」


長からの指摘で思い出した。

真命は”神崎凛”だ。


もう一度、ヒューマの額に手を置いた。


「我、カンザキリンが名を与える。汝は、ヒューマ」


ごっそりと身体から何かが抜けた感じがするが、耐えられる。

ヒューマの身体が水色の霧のような物に覆われる。


「我は、ヒューマ。カンザキリン様に絶対の忠誠を捧げます」


ん?忠誠?どういうことだ?

ヒューマはヒューマだろう?


水色の霧が晴れると、ヒューマが跪いていた状態で、俺を見上げている。

今までは、爬虫類が少しだけ人型になった印象だったが、人に近づいた印象がある。それだけではなく、今までになかった、小さな翼が背中に生えている。


「・・・。おぉぉ!」


長がまた壊れたのかと思ったが、違っている。今度は、喜びの表情を浮かべている。


「長。どうなっている?力が、身体の奥底から湧き出ている。なんだ?これは!?」


「リン様。ご自分を鑑定してください」


「わかった」


///真命:リン=フリークス・マノーラ

///ジョブ:動物使い

///体力:80(+10)

///魔力:80

///腕力:70(+15)

///敏捷性:50(+2)

///魅力:190(+250)

///魔法:外(2)


「え?」


「リン様。ステータスに補正がかかったのだと思いますが?」


「あぁ長。説明してくれるのだよな?」


「もちろんです」


「リン様。”動物使い”のジョブは、初代様と同じジョブなのです」


「ん?初代?」


「はい。魔王であり、トリーア王家の初代国王です」


「ちょっとまってくれ、初代国王のジョブは”皇帝”ではないのか?そう教わったぞ?それに、魔王?」


「はい。それは、リン様と同じように、偽装された物です」


「・・・。話を続けてくれ」


身体のちからが抜けていく感じがする。眠気が徐々に強くなっていく。

今はまだ寝られない。話を聞いてスッキリさせたい。


「はい。その前に、リン様。我らたちリザードマンやゴブリンやコボルトが”名”を持つ意味はご存知ですか?」


「ネームドと呼ばれて、1段も2段も強くなる」


「間違ってはいませんが、正解ではありません」


「ん?」


「”名”には、二段階があります。リン様の父君が行った、ヒューマという名付けは、”名を与えた”だけです。しかし、我らは”個”が有りません。人のように、個人という認識はないのです。しかし、”名を得る”と”個”が産まれます。それに寄って力が増大するのです」


「そうなのか・・・」


「はい。それが1段階目の”名を持った”状態で、人が”ネームド”と呼ぶ者たちです」


「それで?」


「”動物使い”が行う名付けは、魂に結びつきます」


「結びつき?」


「はい。リン様。ヒューマから力の流入は、ありませんでしたか?」


「体力と腕力と敏捷性に補正が入った」


「それが、2段階目の”名付け”で、本来の姿です」


「状況は理解したが、誰にでも出来るのか?」


「2段階目は、”動物使い”にしか出来ません。初代さまも何度か実験をおこないました。2段階目は、上位種への進化が行われます」


「それで、ヒューマの姿が変わったのだな」


「はい。今は、急激な進化で昏睡していますが、半日もすれば起き上がってきます」


「そうか。長。お前にも、”名”があるよな?初代につけてもらったのか?」


「はい。私の”名”は初代様から頂いたものです」


「もうひとつだけ教えてくれ、”名付け”に何か条件があるのか?」


俺のステータスに補助がつくのは解った。

ヒュームのように絶対に忠誠を誓ってくれるのなら味方は欲しい。魔王と呼ばれても構わない。マヤと過ごせるのならそれもいいのかもしれない。


「リン様。”名付け”は双方の意思確認が必要です」


「そうか、要するに意思を確認して、俺から”名”を貰う意味を理解させなければならないのだな」


「そうお考えください」


「わかった。ありがとう」


さすがに、力が抜けていく感じに耐えられなくなってきた。

ヒューマにそれだけ力を奪われたのだろうか?


『ロルフ。駄目だ・・・。眠い。もう一度、寝るから・・・。頼む』


『はい。マイマスター』


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