魔法少女の育成戦記

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第四話 智景、自室にて

公開日時: 2020年9月12日(土) 18:46
文字数:1,871

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 アル、焔、楓恋が仲良く談笑している一方で、智景は自室で調べ物に没頭していた。

 持ち運びが便利な薄型のノートパソコンを開き、オーソドックスなブラウザを使って検索をかけている。

 タブは二つ。

 一つは、聖学院の公式ホームページ。誰でも閲覧できるサイトであり、有名な人物の紹介が載っているページを開いていた。

 マギステルともなれば、高位の魔法使いである証拠であり学院の自慢でもある。学院の顔と言ってもいい。紹介されていないわけがない。

 担当しているクラスのランクとして、AからFまでのアルファベットが各マギステルの下に表記されている。予想通り、アルの画像はFの上に貼られていた。

 しかし、そこは問題ではない。重要なのは、画像に組み込まれているリンク先の情報だ。



 氏名:アルヴェルト


 ランク:


 紹介:



 「氏名」以外が空欄だった。紹介欄はともかくとして、魔法使いとしてのランクすら表示されていないのはありえない。

 入学したばかりの智景でさえ、Fのランクが与えられている。魔法使いとして活動している者、活動を試みている者に必ず与えられるのがランクである。

 聖学院に在籍している生徒で、ランクのない者などいない。

 試しに、智景はページを戻ってAクラスのマギステルの画像をクリックする。



 氏名:柊刀華


 ランク:A


 紹介:生徒会副会長も担っており、近接戦闘を得意とする。



 紹介文が簡素なのは仕様みたいなものの、やはりすべての欄が埋められている。

 そもそも、彼は「アルヴェルト・ラクウェル」と名乗っていたのを思い出す。

 なぜファーストネームしか書かれていないのか。謎だらけであった。


 考えられるのは二つ。

 一つは、紹介できない内容である場合。

 ランクがB以下であったり、紹介内容もロクなことが書けなかったりであれば納得ができなくもない。

 もう一つは、学院側に圧力がかかっている場合。

 何かしらの事情を抱えてこの学院に在席していたり、過去に何かをやらかしてたりした場合、彼の素性に辿り着かせないためにあえて情報を制限しているのであれば、これも納得できなくはない。ただし、不可解である事実は変わらない。


 続いて智景は、もう一つのタブを開く。有名な検索エンジンである。

 そこに、「アルヴェルト」と打ち込んでみる。検索結果は数十万にも及び、ほとんどがゲームのキャラクターだった。

 「アルヴェルト・ラクウェル」と打ち込んでも、結果はほとんど変わらなかった。試しに「柊刀華」で検索すると、過去の実績とファンサイトまでもが結果に出てくる。

 マギステルほどの人物が、検索結果に一件も(すべてを確認したわけではないが)引っかからないというのはおかしすぎる。意図的に削除されているとしか思えなかった。


 魔法が発達しているとはいえ、情報化社会であるのは変わらない。

 むしろ魔法のおかげで、魔法による情報プロテクトなども発達してきている。その中で一切の痕跡を消すなんてことはとてもできない。


「意味が分からないわ。隠し事だらけじゃないの」


 マギステルほどともなれば、隠し事の一つや二つはあって当たり前でもある。

 しかしアルの場合、存在そのものが幻のように感じられてしまう。“アルヴェルト”という名称すら嘘なのかもしれない。

 しかも西洋人風の名前なのに、顔はモロ東洋人の顔つきをしていた。


 この学院は、いわゆる国立大学に相当する。

 政府の認可下にあり、潜在能力だけで入学ができるのは、日本だとこの学院ともう一つの学院のみ。

 魔粒子の発生源が日本であることから、日本の魔法使いが圧倒的に強い。そのため、日本政府が世界を掌握しつつあった。

 そんな理由もあり、海外から留学、さらには国籍をわざわざ変える人も大勢いる。

 現に、この学院の三割は西洋人だ。そのため、アルが西洋人でもなんら不思議ではない。顔つきも、ハーフであったり遠縁に東洋の血が混じっていたりであればありえなくもない。

 しかし多くのことが謎に思えると、そんな些細な疑問にすら邪推してしまう。


「でも、信用は問題じゃない。重要なのは実力と指導力。私が生きるためには、なんとしてでも強くならなくちゃ」


 智景には焦りがあった。

 誤って人を殺した時、これからの人生に絶望を感じているのと似た心境かもしれない。

 もしくは、親友を助けるために走るメロスと似た心境なのかもしれない。

 とてつもなく大きな絶望感と焦燥感を抱えて、智景はこの学院に臨んでいた。


 だけどこの際、担任の正体なんて忘れよう。自分がこの学院に入った目的は強くなるためなのだからと、智景は強く自分に言い聞かせた。

 そうでもしなければ、未来に絶望しそうであったから。 

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